……ローブは預かってもらいました(1)
コリョウの町へ…
カナリアに自由は無い。
聖職者なので拘束こそされないが、勝手気ままに出歩く自由は無い。
住民のため、カナリア自身のためにも、第三者の監視無しに住処の外を出ることは、基本的に許されていない。
そんなワケで、これまで人目を忍んで旅をしてきたわけだが……。
おれとウサギだけならともかく、カナリアである奴隷どもを連れて大きな町に入るとなると、さすがに監視役が必要だ。
日常的に、修道院などの教会施設に隔離されているカナリア。
教会の所有物であるカナリアを管理するのも、教会の役目である。
これは主に、役職を持たない見習いが受け持つそうだ。開拓村ならば、司祭付きの助手がその担当だった。
このルールはどの町や村でも変わらないらしい。
実際、動けなくなったココを回収しにやってきたのも、コリョウの聖職見習いたちである。
つまり、聖職見習いが一人でも居れば、カナリア連れでも堂々と町に入れるということだ。
カナリアを除く聖職者は、全て黒の僧服を身につけている。
司祭のような役職持ちは、赤や金の刺繍が入っているらしいが、一般の聖職見習いは無地の黒一色を纏うよう義務付けられている。
その程度なら、簡単に化けられる……。
「――ネロ様が――というか、尻尾が服に?」
おれは奴隷の尻尾を引き伸ばし、奴隷の全身と指先を包む、黒い僧服へと姿を変えた。
この尻尾はおれが植えつけたもの。おれはこれと同化できるし、自在に操れる。
服に形を変えるなど造作もない。
「へぇ、意外とそれっぽいじゃない。これなら一発で見破られる心配は無さそうね」
一方のサラは、懐にウサギを隠している他は、いつもの白いローブ姿。長旅であちこち汚れているが、問題ないだろう。
白一色のローブを着用することは、カナリアの義務であると同時に、その者がカナリアであることを意味している。
『あたしもネロさんみたいに変身できたら良かったのになぁ……』
ユアさん頼りないし……と、聞こえるようにウサギが呟く。
「猫の服なんて絶対着たくないし、あたしまで変装したらややこしいじゃない。それに、この顔だけは隠せないんだから」
サラの穢れは左目を中心に広がっている。
フードをかぶり、伸ばした前髪で隠したところで、黒く変色した皮膚と真っ黒な眼球は誰の目にも明らかだ。
「サラちゃん…………」
「見習い連中はあたしをそんな風には呼ばないし、そんな顔もしない」
「――――うん」
『…………』
「まぁ、台本はてきとーに考えておくとして……ところでネロ、この服あんたが分離したらどうなるの?」
『愚問だな。これは奴隷の尻尾だ。おれが抜けた程度で、形状が崩れることはない』
「へぇ……あんたの尻尾って、わりと便利よね。艶もあって、いい肌触り。ねぇ、どんな着心地?」
「スースーして心もとないです。重さも感じないから、肌着一枚で居るみたいで……これ、ローブを下に着ちゃダメなんですか?」
『かさ張るから却下だ。裾や足元でバレたらどうする?』
「…………分かりました。なんだか恥ずかしいですけど、頑張ります」
『あと、非常時以外は両手を使うな。変装が解けるからな』
「はい、分かり――?」
「ユア一人の力だと、尻尾は変形できないってこと?」
『元はおれの尻尾だからな。形状維持はできても、奴隷に操作はできん。まぁ、あくまで非常時の話だ』
「そうね。非常時なら仕方ないわね」
「あっ、あるに決まってるじゃないですかぁぁ!」
夕暮れの街道を、一人の聖職見習いと、それに従う一人のカナリアとして旅人に混じり、おれたちはコリョウを目指した。




