52 昇格試験
早速試験です。
領主の館を出てハンター協会に向かう。
ハンター協会の食堂で水とチーズを頼み脳みそを休ませる。
「ハァーー」
目を瞑ってぼーっとする。
考えるのは苦手だ。
疲れた。
アンナは俺にさえも実名と身分を隠した。
それによって、アンナが姫様だと解った者は『彼女が身を隠している』と察する事が出来る。
察することなく近寄った者はアホか、もしくは敵だとわかる。
実際にそれを察したのか勘違いしたのかは分からないが、
領主のダニエルさんは俺を姫の護衛か何かと思った。
そして王都の知り合いに姫様が安全だと伝え、アンナと俺達を放置した。
だから姫様に関して一切騒ぎが起きていないんだろう。
『事実』と『聞いた話』と『推理』が混じっているがおおよそはこんな感じだろうと思う。
これって、俺が身元の不確かなハンターだとバレたらどうなる?
俺だけでなくダニエルさんも一緒に処されませんか?
そうなったらアンナさんは俺をかばってくれるのかな?
そもそものただの姫様であるアンナさんに俺をかばうだけの力があるのかな?
何か色々心配になってきた。
クラーレンさんは当てに出来るのかもわからない。
何か王都に行きたくなくなってきた。
「ハァーー」
またため息を吐く。
結局推理が合っているかも分からないし考えるだけ無駄かな?
案外お礼を言われて終わりって可能性もあるし。
いざとなれば逃げて性別を変えればどうにでもなるかな?
一旦考えるのを辞めよう。
チーズをムシャムシャ食べながら水で流し込む。
チームの皆は依頼をこなしているのでここでぼーっとしていれば会えるはずだ。
ぼーっとしていると知らんおっさんとポリンちゃんが近寄ってくる。
「少しよろしいですか?」
ポリンちゃんがそう言って二人共俺の返事を待たずに正面の椅子に座る。
疲れてるから難しい話は別の日にして欲しいんだけど・・・
「今は俺しかいませんがそれでよければどうぞ。」
「そちらの方はどちら様?」
なんか厳ついおっさんが黙ってこっちを見ている。
ここの職員っぽいけど初めて見た。
「初めまして、ハンター協会ヴェスバルト支部の支部長フューリーだ。」
よく見ると誰かに似てる気がする?
誰に似てるんだ?
そう言えばここの町って一応ヴェスバルトって名前だったな。
「初めまして、アイアンクラスのヒロです。」
支部長さんの事は初めて見た。
「話は色々なところから聞いている。」
「息子も世話になっているらしいな。」
「息子ですか?」
「ああ、教会の司祭をしているフランクと言う男だ。」
「え!?息子さんだったんですか?」
「そうだぞ。知らなかったのか?」
知らんわそんなの。
「確かに少し似ているかもしれませんね。」
「はっはっは、少しか!」
「確かに私より妻に似たからな!」
「奥さんは確か貴族区の教会勤めですよね?」
ん?貴族区の教会?
この前ダニエルさんと行った時最初に出てきた女性!
誰かに似てると思ったけど、フランクに似てたんだ!!
まあそんな事どうでもいいか。
「それで、息子さんの件ですか?」
俺は頭を切り替えて質問する。
「いいやそうでは無い。」
「すでに聞き及んでいるかもしれないが、昇格の件だ。」
「あーその事ですか。」
「うむ。」
「昇格するには条件を満たした上で試験をする決まりだ。」
「条件はひとまず問題なく満たしている。」
「次に試験だがブロンズは文字を読めるかどうかと戦闘の試験だ。」
概ね聞いていた通りだ。
「わかりました。」
「その試験は何時行いますか?」
読み書きは我々のチームの新人でなければほぼ皆出来る。
戦闘の試験はどの程度を要求されるのか分からん。
「今日の朝にお前以外の皆が来たのでさっさと試験して置いたぞ。」
「試験を受けた者は皆合格だ。」
「はやっ!!」
思わず声を上げてしまう。
「簡単な試験なのでさっさと終わらせた方がいいだろ?」
「まあ、確かに・・・」
「で、今からお前にも同じ試験をする。」
「わかりました。」
俺がそう言うと、依頼表の様な物を数枚テーブルに出してきた。
「これを読め。」
俺は出してきた依頼表を隅から隅まで読んだ。
「ふむふむ、合格だ。」
「これだけですか?」
「そうだ、読むだけだしな。」
「普段の仕事に困らない程度読めればいい。」
「次は戦闘試験だ。」
「今、訓練場に武器を持ってきてくれ。」
「わかりました。一旦武器を取ってからすぐに行きます。」
「ああ、訓練場で待っているぞ。」
って事で大斧と和弓を持って腰に刀を差して訓練場に向かう。
弓はいらなかったかな?
訓練場にて。
「隊長!」
アーロンが居た。
いや皆いるぞ?仕事は?
「サボってんのか?」
さぼりは良くないよ。
「いや・・・」
「隊長が来ると聞いて待っていたんですよ。」
皆は俺の言葉にビビり、アーロンが返答する。
「そうか!待っててくれたのか!」
「ありがとう。」
「ちょうど今俺達の試験が終わった所なんですよ!」
時間かかりすぎじゃ?と思ったが、試験を受ける面子は10人だっけ?
そりゃ時間が掛かって当然か。
「それで?」
「お前のメインで使う武器は何だ?」
フューリー支部長が質問してくる。
「薙刀、刀、弓、格闘、犬、馬です。」
「一応槍と棒と小刀とかナイフ系も行けます。」
俺がそう言うと支部長は真剣な顔つきになる。
「犬と馬は置いておくとして、本当に全部使えるのか?」
「はい、どれを使ってもオーガ十数匹程度殺せます。」
それを聞いた仲間たちは少しあきれた様子だ。
「オーガ数千匹の間違えだろ?(小声)」
「多分現実味を持たせるために少なく申告してるんですよ!(小声)」
「なるほど!そう言う事か!(小声)」
カールとアンナがひそひそ話をしている様だ。
ていうかよく見たら仲間たちの中にフランクも交じっている。
試験時の怪我を直すために呼ばれたのかな?
「わかった。」
「では何を使ってもいいので俺と手合わせをしろ。」
「お前が負けたとしてもちゃんと戦えていれば合格だ。」
なるほど?
特定の魔物を狩ってこいとかじゃなく手合わせで良いんだ!
「ブロンズから正式にハンターとしての身分が得られる。」
「それに伴いアイアンにはない、人との戦闘も依頼に入ってくる。」
「だからこそこの試験なのだ。」
わざわざ丁寧に説明してくれる。
「わかりました。」
「アンナ!合図を頼む。」
そう言って俺はいつもの大斧を両手で構える。
「普段は肩に適当に担ぐのに!!?(小声)」
アーロンが少々驚いている。
それもそうだ。
今回の相手は多分マックスと同等かそれ以上の気配を感じる。
フューリー支部長は剣の腹を上に向け切っ先をこちらに向けるように両手で自分の頭付近に構える。
対して俺は大斧を両手で中段に構えている。
「では行きます。用意・・・はじめ!」
アンナの合図と同時に俺は大上段に振り上げ一気に距離を詰める。
目の前に迫った瞬間、支部長は目を見開く。
「!!」
俺は大袈裟に振り下ろす。
ガキィン!!
支部長は何とか剣で受けるが受けきれず体勢を崩しつつ俺から見て左側に避ける。
俺はすぐさま振り下ろした大斧を回転させるように石突部分で打撃を加える。
さすがは支部長だ、崩れた体勢からどうにか剣を引き戻しそれをガードする。
ガキィィィン!
ボキィ!!
金属音と何かが折れたような音が聞こえてくる。
しかしこの一撃は魔法なしの全力だ。
ガードした支部長ごと数メートルほど吹き飛ばす。
ズサァァ。
膝を付きながらも体制を立て直す支部長。
さすがだ。
今の一撃は一般人の脇腹が簡単に抉れる威力。
「おいおい、殺す気か?」
支部長は愚痴を言っている。
周囲の仲間達は絶句している。
いやいやお前ら普段から見てるだろ?
てか、さっきの一撃で大斧の柄が真っ二つに折れた。
木製だし耐えきれなかったのも当然だ。
俺は真っ二つになった大斧を支部長にぶん投げる。
ブン!!
ものすごい風切り音と共に支部長の顔面に飛んでいく。
支部長はどうにか反応出来たようで斧の部分を弾く。
しかし、すでに俺は支部長の目前に迫り、抜刀と共に刀を喉に優しく当てる。
支部長の実力をもっと見たかったがマックスの時とは違い試験なのである程度全力で戦った。
「降参だ。」
支部長は剣を捨て両手を上げる。
すると周囲から声が上がる。
「おおー!」とか「すげー!」とかなんとか。
普段の訓練で俺と手合わせしてるので別に珍しい事は無いはずだろ。
それに支部長とは試験で戦ったんじゃないのか?
俺はゆっくり静かに納刀する。
そしてお辞儀。
ついつい癖が出ただけです。
「ありがとうございました。」
「うむ。」
そして俺はどっかに飛んでった大斧と柄の切れっ端を拾ってくる。
アンナは俺を見て「勝っちゃった・・・」と言って呆然としている。
勝っちゃダメだったのか?
「全員俺が負けると思ってたのか?」
俺がそう言うと皆一気に静まりかえる。
「図星かよ・・・」
この反応はさすがに凹んじゃうな。
フランクが近寄ってくる。
「そう言うわけではなく、父に勝った事に驚いているのだと思いますよ。」
フランクが言う。
「フューリーさんに?」
俺は聞き返す。
「はい!父はかなり名の知れたハンターでしたのでそもそも負ける前提の試験ではないんですよ。」
「あー、なるほど?」
「しかもあそこまで一方的に父に勝ってしまったので驚くのも無理はないと思いますよ?」
フューリー支部長も近寄ってくる。
「正直最初の一撃でブロンズどころかゴールドクラスの強さだと感じたよ。」
支部長は手をプルプルさせながら言う。
「試験なのでまじめに戦っただけです。」
なぜか俺がやり過ぎた空気感なので弁明しておく。
「俺を遥かに凌ぐスピードとパワーだ。」
「俺程度では技術を図る事は出来ないな。」
と支部長さん。
確かに技術ってよりはスピードとパワーでゴリ押した感じだ。
薙刀じゃなくて大斧なのだから、それは仕方ない。
やっぱり大斧を薙刀と全く同じようには使えないのだ。
薙刀が欲しい。
「そうは言ってもあなたも全力じゃないでしょ?」
多分この人は身体強化とかを無意識に使っちゃうタイプだと思う。
だから全力で気合を入れて戦う事で身体強化が無意識に発動するんだろう。
試験程度じゃ本気になれるわけがない。
「本気でやり合えばお前を退屈させずに済んだかもな。」
「ただそうなると軽い怪我じゃ済まなくなるだろ?」
「それもそうですね。」
見た目以上に冷静な人の様だ。
「で?手加減した支部長殿に負けたのはどこのどいつだ?」
「名乗り出ろ!」
俺は仲間たちに怖い顔で問い詰める。
「「「え!?」」」
皆が戦慄する。
そして恐る恐る試験を受けたであろう面子が全員手を上げる。
「は?」
俺は怒った。
「この手加減した老いぼれ爺一人倒せなへなちょこ野郎共がこんなに居るのか!!」
さらに声を荒げる。
「その豆腐みてぇにぷるっぷるな根性は俺が叩き直してやる!!」
傍から見れば理不尽で情緒不安定なブチ切れ男である。
「全員整列!!」
「ハイ!」
俺がそう言うと仲間たちは毎朝やっているように整列する。
「テメェ等みたいな雑魚は体力作りからやり直しだ!!」
「走れ!!お前らの根性があげ豆腐くらいになるまでだ!!」
「ハイ!」
全員恐怖の表情を浮かべて返事をしてから走り始める。
「さすがに老いぼれ呼ばわりは傷つくぞ・・・」
フューリー支部長がそう言う隣でフランクがクスクス笑っている。
「ご一緒にいかがですか?」
「ありがたい申し出だが。こう見えて忙しいんだ。」
「すまないな。」
支部長は全然悔しそうじゃない顔でそう言う。
「そうですか。」
「ひとまず他の面子はブロンズの最下位ブロンズ3だ。」
「そしてお前は俺に勝ったことだし実力を認めてブロンズ1にしておく。」
何と!?
「そんな簡単に3から1にランクを上げてもいいんですか?」
俺が質問するとポリンちゃんが答える。
「アイアンクラスからブロンズクラスへの昇格は正式な支部長の手続きが必要です。」
「しかしクラス内でのランク昇格はクラス昇格より簡単にできてしまうんですよ!」
「おー、なるほど!」
クラス昇格は正式に試験などを経て行われるが、ランク昇格は気分でやってるっぽい?
「とはいえ簡単に上げていい物でもない。」
「ここまで一方的に負けてしまったからこその措置だ。」
「ありがとうございます。真面目に試験をやった甲斐があります。」
それを聞いた支部長とポリンちゃんは呆れた表情になる。
「真面目にやらない可能性があったのか・・・」
口が滑った。
「フューリー支部長の実力をもっと見てみたかったって事ですよ。」
「そう言う事か。」
「言われてみれば、私は何もできずに終わってしまったわけだな。」
支部長さんは悔しそうに言う。
「また別の機会に再戦を申し込みたい。」
「こちらこそ機会があればお願いします。」
って事で支部長さんと少し仲良くなった。
「しばらくここで訓練するのなら、新しいハンター証と認識票はポリンに持ってこさせていいかな?」
「はい、お願いします。」
って事で、フランクと支部長とポリンちゃんは訓練場を後にする。
俺はチームの連中のケツをぶっ叩きながら走ってハンター証の完成を待った。
しかし意外とすぐに完成したので走り込みはそこまでとなった。
「じゃあこの後は普通に依頼をこなしますか。」
俺。
「すっ、すこし休憩をください。」
全員ゼーゼー言ってる。
かなり速いペースで走らせたから仕方ないな。
その後、少し休憩していつも通り依頼をこなした。
で、やっぱり昇格祝いをしたいと言う事で皆で豪華な料理と酒でお祝いをした。
何かわからん歌と俺が普段何となく歌ってる歌も皆で歌ってバカ騒ぎしてた。
よっぽど昇格がうれしかったらしい。
もちろん俺は酒が苦手なので遠慮した。
どうやら一般的にアイアンは仮採用の様な感じらしくブロンズになってようやく正規雇用というか、
ようやくハンターとして認められたって感覚らしい。
そりゃうれしいわけだ。
つい最近まで町のチンピラ集団だったのに今ではちゃんと仕事してんだから。
因みに支部長さんとの戦闘試験は全員多少粘ったものの一撃も入れられずに負けたそうだ。
アーロンが一番惜しいところまで行ったらしいがやはり戦闘面はまだまだの様だ。
皆ハンターとしてようやく二本足で立てるようになったってレベルだろうか?
やっぱりこのままこいつらを置いて王都に行っていいのかどうか・・・
まあどのみち貰った家とか折れた大斧を直したり色々やる事がある。
なので今すぐ王都に行くわけではないからまだ少し時間がある。
それまでに色々手を打っておこうか。
と言っても俺の代わりの師匠をもう少し探しすってだけだ。
一番いいのは支部長さんだけどやっぱり忙しいかな?
ぼーっと考え事をしながらバカ騒ぎしている輩を眺める。
そしてバカ騒ぎの後は皆さっさと寝る。
アイアン、ブロンズ、シルバー、ゴールドはクラス。
ブロンズの1、2、3はランク。
と分けてます。
例えばブロンズクラスのランク1。
みたいな感じです。




