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カナリアは、もう啼かない!  作者: 愛章
2章 地下の国の、カナリアたち
31/46

爆誕、むささび猫?(1)

 カナリア。

 ――と呼ばれる人種が居る。

 名前の意味は、『身代わり』。

 役目はただひとつ。死ぬまで、その身に黒い『穢れ』を引き受けること。


 人間どもは『穢れ』を不治の病と認識している。おおむね、それは間違いではない。

 穢れは地上のあらゆる場所に存在する。水、空気、土、そして動植物にも。おれの知っている限り、穢れの存在しない場所はどこにもない。

 穢れは生きている。目に見えない、小さな小さな黒い『何か』は、それひとつひとつに大きな力は無い。だからほとんどの細菌と同様、大抵は身体の免疫系によって駆逐される。

 しかし一度定着し、侵食が進むと、浄化は一気に困難になる。

 細菌のように自己増殖できないこの穢れは、互いに引き寄せ合う性質を持つ。

 穢れと穢れが結びつき、宿主を徐々に食らいながら埋め尽くすように奪っていく。

 取り除くには感染部位の切断しかないが、これには侵食の正確な見極めが不可欠。また切断箇所によっては命に関わるため、リスクが大きすぎる。

 感染しないこと。

 それが唯一の対処法。

 そして確実に感染を避ける方法は、ただひとつ。

 あえて、感染者をそのままにしておくこと。

 感染者ひとり居るだけで、周囲の人間が穢れに侵食される危険性は激減する。複数いれば、集落一つの安全が確保される。

 数百、数千、数万人の安全と平和のためなら、若い女の命など軽い。

 どうせ穢れた人間を治す術もない……という打算と偏見の元、作り出されたのがカナリアという存在。

 平均寿命は二十歳前後。そのほとんどが女。

 早ければ十代、遅くても三十前には死ぬ。

 肩書きは聖職者だが、これは教会の所有物という意味に過ぎない。この肩書きによって、偏見による暴力から守られる一方、使命に殉じることから逃げることもできない。

 なぜなら、教会の目的とするところは、聖なる使命にその身を捧げることである。

 司教や司祭どもの使命については知らんが、カナリアの場合は簡単だ。死ぬことである。

 逃亡は一切許されない。

 聖なる使命に背を向ければ、もはやそのカナリアは聖職者ですらなくなる。

 穢れた人間が、教会の保護も無く人里で生き延びることは、まず不可能だろう。




 さて、この聖なる使命とやらに殉じたカナリアのその後だが……。

 穢れに全身を蝕まれるということは、穢れが宿主に成り代わるという意味でもある。

 もはやそれは人間とは呼べない。

 穢れの塊……すなわち、グリムである。

 グリムとは、ヒトや獣の形をした穢れの集合体。

 かくいうおれも猫のグリム。宿主であった白猫の意識や記憶を身体ごと奪い、成り代わった存在だ。

 だから見た目はただの白猫でも、中身は別物。

 思考して話せるだけでなく、穢れを自在にコントロールすることもできる。

 話が逸れたが、とにかくグリムとは人間の手に余る相手だ。穢れで出来ているため、弓や剣では死なないし、まず当たらない。しかも相対するだけで、侵食の危険も伴う。

 おそらく、グリムに対抗するために作られたと思われる物質……アニマと呼ばれる結晶を、人間どもは武具に加工して、兵士どもに持たせていたのだが……そもそもアニマこそがグリムの亡骸なのである。

 死亡して、その意識が消失しても、グリムの全身を取り巻く穢れひとつひとつは生きている。

 水や空気、いたるところに霧散している穢れだが、長く定着すればするほど、互いの結びつきは強固となり、その形を保とうとする。

 結果、その死骸は強靭で柔軟、かつ穢れを吸収する性質さえ持ち合わせている。

 グリムの脅威からヒトを、町や村を守るために、あえてグリムに挑んでこれを入手した……という可能性も無くは無いが、他にも安全で簡単な入手法があるなら、誰だってそちらを選ぶだろう。

 襲撃をかけてきたグリムを迎え撃つどころか、守りに徹する開拓村の警備隊。

 一方で、警備隊長はもちろん、雑兵にまで行き渡っていたアニマの数。

 少なくとも、連中が前者の方法でアニマを入手したとは考えられない。

 となると、警備隊の連中が所持していた槍も、警備隊長の黒い刀も全て。

 カナリアから作り出されたものだと、考えられる。




 結論。

 カナリアは、絶対に死ななければならない。

 人間どもを穢れから守るため。そしてその亡骸をアニマへと加工するために。 

 命と財に代わる何かを、差し出さない限り……。

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