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カナリアは、もう啼かない!  作者: 愛章
2章 地下の国の、カナリアたち
33/46

ご飯はゆっくり噛みましょう(1)

向こう岸に渡れました…

『……今夜はここでキャンプか……』

「ネロ様――良かった、下りてこられなくなっちゃたのかと思いました」


 他の者が作業している中、奴隷はじっと樹の下で待機していた。

 万が一おれが樹から滑り落ちても、キャッチするためだそうだが……落下程度の衝撃でおれは死なないし、手足を広げれば滑空できるというのに、こいつは今ひとつ理解していない。

 とはいえ、奴隷としての心がけは悪くない。

 望みどおり、頭の上に着地してやる。


『おかえり、ネロちゃん。ご飯の用意するから、もうちょっと待っててね~』


 ライラは川辺で犬を使って魚を捕まえている。

 サラは周辺調査と山菜集め。ここ数日の野外生活で、食用とそうでないものの区別がつくようになったそうだ。

 まだ日が落ちるのは先だが、ここから人里に向かえばどうせ夜になる。人間たちの町や村で、カナリアどもが寝泊りできる場所はごく限られているし、トラブルになりかねない。ここで夜明けを待ってから、出発するのが無難といったところか。


『……ところで、ライラ。その犬はどうするつもりだ?』


 アニマで武装した一頭と、その配下数匹を連れてここまで来たが、この先はやつらを連れて歩くメリットが無いため、ここで別れる予定だった。

 なのに、ライラは頭目の一匹を連れたまま。

 奴隷も橋を破壊しているので、この一匹だけは手元に残すつもりらしい。


『ロンのこと?』

『……名前まで付けたのか……』

『ネロちゃんの言ってることも正しいし、私もみんなと帰るように言ったんだけどね……この子だけ、最初から私たちに付いてくるつもりだったみたい。群れはシリウスとブラウとに任せてあるから大丈夫だって、聞かなくって……』


 開拓村を出た時から付き従っていた三頭に、奴隷どもは名前を付けようとしていた。

 飼い慣らして人里に連れて行けるわけでもないので、やめておけと忠告はしたのだが……。


『……まぁ、一匹くらいは想定内だ。居ても居なくても大差なかろう』

「……グルル……」

『フン……犬風情が図に乗りおって……誰がきさまらにアニマを与えたのか、そろそろ身を持って教えてやろうか?』

「ダメですよ、ネロ様」


 後ろから、奴隷に抱え上げられる。


「邪魔をしては、お魚さんに逃げられてしまいます。私、薪を集めるように言われてますので、ネロ様も手伝って下さい」


 振りほどこうとしたが、両腕にガッチリ挟まれていて抜け出せない。

 しかし、これはこれで楽チンな格好。

 胸をクッション代わりに、揺られるまま寝入った。



     ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 

 日が暮れ始める。

 ライラの主導で、夕餉の支度はすでに整えられていた。

 メインは魚。

 ライラが探り当て、犬が仕留めた。そのままでも食べられるが、十分炎で炙って、骨まで柔らかくなってから食べるとまた美味いので、仕上がるまで待つことにする。

 他は山菜。シダだのキノコだの、サラが集めてきたものを、石焼きにしている。

 口に入れば何でもいいと思うが、脆弱な人間は毒や菌ごときで簡単に死ぬ。

 ここ数日、サラはライラの協力も借りて、生き物どもを観察し、情報を集め、食用植物を見分けられる『目』を培っていた。

 穢れの力にいくら猜疑的でも、生きるためなら手段は選んでいられない、という好例だろう。

 そして、それぞれが奴隷の作った器と箸を手にしている。薪割りの副産物であるが、モノを意図した形に分解、分離したものだ。

 もちろん、おれ専用の器はおれが手を貸している。


「どうぞ、ネロ様」


 いい感じに焼き上がった魚と山菜を、奴隷はおれの器に盛り付ける。

 ほのかな塩の香りに、目が醒めてくる。


『……きさまは食わんのか?』

「まだアツアツですから。もうちょっとだけ冷ましてからにします」

『フン。取られても泣くなよ』

「泣きませんし、ネロ様ほど猫舌じゃありません」


 とはいえ、待っているだけというのも退屈だ。


『――ところで、ココとはどんなやつだ?』

「急にどうしたの?」


 サラが怪訝そうに右の目で睨む。


『どうもこうもない。奴隷から得た情報と、きさまらの印象はまた別だ。ココとはどんなカナリアだったのか、きさまらの話が聞きたい』

「聞いてどうするつもりよ?」

『まぁまぁ……別に隠すようなことじゃないんだし、これから会いに行く相手なんだから……ネロちゃんだって、ココについて正確な情報がほしいだけなんでしょ?』

『当然だ。きさまらも、ココとやらを助けたいのだろう?』

『もちろんよ。だから、私から話してあげる』

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