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カナリアは、もう啼かない!  作者: 愛章
2章 地下の国の、カナリアたち
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涙の夜(1)

 よく殖えて、よく死ぬ。

 ウサギという生き物の生態は、だいたいそんなところだ。

 基本、肉以外は何でも食べる、何でもかじる。

 そして、何にでも食べられている。

 身のこなしが素早いため、単純な競争で捕まえるのは難しい。

 しかし、頭が悪い。

 猫のように、適度に人間をあしらってエサをもらえばいいものを、愛想をふりまく知能もなく、ただ農作物を荒らすだけ。

 かといって、犬のような従順さにも欠けているため、結束もできない。

 こんな生き物を宿主に選んだ穢れの正体が何なのか……覗いてみたところ、グリムではなかった。

 見た目も中身も、ただのウサギ。

 生後数年程度の、毛並みが白黒ツートーンという他は、何の特徴もないウサギだった。

 だが、何かが潜んでいる。

 微量だが、確実にこのウサギの神経系に入り込んでいる、穢れと思しき何か……。

 目を細めても、分かるのはそれだけ。確実なことは、直接尻尾で探る他ない。

 そう考え、おれは静かに近づいたのだが……。


『あなた、ココね?』


 ……その一言に、ウサギの脊髄に潜伏していた穢れが活性化して、その全身を支配したのだった。


『――ライラさん?』


 犬にぶら下げられたまま、神妙にウサギが『声』を出す。


『やっぱり……! あなたなのね、ココ! あぁ……生きていてくれて、本当に良かった……』

『ちょっ…………近い、近いって……!』


 ライラの勢いに圧されて、犬がウサギを解放する。

 ウサギもまた、困惑こそあれ、逃げることなく、ただライラの泣き顔を眺めていた。


「……一体どういうこと? あのウサギがココって……」

「ネロ様は何か分かります?」


 状況が全く飲み込めない二人が、場の空気に踏み込めず、おれのところにやって来る。


『言葉通りだ。どうやらあれがココ本人らしい』

「「……は?」」

『もっとも、本人も自覚が無いようだがな』

「なっ……どういうことよ、それ?」

「それで私のご飯ばかり? でも、どうして――?」

『知るか。本人に聞け』


 騒ぎ立てる奴隷どもを無視して、おれはライラの頭に乗りかかる。


「ネロちゃん――?」

『ライラよ。とりあえず落ち着け。きさまの声を疑うわけではないが、もしそいつが本当にココだというのなら、今後の救出計画にも大幅の変更が必要だ。違うか?』

『――そうね。ごめんなさい取り乱して。確かに、喜んでいる場合じゃなかったわね』

『……何、今の声? もしかしてその猫? というか、ライラさんってこんな声してましたっけ……』

『やはり記憶が混濁しているようだな。ウサギの意識に振りまわされていた影響だろう。慣れないことをするからだ』

『何、この猫? すっげー偉そうなんですけど?』

『猫は偉大だ。わきまえろ、ウサギめ』

『はぁっ! 誰が何だって?』


『よく見ろ、ココ』

 おれは顔を寄せる。

『おれの眼に、何が映っている?』


『…………ウサギ?』

『ご明答だ、ココよ』


 次の瞬間。

 聞くに堪えないウサギの絶叫が、森中に響き渡った。


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