首さえ通ればどんな隙間にも入れます(2)
僧服どもの死角を縫うように、おれとウサギは修道院内の奥へと進む。
やがて見つけた通風孔から、地下へと入り込めた。
抜けた先は、倉庫のようだった。
樽や木箱やらが積まれているだけで、目ぼしいものは見当たらない。
『真っ暗なのに、視えるんですか?』
振り返るおれを見て、ウサギがびくんと耳を立てる。
宿主から頂いたおれの目は元から碧いが、今はより深く光っているのだろう。
『ウサギは夜行性のはずだ。見えなくても、匂いや音でおれの位置は分かるな?』
『……って言われても、ウサギ歴短いですから。自信ないです』
『ここまで付いて来られるなら問題なかろう。ところで、きさまの身体についてだが……どうだ、少しは近づいている感覚はあるか?』
『う~ん……特に近づいている気はしないですけど、離れてもいない、って感じですかね?』
『やはりもっと潜る必要がある、か……』
『――さらに地下があるってことですか?』
『声の感覚からして、百メートル以上はあるだろう』
『ひゃく? 都の修道院も地下は一階止まりでしたよ?』
『ならば、確かめるまでだ』
地下から響く声。
風の流れ、空気の匂い。
辿っていけば、通風孔へと行き当たる。
猫やウサギを通すためではなく、地下にいる何者かのために空けた孔。
『……ぁ』
通風孔の出口を前に、ウサギが立ち止まる。
身体との距離が近づいたためだろうが、他にも何かを察知したらしい。
警戒しながら、外へと顔を出す。
目で見るより先に、匂いや音で周囲を探る。
虫や小動物はともかく、とりあえず生きた人間やそれに準じる生命は居ないようだ。
広い部屋だった。
地下倉庫と違って、全て人の手で造られたものではなく、もともと在った地下空洞に手を加えたものらしい。あちこちに、自然の岩が露出している。
それ以上に特徴的だったのが、部屋の隅に積まれ、並べられた木箱だった。
数はざっと二十ほど。
多少の誤差はあっても、全て同じ形、同じ寸法で作られている。
全て、人間ひとり収納するのにちょうどいいサイズ感だった。
『きさまの身体も、ここに在ったのか?』
『……そうだ、あたし……この中に入れられて……それから……』
ウサギが、耳を立てて闇の奥に目を向ける。
部屋には続きがあった。
ぽっかりと開いた横穴。
通風孔よりも大きなそれは、紛れもなく人間が通り抜けられるためのもの。あるいは、木箱に詰めた人間を、向こう側へと運び出すために空けられたものだろう。
行き着く先が死であるなら、さしずめ箱は棺といったところか。
たとえ中身が生きた人間であったとしても……。
『この奥で間違いないな?』
ウサギは珍しく神妙な面持ちだ。
記憶も混濁しているようだ。本体にしか知りえない情報を口走っているのが、その証拠である。
横穴をそっと覗き込む。
中はカーブを描く下り斜面。
足元は凹凸の少ない、湿り気を帯びた岩肌。
一度滑り落ちれば、道具無しではまず這い上がれないだろう。木箱に詰められた人間など、もっての他である。
カーブの向こう側の闇がどこまで続くのかは分からないが、今のところ道は一つだけ。
踏み込む前に、奴隷たちの様子を確認する。
位置は修道院の一階。奥の部屋へと案内されているようだ。今のところ、変装も解けていない。
現状、こちらから奴隷を操る必要は無い。伝言だけで十分。
『行くぞ』
横穴を前に怖気づくウサギの背を押し、後を追うようにおれも中へと飛び込んだ。
そして――。




