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カナリアは、もう啼かない!  作者: 愛章
2章 地下の国の、カナリアたち
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燃やせばいいのよ、こんなもの(1)

いよいよ地下へ……です。

 ユーリアを挟んで、地下通路を進むサラとユア。

 ほどなく、横穴のある部屋に辿り着く。

 人工的にくりぬかれた、地下へと続くトンネル。

 高さ、横幅、ともに人間ひとり通り抜けられるサイズ。

 凹凸が無く、全体的に湿気ていて、滑りやすい構造。

 そして、部屋の隅に積まれた木棺……。


「これ、さっきの……」

「……でもって、ここがその投入口ってわけね」


 サラが横穴の闇を覗く。


「見たところ、カーブを描いて落ちていく感じかしら。どれくらいの深さがあるの?」

「……知らないわよ」


 答えたのはユーリア。

 口こそ塞がれていないが、手元は粘着物で拘束されている。


「ちょうど棺も余っていることだし、あんた試しに落ちてみる?」

「嘘なんてついてない。本当に知らないのよ!」


 青ざめるユーリア。

 表情こそ真に迫るものがあるが、サラは全く信じていない様子。


「治療と称して集めたカナリアを、地下でアニマに造り替えているのはもう分かっているし、あんたも認めた。なのに地下の事は何も知らないなんて、誰が信じるの?」

「あたくしは院長補佐で、カナリアの回収は任されているけど、アニマ製造については管轄外。知ることも見ることも禁じられているの」

「まぁ、いいわ。本当かどうかなんて、地下に送りつけたら分かることだし」

「話が違う! 地下は極秘なの! 踏み込んだだけで殺される!」

「言い訳なら、あんたがこれまで放り込んだカナリアたちにしなさい」


 口元に向けて鞭を振りかぶる。


「あの、サラちゃん……ユーリアさん、嘘はついていないと思います……」


「……分かってるわよ」

 サラが鞭を下ろす。

「ちょっと脅しただけ。こいつが地下を自由に行き来できるなら、最初からこんな半端な場所で襲ったりしない。逃げ場の無い地下に誘い込んで、その場であたしたちをアニマにすればいいだけ。どっかのバカ猫みたいにね」


「……ネロ様……」


 今にも泣き出しそうなユアと、恐怖でひきつっているユーリア……。

 双方の額にサラは渾身のデコピンを食らわせ、深いため息をついた。


「いい。ハッキリしていることはただ一つ」


 横穴に鞭先を向ける。


「この先に居るのはグリム。カナリアを集め、アニマを製造するだけでなく、地下から地上の人間を操作する、正真正銘の化け物よ」


 ……グリム。

 取りついた黒い穢れが、宿主の肉体と精神を食らいつくし、そのものに成り代わることで、意思を持つという、まさしく穢れの塊。


「……あんたたちは、本当にグリムじゃないのね?」


 未だ信じられないといった表情で、ユーリアが二人の黒い穢れに目をやる。


「あんたもしつこいわねぇ……」

「普通の人間は地面を割ったりしないし、尻尾も生えていない! なのにグリムじゃないとか、信じられるわけないでしょ!」

「違いを説明しろって言われても、難しいですが……とにかく、私はユーリアさんに成り代わりたいとか、一ミリも思っていませんし、危険があればちゃんとお守りしますので、どうかご安心下さい」

「…………それはそれで腹立つ」

「何でっ?」

「――――あなたの気持ちなんてどうでもいい。私はあなたを信用できないし、あなたの存在が私にとって邪魔なのは変わらない。でも…………」

「その話は地下の化け物をどうにかしてから。あんたも、その一点で協力すると約束した。仲間の保護にも尽力する。相違ない?」

「……えぇ」声を潜め、ユーリアはカナリアたちを睨みつける。「あなたたちが生きても死んでも、あたくしの失脚は免れない。アニマ製造は教会の要。ここでは教会の規律と地下の怪物が絶対なの。あたくしはどこかの間抜けな偽者みたいに抹消されるつもりはない。だから、地下の怪物を殺しなさい。あなたたちの狼藉は、あたくしが責任を持って収拾する。いい、これは対等な取引よ?」

「つくづく態度のでかい人質ね」

「協力者と呼びなさい。一時的に過ぎないけれどね」

「でも、ユーリアさんらしくて良いと思います」

「ま、役立たずの人質よりはマシね。いつ裏切るか分からない、って意味では同じだけど」

「あなたたち次第よ。怪物を殺すまで目的は同じ。あなたたちは仲間を、あたくしは立場を守るため。そこから先の話なんて、今はするだけ無駄よ」

「なら、ここからはあたしの指示に従ってもらうわ。時間が惜しいから、今のうちに知っていること全部話しなさい」


「……ココ……ネロ様……それに皆さん、待っていて下さい」

 黒く穢れた手のひらを、地の底に向けてユアは呟く。

「私たちが、必ず助け出してみせますから……」


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