……ローブは預かってもらいました(2)
……ちょっと緊張します。
コリョウは都と北部開拓地を結ぶ中継都市である。
ヒトとモノの出入りを優先しているためか、町を囲む防壁は無い。
代わりに丘を削ることで出入りを制限している。斜面を囲む防柵は、害獣対策であって、ヒト相手には効果が薄い。
とはいえ、無理に乗り越えれば立派な不審者である。目下のところ、街道から町に入るのが無難だろう。
壁がなければ門が無いのも当然だが、町への出入り口付近は厳重に防柵が張り巡らされている。傾斜がゆるいためだろうが、こちらは人間を含めた対策だろう。
当然、見張りも居る。
また、櫓も設置されているため、問題が起こればすぐに町の四方に連絡が行き渡るだろうが、それらは基本的に害獣対策の延長である。
夜間を除けば、町の出入りは自由。
農民、商売人、芸人……おれたちの前を行く連中は、見張りと軽いあいさつを交わすだけで、荷物を調べられることもなく、ほとんど素通りで町の中へと進んでいく。
「ごきげんよう」
彼らに続いて、奴隷が笑顔を振りまく。
見張りの一人はあいさつを返すだけだったが、もう一人が呼び止めた。
「――何か?」
「失礼。そっちの連れは、どういった理由で……」
言葉を濁す見張りに、奴隷はにっこりと微笑み返す。
「あぁ……それもそうですね。大丈夫、皆様にご迷惑をかけるつもりはありません。ただ……このところ、症状が重くなっていますので……兄弟たちの手をお借りする前に、やって参りました次第です。……そうですね?」
奴隷が杖を鳴らすと、サラは頷き、おずおずと見張りを見上げる。
白目の無い、眼球まで真っ黒な左目。
他に言葉は必要なかった。
見張りは汚物を見るようなしかめっ面で、
「――お引止めして申し訳ありません。修道院の場所はご存知ですよね?」
「まっすぐお伺いしますので、ご心配なく。お勤めご苦労様です」
「あんたもな」
通りに入り、修道院へと繋がる角を曲がり、周囲に見張りや町の人間の気配が無いことを確認してから、奴隷は大きなため息をついた。
「……き、緊張しました……」
「大げさね。ほら、背中が曲がってる。杖だってボロいんだから、もたれない。あんたは今、名実共に聖職見習いなんだから、もっとビシッとしなさい」
「あうぅぅ……サラちゃんのほうが、よっぽどそれらしいです……」
「残念ながらあたしは生まれも育ちもご立派様じゃないの。言葉は繕えても、あんたみたいなお上品な笑顔はできないわ」
『…………』
「……ところでネロ様。予定通り修道院で別れるとして、その後私たちはどうしたら?」
『きさまらはきさまらで、勝手に中を散策すればいい。どうせきさまもそのつもりで同行しているのだろう、サラ?』
「あら、意外ね。反対しないんだ」
『不自由なカナリアの身では、行動範囲も限られているだろうからな。いざという時は、壁でもぶち抜け。外のライラが助けてくれるだろう』
「……ネロ様、それは非常事態すぎるのでは……」
『では、そうならないように行動するのだな。問題がありそうなら報告しろ。待つのも、狩りの基本だ』
町のはずれ、丘の最上部。
コリョウ修道院の門を、奴隷が叩く。
修道院を囲む、塀の周りに見張りは居ない。
必要ないのだろう。
ここへ自ら好んで近づく人間など、一人も居ないのだから。
「……どちら様」
黒い僧服の女が顔を出す。
「治療の申請に参りました」
奴隷が深々とお辞儀をする。
「平和のため人々のため、姉妹が与えられた聖なる奉仕を続けられますように」




