涙の夜(1)
よく殖えて、よく死ぬ。
ウサギという生き物の生態は、だいたいそんなところだ。
基本、肉以外は何でも食べる、何でもかじる。
そして、何にでも食べられている。
身のこなしが素早いため、単純な競争で捕まえるのは難しい。
しかし、頭が悪い。
猫のように、適度に人間をあしらってエサをもらえばいいものを、愛想をふりまく知能もなく、ただ農作物を荒らすだけ。
かといって、犬のような従順さにも欠けているため、結束もできない。
こんな生き物を宿主に選んだ穢れの正体が何なのか……覗いてみたところ、グリムではなかった。
見た目も中身も、ただのウサギ。
生後数年程度の、毛並みが白黒ツートーンという他は、何の特徴もないウサギだった。
だが、何かが潜んでいる。
微量だが、確実にこのウサギの神経系に入り込んでいる、穢れと思しき何か……。
目を細めても、分かるのはそれだけ。確実なことは、直接尻尾で探る他ない。
そう考え、おれは静かに近づいたのだが……。
『あなた、ココね?』
……その一言に、ウサギの脊髄に潜伏していた穢れが活性化して、その全身を支配したのだった。
『――ライラさん?』
犬にぶら下げられたまま、神妙にウサギが『声』を出す。
『やっぱり……! あなたなのね、ココ! あぁ……生きていてくれて、本当に良かった……』
『ちょっ…………近い、近いって……!』
ライラの勢いに圧されて、犬がウサギを解放する。
ウサギもまた、困惑こそあれ、逃げることなく、ただライラの泣き顔を眺めていた。
「……一体どういうこと? あのウサギがココって……」
「ネロ様は何か分かります?」
状況が全く飲み込めない二人が、場の空気に踏み込めず、おれのところにやって来る。
『言葉通りだ。どうやらあれがココ本人らしい』
「「……は?」」
『もっとも、本人も自覚が無いようだがな』
「なっ……どういうことよ、それ?」
「それで私のご飯ばかり? でも、どうして――?」
『知るか。本人に聞け』
騒ぎ立てる奴隷どもを無視して、おれはライラの頭に乗りかかる。
「ネロちゃん――?」
『ライラよ。とりあえず落ち着け。きさまの声を疑うわけではないが、もしそいつが本当にココだというのなら、今後の救出計画にも大幅の変更が必要だ。違うか?』
『――そうね。ごめんなさい取り乱して。確かに、喜んでいる場合じゃなかったわね』
『……何、今の声? もしかしてその猫? というか、ライラさんってこんな声してましたっけ……』
『やはり記憶が混濁しているようだな。ウサギの意識に振りまわされていた影響だろう。慣れないことをするからだ』
『何、この猫? すっげー偉そうなんですけど?』
『猫は偉大だ。わきまえろ、ウサギめ』
『はぁっ! 誰が何だって?』
『よく見ろ、ココ』
おれは顔を寄せる。
『おれの眼に、何が映っている?』
『…………ウサギ?』
『ご明答だ、ココよ』
次の瞬間。
聞くに堪えないウサギの絶叫が、森中に響き渡った。




