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カナリアは、もう啼かない!  作者: 愛章
1章 おれさまは、猫である
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最も簡単なアニマの作り方(2)

ライラのカバンには何でも入っています…

「今はこれで済ませるしかないとして……日が暮れる前に、何とかしなきゃいけないわね」


 水場から戻ったカナリア三人は、それぞれ一切れの乾パンを片手に昼食会を始めた。

 向かいでは、野犬どもがハントした獲物に群がっている。

 人間らしい食事と、動物らしい食事。

 今後の身に振り方によっては、生活内容も当然変わってくる。


「ネロ様なら、この森にも詳しいはずですので、きっと……」

『ユア、あなたの言いたいことは分かる。でも、私はアレを食べるくらいなら、飢え死にを選ぶわ』

「……一旦、この話は保留にしましょう」


 食べ物を選り好みするのは、日常的に加熱処理されたものばかり口にしている証だろう。

 まぁ、カナリアとして文字通り人間どもに飼育され、開拓村でも食事は決められたものだけ与えられていたのだから無理も無い。


『はっきり言って、村に戻るだけ時間の無駄だぞ』


 おれは口の中の破片を吐き捨てながら言った。


「別に今すぐ戻るつもりはないわよ。ただ、ここでいつまでも逃げ回っても仕方ないじゃない。だったら――」

『修道院に帰ればいい。きさまたちは元々そこからやって来たのだろう?』

「そう言われましても、帰還許可も出ていないのに……」

『許可など必要ない。きさまらは聖なる使命に身を投じた。自ら村に戻らない限り、死んだも同然。死人に一体誰が命令できる?』

『……確かに、このまま村に戻るよりは面白そうね』

「クドウ司祭の怒り狂う顔が思い浮かぶわね……」


 サラが苦笑した。


「正直あたしも村に戻るのは反対。だけど、あんたの言いなりになるつもりもない」

『好きにすればいい』

「状況を整理するわね。昨夜、あたしたちは教会を抜け出し、聖なる使命を利用して村を出て、グリムと戦った。戦闘は門に近い、村の北側。警備隊は門の内側を守っていたし、ライラが見張っていたから目撃者は居ない。戦闘の後、散らばった野犬たちとグリムの死体を回収して、森を北上。ネロの話が確かなら、現在は村から十キロほど離れた場所に居る。今のところ、追っ手はまだ来ていない。これは警備隊がグリムの死を確認していないから。戦闘があったことは調べられていると思うけど、村の守りを捨ててまで追って来るにはリスクが高すぎる。あたしが警備隊長なら、まずは状況報告を含めて援軍を要請するわね」

『教会にも要請がかかるでしょうね。カナリアが不在となれば、村の存続にも関わるもの。聖なる使命による殉教なら、司祭が教会本部の咎めを受けることもない。私たちを逃がしたと認めるよりは、黙秘を選ぶでしょう』

「私たちの後任が派遣されるとして、早くて二日くらいでしょうか?」

「そうね。一番近い町に要請が行ったとして、本格的な追跡が行われるまで、最低二日の猶予はある。だからって油断はできないから、足跡は散らしてあるし、今もライラと犬たちが注意してくれている。さて、この状況下であたしたちが取れる道はどれだけあると思う?」

『ねぇ、サラ。あたしたちって、それはワンちゃんたちも含めてかしら?』

「当たり前じゃない。三人と一匹だけの問題なら、初めから頭を抱えていないわよ」

「でも、人里に戻るなら、どこかでみんなとお別れしなきゃですね……」

「このまま北の未開地を進めば、私たちを追いかけるのも難しくなるし、犬たちにとってもそのほうが暮らしやすい。追っ手をかわして南下しても、人里に近づけば犬たちが危険にさらされる……。全員の安全を第一にするなら、北を目指すべきなんだろうけど……」

『残念だけど、それってあんまり現実的じゃないのよねぇ……』

「犬さんたちのおかげで、野宿も平気でしたけど……いつまでも私たちの都合に付き合わせるのは、何だか申し訳ない気がします」

「……そうね。今はお互いに追われている身だから、行動を共にする意味があるけど、二日あれば十分な距離が稼げる。うまくお別れできたら、私たちは人里を目指して……」

『修道院に向かうわけだ』


 おれは大きなあくびをした。


『なんだ、結局おれの言うとおりじゃないか』

「うるさいわねぇ。あんたの案を具体的にしてやったのよ、文句ある?」

『文句はない。で、それからどうする?』

「どうって……」

『修道院に舞い戻り、折檻を受けて、まだどこかの開拓村に派遣され、土地のため人のため、感謝もされず蔑まれながら、穢れに意識を蝕まれるだけでなく、黒く結晶化したその身さえも失う……そんな道を繰り返すのか?』

「…………」

「……でも、ネロ様。私たちカナリアが居なくなったら……」

『困る人間どもがいる? まぁ、そうだな。穢れがこの世から消えて無くならない限り、どうしたって穢れた人間は必要だ。となると、やはり他の誰かをカナリアにするしかないし、その誰かは死ぬことになる』

『ネロちゃん……分かっているなら……』

『おれさまは猫だ。おれはダラダラくつろぐために、縄張りを捨ててきさまらの住処を乗っ取ると決めた。きさまらには、おれの世話という重要極まりない使命がある。だから今、提案しているのだ』

「……提案、って?」

『小姑はうすうす感づいているようだが…………どうする? きさまの口から言ってみせるか?』

『サラ……?』

「…………」

『奴隷よ。レムルの首はどうした?』

「あ、お墓を作るんですね。それならグリムさんの死骸と一緒に……」

『樹の下に隠したのは分かっている。半日経っても腐らず、虫も湧かない。なぜか分かるか?』

「えっと……アニマになった……からですよね?」

『そうだ。穢れた生物……特にグリムのように、宿主に成り代わって自我を持つに至った穢れは、簡単には死なない。宿主の身体が死んでも、取りついた穢れは生き延びようとする。その結果は……触れてみてどうだった?』

「石みたいにコチコチなのに意外と重くなく、何だか不思議な感じがしました……」

『穢れは互いを引き寄せ合う。反応を感じるのは、きさまの手が穢れているからだ。この性質をうまく使えば、巨大な獣の身体でも簡単に分離できる。硬さや重量も……きさまはおれに従って手を動かしたに過ぎないが、同じ作業をしていたサラはそこで気付いた』

「――――――やめて」

『…………サラ?』

『話を戻す。このまま人里に向かい、修道院を目指す。それは結構。だが、きさまらを死なせないためには、代わりが必要だ。両手、左目、喉……きさまらは今、自身に宿る穢れと共存関係にあるわけだが、これで問題の全てが解決したわけではない。仮にこの共存関係が長く続いたとして、他のカナリアどもも同じように生き永らえたとしても、現状きさまらは死なねばならん。でないと、困るやつらがいる』

「困るって……私たちが長生きすれば、それだけ穢れは……」

『あぁ。死ぬはずだったカナリアの数だけ、穢れは浄化できるだろう。カナリアとそうでないもの、どちらにとっても丸く収まるように見えるが…………それでは手に入らないものがある』


「…………手に入らない、もの…………?」

『…………まさか…………』


 それぞれが大樹の足元を見る。

 黒く結晶化したグリムの亡骸。

 硬質で頑強かつ穢れと結びつく性質を持つため、グリムのような穢れた存在に通用する刃となり、穢れから身を守る盾にもなる……。

 穢れた地上で生きる人間どもが、おそらく今もっとも必要としている、それ。


「……アニマは、死んだ仲間カナリアたちで作られていたのよ……」


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