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カナリアは、もう啼かない!  作者: 愛章
2章 地下の国の、カナリアたち
40/46

首さえ通ればどんな隙間にも入れます(1)

ネロ様たちと別れました…

 教会病院。

 コリョウ修道院の別名である。

 もちろん、扱う患者は一般的な病人ではない。

 カナリアのように、すでに穢れたもの。また、その兆候のみられるもの。

 北部開拓地全域の患者が真っ先に送られるのが、ここ教会病院とも呼ばれる、コリョウ修道院である。

 修道院と教会。

 どちらも同じ教会組織によるものだが、おおまかに大別すれば、前者はカナリアの住処、後者は一般信者も参拝できる聖堂といったところ。

 だが、穢れた孤児や病人を収容するための医療施設が修道院の原点ならば、コリョウ修道院は未だにその色合いを強く残している場所らしい。

 ユアたち奴隷どもは、都の修道院にて共同生活を送り、そこでカナリアとしての使命を学んだようだが……コリョウ修道院では、そういった教育は一切行われていない。

 ここは、病院。

 カナリアもそうでない者も関係なく、必要に応じて患者を受け入れ、治療を行うための施設。

 ゆえに、修道院でありながら、行き交う人間どもが身につけているのは黒い僧服ばかり。少なくとも出入り口付近には、白いローブ姿の人間は一人も見当たらない。

 自由を持たないカナリアにとって、ここは鳥カゴですら無いらしい。

 死に損ないならばなおのこと、ふさわしい場所に隔離されているはずである。

 さて……それは一体どこか。

 黒い僧服に案内される奴隷どもを物陰から見送りながら、おれはウサギに問いかける。


『どうだ? 何か感じるか?』


 ウサギの身体に取りついた黒い穢れ。

 その本体がコリョウ修道院にあるのは間違いない。

 建物の外からも感じていた、無数の声が建物内部ではひしめき合っているのだ。

 おそらく、『治療』を受けたものたち……そのいしずえとなったカナリアどもの声だろう。

 この声が、生きている人間のものか、あるいは残響なのか……数が多すぎて、判別するのも面倒だ。

 確実な繋がりを持つものを利用しない手は無い。


『う~ん……何か変です』


 ウサギは腕組みしながら、あたりをキョロキョロ見回す。

 還るべき身体の存在を感じていながら、うまく位置が掴めないといった様子。


『何となくでいい。とにかく言ってみろ』

『……ネロさん、言っても怒らないですか?』

『食事と眠りと遊びの邪魔さえしなければ、猫は怒らん』

『じゃあ、言いますけど…………多分、ここじゃないです』

『……どういうことだ?』

『いや、何となく離れた気がするんですよ。町に入るまでは、あたしの身体に近づいてる感覚がしたんですけど……ここは、どうも違う気がします』

『ふむ……建物に入る前はどうだった?』

『さぁ……近づいてる気はしてたんですけど、そうでもなかったみたいな……本当、何となくなんで、具体的なことは全然分かんないです』

『……だが、この町にあるのは確かだな?』

『それは、まぁ……あたしはそう思いますけど……どの辺にあるのかまでは、全然……』


 嘘をついてる訳でも、適当を言ってる訳でもないだろう。

 本体との結びつきがあるとはいえ、ウサギの身体と感覚で、正確な位置を割り出せるなど、最初から期待していない。

 この町のどこか……情報はそれだけで十分。

 そして、それはこのコリョウ修道院において他に無い。

 ――加えて、探すべき場所が建物内だけとは限らない。


『……地下だな』


 踏みしめる板張りの床は、みしりと重い音が鳴るだけ。

 だが、ここで集めたカナリアを素材にアニマを製造しているのなら、相応の空間が必要だ。

 人間を収容し、加工し、保管する。

 この三点だけでも、かなりのスペースを使うはず。アニマの製造が教会の極秘事項なら、なおのこと。

 聖職見習いや外来の行き交う地上階をいくら探しても見つかるわけがない。

 …………ここは丘の上。もっとも高い場所に建っている。

 その理由は病人を町の人々から隔離するためだけではない、ということか…………。

 目指す方向さえ分かれば、声の発生源を探り当てるなど容易である。


『――こっちだ。付いて来い』


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