燃やせばいいのよ、こんなもの(2)
………………と、いったやり取りが、おれの居ないところで行われてたようだ。
おれと奴隷は尻尾で繋がっている。
伝わる情報の精度はこちらが上だが、奴隷もおれの位置や状況はおぼろげに察知しているだろう。
……ミノムシのごとく、簀巻きにされて宙吊りになっていることまでは知らないだろうが……。
とにかく、おれが拘束されてまともに通信もできない状態なのは、伝わっていた。
『……人形が二体とも捕まった……』
細長い影が、糸を伝っておれの耳元でささやく。
『ほぉ。まんまと逃げられたわけだ』
『……逃げたところで出口など無い。向かう先は同じ墓場……』
『で、それまでおれはこのままというわけか?』
『……カナリアは大切な資源だ……グリムの下僕であろうと、無闇に傷つけるつもりはない……』
『…………』
『……もっとも、抵抗するならその限りではない……』
トンネルの出口。
地上との連絡通路にある横穴の落下地点。おれが、ウサギとともに転がり落ちた場所……。
白い膜に覆われた穴の奥から、トンネルの壁面をこすりつけながら、何かが近づいてくる。
物音は複数。
それもかなりの数。
速度を増し、こちらに近づくにつれ、振動と騒音は膨れ上がる一方。
白い膜を突き破り――。
開いた出口から大量の棺が飛び出してきた。
『……これは……』
横穴のある部屋で見た木棺の山……。
出口に棺を受け止める仕掛けがあると読んで、その全てを一斉に地下へと放り捨てたのだろう。その数、およそ二十。
二つ三つ程度ならキャッチしたであろう結界の膜も、重さと衝撃に耐えかねてすでにその原型は無く。
棺の群れが、轟音を立てながら、トンネル出口を埋め尽くしていく。
「…………」
そして、沈黙。
互いにぶつかり合いながらも、そのほとんどは壊れもせず、しっかりとフタが閉じられたまま。
元々、生きた人間を閉じこめ、地下へと放り込むために造られたもの。並の木棺より頑丈に設計されているのだろう。
ゆえに、開けてみないことには中身が分からない。
『……白猫……あなたの下僕はどこに潜んでいますか……?』
『おれの拘束を解いて、直接探らせるなら当ててやろう』
『……仕方ないですね……』
巨体が、動く。
地中深くに縄張りを構えているだけあって、一切の物音を立てない足運び。優美さは猫の足元にも及ばないが、器用さはさすがと言ったところ。
木棺の山を前に足を止める。
直接触れようとはしない。
奴隷の一撃を警戒しているのだろう。
そして、近づかなくても木棺を探る手段が、やつにはある。
「…………」
尾から放たれた粘着物が、棺の山を覆う。
棺の中に潜伏しているであろう奴隷たちを、逆に出られなくした。
仮に抜け出せたとしても、粘着物に巻き込まれて身動きが取れなくなる。
今の、おれのように……。
『……出てきなさい……かくれんぼの時間はお終いですよ……』
糸のように幾本も細く伸びた影が、棺の中へと潜り込む。
穢れで出来た糸に攻撃性はないが、影が通るほどの隙間さえあれば、どこへでも入り込み、どんなものにも侵入する。
たとえそれが人間でも。
潜り込んだ糸は、肉体だけでなく、精神さえも侵し、支配下に置く。
やつはそうやって、これまで棺の中に閉じこめられたカナリアたちをコントロールし、難なくアニマへと造り替えてきた。
だが――。
『――これは?』
棺の隙間から、細く立ち上る白煙に気付いたその瞬間。
積み重なった棺が、一斉に燃え上がったのだ。




