最も簡単なアニマの作り方(1)
一夜が明けました…
気がつくと、太陽はずいぶん高く上っていた。
――おれとしたことが、完全に寝入っていた。
眠りは猫にとって安らぎで、同時に最も無防備な状態。
だから猫は狭く安全な場所に身を潜め、断続的な眠りを繰り返すことで熟睡を避ける。
自身の縄張りで一日中寝ている時でさえ、周囲に張り巡らせた神経の網にかかれば目を覚ます。
しかし飛び起きたりはしない。
眠っているフリをして、相手の様子をうかがう。
それが敵や獲物なら、油断して安心したところを…………。
「うへへぇ……ネロさまぁ、やわらかぁい……」
『うおおぉぉぉ、よせやめろぉぉ!』
奴隷の両手につかまれていた。
しかも、尻尾の先からおれの本体が飛び出している。
眠っている間に同化が解けたのか、それとも奴隷の手で無理矢理引きずり出されたのか……。
などと考えている内に、指先がぐいぐい入り込んでくる。
体内をまさぐられ、撫で回されるという、名状しがたい感覚におれは絶叫していた――。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
――数秒後。
完全に目が覚めたおれは、奴隷の手から逃れつつ、思い切りその顔を引っかいてやった。
奴隷がおれにやった逆パターン。傷こそひとつもつけなかったが、爪で皮膚の内側を撫でられるという、簡単には取れない痛みとかゆみは残してやった。
「……すごくヒリヒリします……」
『おれの寝込みを襲った罰だ、反省しろ!』
「そういえばネロ様、いつの間に尻尾から出てきたんですか?」
『寝ぼけたきさまが引きずり出したんだろうが!』
『あら、それは違うわよ……』
近くで横になっていたライラが身を起こし、伸びをする。
『ネロちゃんが、自分からユアの腕にもぐりこんだのよ』
『何……だと……きさま、でたらめを言うな!』
『私は嘘をつかないし、つけないわよ。ねぇ、サラ?』
「……うるさいなぁ、さっきから何の騒ぎ……?」
『ユアの尻尾の話よ。寝ている間にぴこぴこ動いて、面白かったじゃない』
「あぁ、あれね……。あんた人前では気をつけなさいよ。寝相が悪いなら、最初からくっついておきなさい、全く……」
『ほらね?』
馬鹿な……尻尾と同化していたとはいえ、横になった時点でおれは奴隷から一定距離を保っていたはず……。
なのに、自分から奴隷の腕にもぐりこんだだと?
無意識のうちに、そこが最も安全で安眠できる場所だと判断したのか?
「えっと……次は寝ぼけて引っかかないで下さいね、ネロ様」
『次など無いわ!』
全ては奴隷と同化した副作用のようなもの。
熟睡も、無意識にもぐりこんだのも、奴隷との同調による疲労と条件反射によるものだ。
でなければ、おれが意識を失うほど熟睡するはずがないし、自ら密着するわけもない。
とにかく……と、おれは話題を変える。
『おれの予想通り、人間どもはグリムを警戒して森に踏み込めない様子だ。放棄したとはいえ、この森はおれの庭同然。しばらくの間なら、ここで身を隠すこともできるだろう』
「野宿なんていつ振りかしら。あ~、だるい肩凝ったぁ……」
「朝ごはん……というかもうお昼ですね。どうします?」
『見張りのワンちゃんたちに水場を教えてもらったから、私ちょっと顔洗ってくるわね~』
猫に負けず劣らず勝手さで、奴隷どもはおれの話を聞き流しながら身支度を始めた。
……まぁ、おれも小腹が空いている。
続きは食事を済ませて一眠りしてからでもいいだろう。




