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91 一難去ってなんとやら

そう言えば昔、弓で船を沈めた人が日本に居ましたね。

主人公は魔法を使ってズルをしているので為朝さんには遠く及びません。

 町にて。


朝、町の酒場でメッセを呼び出す。


「一旦終わりました」


「はい、お聞きしております」

「何やら遠距離から弓で船を沈没させたとか、海賊の拠点を文字通り潰したとか・・・」


メッセは顔をしかめつつ言う。


「ハイ、海の影響で気分が悪かったので魔法でごり押しました」


「海の話は存じておりましたが、」

「まさか、あなたも同じ症状が出てしまうとは・・」

「でもその状況で船を沈め、拠点を潰すとはさすがでございます」


メッセが賛辞の言葉を送って来る。


「ありがとう」

「他には御用はありますか?」


海以外なら、なんでもござれだ。


「あぁ・・」

「実はもう一つございまして」

「ちょっとややこしい話なのですが・・・」


メッセは言い難そうに説明を始める。


――事の発端は数およそ数か月前。


町から南西方面にある山脈の片割れとこの町の間。

そこに山がある。


その山から恐ろしく狂暴な魔物が出没するようになった。

狂暴な魔物が山を下りて大暴れするようになり、

近くにあった村はいとも容易く全滅し怪物のエサとなった。


その時は屈強なハンター達がどうにか狩ったらしいが、

被害は甚大で町に常駐していたゴールドクラスの半数が犠牲となり、

残りの半数も再起不能となった者が多数いた。


しかし危機は去った――と安心したのも束の間。


次々と別の超狂暴な魔物達が山から出現し続けている事が分かった。

さあどうしたものかと町の支配者達は秘密裏に調査依頼を出した。


依頼先は東方の鬼人族の国に居る魔術師。


俺が魔境の森で狩を始める少し前に来て森の調査を開始したらしい。

その魔術師がつい昨日、森の調査と報告を終えたらしい。

そして一泊して今日帰るとの事・・・


「調査の結果、狭間からこの世の者ではない魔物が出て来ているらしいです」


ハザマ?って異世界とつながる門みたいな感じか?


「彼女は一時的に魔術で魔物達を抑え込んでいると仰っていました」

「しかし、いまだ解決には至っていないらしいのです」


彼女って事は鬼人族の魔術師は女なのか。

まぁ、どーでもいいや。


「でそれの解決を俺にして欲しいと?」


「いえ、彼の有名な魔術師が解決出来なかった事ですので、」

「そこまで高望みはしません」

「もし可能なのであれば解決して欲しいという事です」


その魔術師をかなり高く買っているようだ。


「わかった」

「ハザマ?ってどんなのか聞いたか?」


「ええ、異界とつながる狭間と仰っておりました」

「なので現れる魔物も異界の邪悪な生物ばかりらしいです」


「異界とつながるハザマか・・・」


全力でやればどうにかなるか?

分からんな・・・

とにかく色々試してみよう。




 紫苑


――時は遡り。

鬼人族の国の魔術師が依頼を受ける少し前の事。


頭頂部に大きな耳と9本の尾を持つ女性が布団から起き上がる。


「んーーーー!」


彼女は唸りながら伸びをする。

そして目を擦りながら周囲を見回す。


ここは普段寝ている部屋で、畳に襖に障子がある和室。


起き上がり布団を畳んで片付ける。

そして顔を洗い朝食を作って食べる。 


朝食づくりは尻尾を自分の分身に変えて作業を分担する。


庭が見える畳の部屋に座ってのんびり食べる。

いつも通り誰も居ない家でいつもと同じ様な朝食を一人で食べる。

母が死んでから数百年近く一人で暮らしてきた。

なので今更何とも思わない。


食後は趣味の薬草研究か魔術研究をし、

休憩がてら買ってきた冒険や恋愛物語の本を読む。


家は豪華ではないが綺麗に掃除されしっかり手入れもされている。

一人暮らしには広い内装で庭も広いがとてもきれいな家。

和風の建築で屋根は藁。


家の広さのせいで余計に孤独感が目立つ。


でも今更な話だ。

孤独を感じて色々と藻掻いた事もあったがどうにもならなかった。


この世界で永遠にこの孤独と付き合わなければならないのだ。


――私は父の業を背負い生まれた。


父は遥か昔にこの国の国土の7割を消滅させた複数の尾を持ちドラゴンすら喰らう獣だ。

父は千年前の大戦時、悪魔と魔王に与して戦ったが、

鬼人族と人間と天使達総出で退治された。


話を聞いた限りでは死体は見つかっていないらしい。


そんな化け物と普通の鬼人族との間に私は生まれた。

私が生まれたのは父が退治された後の事で父も顔も知らない。


そんな父なので母は隠れて私を育てた。


大きくなった私はただの獣人として育ったが、

成長し私の尻尾が増えるにつれて人々は私に父の面影を見るようになった。

私は成長すればするほどこの国で恐怖の対象となった。


しかし私や母は父ほど話の通じない相手では無い。


だから鬼人族のリーダ達は条件を出した。

母と私がこの国に住むための条件で、

一つ目は大人しくしている事、

二つ目は依頼を受ける事。


これを守っている間は私は彼らに退治されないし、

生活に必要な金も依頼の報酬として貰える。


か弱かった私とただの鬼人の母にとってはうれしい条件だった。


そうして私と母は幸せに暮らせると思った。

しかしそううまくは行かなかった。


私と母は二人で人里から離れた丘の上に住むことになった。

指定された家でひっそりと暮らした。

母は私を人里に降りてはいけないと言った。

だから私は依頼をこなす時も大きな耳と大きくて沢山ある尻尾を隠した。

何故母が私にそうしろと言ったのか?


――それはすぐにわかった。


私は人々に憎まれていた。

私は人々に恐れられていた。


正式にこの国に住む許可が出た。

だからやっと友人が出来るかと楽しみだった。


そんな事を考えていた当時の私にとっては、とてもつらい視線だった。

そんな事は関係ないと一度だけ友人が出来た事があった。


とても嬉しかった。


でも彼女は同じ鬼人族にいじめられて、

ひどい目に合わされて殺された。


それから私は友人を作らなかった。


唯一の心の拠り所は母と母が時々読んでくれていた物語だった。

とてもワクワクしてドキドキする冒険と恋愛の物語だった。


しかし母は鬼人族で私は違う、だから寿命も全く違う。

母は百年も経たずに死んだ。


死ぬ前に母はこういった。


『いつか皆から受け入れられる時が来るから、

 その時まで諦めてはいけないよ』

と・・・


私はその言葉を胸に今までここで生きて来た。

未だに人々は私を憎み、恐れ、嫌う。


そんな私は色々な物語を読み未知の冒険に心躍らせ、

甘い恋物語に胸をときめかせる事が数少ない楽しみだ。



――そんなある日の事


私は魔術や薬学を学んだ。

その他にも千年近く蓄えた知識がある。


そんな私の力を頼って鬼人族の連中が頼み事をしに来る。

この依頼を受けなければ鬼人族が総出で私を殺しに来る。


面倒だが、頼み事を解決するだけで静かに暮らせるのだ。

別に文句は無い。


世界を旅してみたいと思う事も有るが、

そんな事をすればこの唯一の居場所が無くなってしまい、

母の遺言も破ってしまう事になる。


今日も鬼人族の小童が依頼と言う名の逆らえない命令を持ってきた。


鬼人は鬼と人間の血が混ざった種族だ。

だが、鬼の様な二本の角は無い。

人間よりも大きな体格で骨格はがっちりしていて力も強い。

眼と髪の毛は黒く、顔立ちはエステラ王国の人とは異なっている。


目の前の男の服装は袴で腰には大小の刀を帯びている。


「西方の王国に属する町より依頼が届いています」 

「彼の王国は現在厄介な状況に陥っていますので、」

「くれぐれも刺激しない様にお願いいたします」


あくまでも他人行儀で眼も合わせてこない。

そして依頼を持ってくる者は毎回変わる。


私は鋭い五感と高い魔力の感知能力によって、

常に目の前の相手の心を大まかに読むことが出来る。


その気になれば考えや記憶を詳細に読むことが出来るのだが、

そんな事をすれば相手の気持ち悪い思考まで読んでしまう。

なので、よっぽどの事が無い限りはしない。


依頼を持ってきた目の前の男は私を下等で邪悪だと見下しつつ恐怖を抱いている。

この国ではこんな考えの者しかいない。


「招致いたしましたわ」

「向かうのは私だけでございますか?」


紫苑は業務的に淡々と質問する。


「はい、今の王国の現状を考えても複数の鬼人で向かうべきではありません」

「可能であれば明日にでも出発していただきたいです」


鬼人の男も淡々と答える。


「急ぎの御用ですの?」


「左様でございます」


「招致いたしました」

「では本日中にでも出発いたしますわ」


その後、鬼人はお辞儀をして急いで去って行った。


紫苑は早速旅に必要な物資を当然の様に異次元にしまい込む。


複数の尾を手や触手の様に自在に操り物資をまとめる。

唯の尾では無く伸縮自在で太さも形もある程度自在に変わる。

そんな尾が9本、成長するにつれて尾が増えて行った。


我ながら不思議な生態だと思ったが、父が父なので特に疑問は無い。


――そして旅装束に着替えて出発する。


紫苑の髪の毛や耳や尻尾は黒。

光に照らされると紫に美しく輝く。


耳は二対人間と同じ位置に一対と頭頂部にも一対。

五感は鋭いが中でも目と耳と鼻は別格に鋭い。

父の影響なのか、魔力の感知能力や操作技術も遥かに高い。


だからこそ好きでもない相手と一緒に居るのは苦痛だったりする。

嫌いな声、嫌いな臭い、嫌いな姿、嫌いな魔力を常に感じて居たくはない。


街道は進まない、人とは会いたく無いので森の中を進む。

動物や魔物達を眺めたりして楽しみつつも急いで向かう。


向かう先はウォーウッドの町。


普段部屋に籠ってばかりだが、父譲りの人並み外れた体力がある。

だからその気になれば風の様に早く走る事も出来る。

魔法で体を強化すれば、さらに早く走れる。


そうして急いぎ町に向かう。

突如出てきたこの紫苑とか言う女、

一応ヒロイン(仮)です。

覚えてね。

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