よみがえる猫(3)
声がする方向…
『さておき…………正直きさまがまだ生きているとは思わなかったぞ、レムル』
ライラが拾った声は、落ちた獣の首から発せられていた。
それは獣が自ら棄てた首。
元は獣の本体であり、生き永らえるために獣と肉体を融合した結果、意思も力も次第に奪い取られ、挙句おれの支配下に収まることでしか獣すら制御できなくなった、まさしく抜け殻のような存在。
首だけになって、ようやく自我のようなものを取り戻せたというのなら、笑ってやるのが情けというものだろう。
『…………ネ………ロ…………』
「本当に喋った!」
『今、ネロってー―』
『落ち着け。放っておいてもじきに死ぬ。が、このままではあまりに不恰好だ。奴隷よ、トドメをさしてやれ』
「……でもネロ様……このグリムさん、何だかさっきのグリムさんとは違います」
『ではきさまが責任をもって首を繋げなおすか? それでこいつが、本当に何もかも元通りになると、きさまは言い切れるのか?』
「……それは……」
『やれ。おれの手助けがあったところで、獣を殺したのは間違いなくきさまの意思だ。やるときは徹底的にやれ。それがきさまと、仲間のためだ。生半可な放置など敵意しか生まん』
「――ちょっと、ネロ。いくら何でも、これ以上は――」
「……大丈夫です、サラちゃん……私が、始めたことだから……私が、ちゃんと終わらせないといけないんです……」
「ユア……」
『…………』
「……ネロ様、この方のお名前は?」
『聞いてどうする?』
「お墓を作ります」
『…………レムルだ』
「レムル、さん……」
『どこかの猫のせいで長生きしすぎた、哀れな老犬だよ。ボス犬という生き物は、身内に殺されるくらいなら、猫にでも殺されたほうがマシと聞く。猫の奴隷ならばなおさらだろう』
「…………」
触れるというより、なでるようだった。
額がひび割れ、頭部全体が黒く結晶化してゆく。
――レムルは死んだ。
もはや首をつなぎ直したところで、何一つ戻ることはないだろう。
『……ネロちゃん、そろそろ……』
『あぁ、分かっている。きさまは犬どもを指揮しろ。ひとまず撤収するぞ』
「撤収?」
『人間どもが来る。見つかっては面倒だ。奴隷は犬に任せて、きさまは死骸処理を手伝え』
「処理って……あんな大きな死体、どうやって?」
「私も手伝います。グリムさんと中の犬さんたちのお墓も作ってあげないと……」
「……分かった。正直もうヘトヘトで動きたくもないけど、今見つかったらどうなるのかなんて考えたくもない。ライラ、あとどれくらい時間ある?」
『今はまだ大丈夫。門の外の様子を伺っているだけ。でも部隊を再編成したら、こっちに来るまでそう長くはかからないでしょうね』
「その間に、犬を連れてあたしたちも身を隠す……死体が無ければ、しばらくは警戒して追ってはこられないし、あたしたちの生死も確かめようがない……心底嫌だけど、駄々をこねている場合じゃないわね」
『ぼやくな。この死骸はきさまらにとってただの重荷ではない。さっさと片付けて、次の計画に移るぞ』
「ネロ様、計画って?」
「やめておきなさい、ユア。どうせ眠いとか面倒とか言って、肝心なことは何一つ話さないんだから、この駄猫は」
『分かっているなら結構。貴重な睡眠時間のために、一刻も早く撤収作業にかかれ、奴隷ども』




