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カナリアは、もう啼かない!  作者: 愛章
2章 地下の国の、カナリアたち
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絶対に真似しないでください

 日が昇る頃には森を抜け、まっすぐコリョウを目指す。

 本来なら荒地を迂回するため、近隣の村から街道に入るのがセオリーだが、薄汚れたカナリア三名に、武装犬と、ウサギという構成は、どうにも悪目立ちが過ぎる。

 ならば、荒地を抜けるのみ。

 コリョウと北部開拓地の間には、穢れたまま放置された荒地がいくつか点在している。

 穢れが土壌深くにまで浸透し、沼と化した地域。こういった場所は、植物型グリムのテリトリーである。

 この荒地の支配者は樹木らしい。

 元が何の樹だったのか、遠目では分からないし、知ったところで意味は無い。それはすでに、成り代わっている。

 霧ただよう沼の中心に、ずんどうの、やたら枝を横伸びさせた、真っ黒い樹が一本。

 葉はもちろん、一つの花もついていない。しかし、枝先には粒々の黒い実をつけている。

 光合成を必要としなくなった身体で、この生き物は足元の養分だけで生きている。それは水、そして土壌に含まれる、穢れである。

 風に揺れた枝先から、実がいくつか落ちた。覗かなくても分かる。中身は、穢れの塊だろう。

 この地に他のグリムは居ない。が、沼の中心には穢れの影響を受けた動植物が潜んでいる。

 中心部を避けて、荒地を横切るだけなら手出しはしてこないはずだが……しばらくは、背後をひたひたと追いかける、何かの気配には付きまとわれた。

 ……コリョウを見上げる平原に辿り着いたのは、昼下がり。

 ここから先は身を隠す場所もない。街道に入って町に向かうか、あるいは夜が更けるまで待つかの、二択である。


「……もう二度と荒地には入りたくないです」


 足元の泥を落としながら、うっすらと霧を張った黒い並木道を見下ろす形で、奴隷は草むらに腰を下ろした。


『安全かつ最短の道、だったではないか』

「えぇ、分かっていたわよ……。荒地なんて、普通は誰も近づかないし、通るなんて考えない。穢れたあたしたちには好都合。でもね……あそこまでヤバいなんて知っていたら、絶対に近づいたりしなかった。あぁ……見るんじゃなかった……」

『私も……まだ変な声が聞こえている……あの樹、何だかよく分からない言葉でずっとぶつぶつ呟いていて……ううう……』

『皆さん、どうしちゃったんですかぁ? はむはむ』

「――ちょっとココ、なに食べてるの!」

『え、草?』

「すっ、捨ててください! 危ないです!」

『平気ですって。あたし今、ウサギですから』

『いや、そういう問題じゃなくって――』

「こんな場所の得体の知れない雑草、あんたよく食べられるわね!」

『ん? まぁいけるかな、って?』

「いけるわけないでしょ!」

「お願いです、人間に戻ってきて下さい!」

『ココ……あなたの適応力には引くほど驚いているし、ウサギ姿も可愛らしいと思う……でも、あなたは人間なのよ。それだけは忘れないでちょうだい』

『…………ネロさん、あたし何か悪いことしちゃいました?』

『中身はともかく、きさまの身体はウサギそのものだ。食事内容に問題は無い』

『ですよねぇ。この身体、本当すぐにお腹がすいちゃってすいちゃって……ところでそれ、おいしいですか?』

『やらんぞ』

『分かってますって。あたし今、草食ですから』

『――で、どうだ。きさまの本体はあの町にあると思うか?』


 丘の上にそびえる町を見上げながら、ウサギは喉を鳴らした。


『そうですね……多分、あるんじゃないですか?』

『確かか?』

『まぁ……何となくですけど』


 確信は持てないようだが、こればかりはココの感覚頼みだ。

 いずれにしても、あの町を調べることには変わりない。


『おい、きさまら。遠巻きに見てないで、こっちに来い。作戦を伝える』


 コリョウは中継都市だけあって、ヒトの出入りも多い。

 潜入そのものが難しくないとはいえ、動物を連れたカナリア三人で乗り込むのは非現実的だ。

 なので、チームを二つに分ける。

 一つは潜入組。おれとココは絶対に外せない。同行する人間は、奴隷であるユア一人居れば十分だろう。

 残りは支援組。こちらはライラが担当する。通信役のライラには、万が一に備えて町の外で待機してもらう。犬はもとより町中に連れて行けないので、ライラの護衛だ。


「――あたしは?」


 話の途中で、サラが名乗りを上げる。


『知らん。好きにしろ』

「どういうことよ、それ。あたしを置いていくつもり?」

『……きさま、常日頃おれの命令は聞かないだの言っているではないか』

「――――っ」

『それとも何だ、仲間ハズレは嫌か?』

「ちがっ――そ、そんなんじゃないわよ! あたしはあんたを信用していないだけ。それとこれを一緒にしないで!」

『…………何がどう違うのかは知らんが、付いてくるなり、居残るなり、勝手にすればいい』

「い、行くに決まっているでしょ! あんたらだけに任せておけるわけないじゃない!」

『ほぉ、きさまおれに付いてくるつもりか?』

「何よ……勝手にしろって言ったの、あんたじゃない」

『言ったが、同行する以上はおれの命令に従ってもらう。少なくともあの町を出るまでは、奴隷のように従え。それが、きさまたちと、ココの身体のためだ』

「……………………」

『約束できないのなら別に構わん。きさまは外で大人しく――』

「――分かった、今だけよ! 命令は聞く。けど、言いたいことは言わせてもらうからね」

『……まぁ、いいだろう。下僕の意見を聞くのも主人の務めだ。おれの命令に絶対服従するのなら、他はどうでもいい』

「~~~~~~~~っ」


「でも、サラちゃんが付いて来てくれるのはとても心強いです」

 奴隷が尻尾を立てて、サラの手を取る。

「一緒に頑張りましょう」


「別に…………居残ってもライラの邪魔になるだけだもの。それに、あんた一人送り込むなんて、気が気で仕方ないわ」

『じゃあ、あたしは当面サラさんに運んでもらえばいいですか?』


 ウサギが奴隷を押しのけ、サラの肩に飛び移る。


『見つからなければ何でもいい。どうせ町中に入れば、おれと修道院に忍び込むのだからな』

「いたた…………ネロ様たちだけで大丈夫ですか?」

『管轄外の修道院内を、きさまらが自由に歩けるわけがない。しかし、猫とウサギには人間の規則や見張りなど通用しない。まぁ、任せておけ』


『コリョウ…………』

 ライラが丘の上の町を呼ぶ、

『ここからじゃ聞こえてこない…………もっと近づけば私の声、向こうにいるココたちにも届くのかしら…………』


『時と場合によっては、きさまにも動いてもらう。それまで、きさまは町全体の様子を観察しろ。犬から絶対に離れるなよ』

「……グルル……」


 言われるまでもないと、犬がおれを睨みつける。

 おれを同じペットか何かだと、相も変わらず勘違いしているらしいが……犬は人間に隷属するが、猫は人間を隷属させるのだ。

 付いて来た以上、きさまも奴隷ども同様、こき使ってやるから覚悟しておけ。


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