よみがえる猫(2)
サラちゃんのお説教中…
『――シッ――サラ、ちょっと黙って』
「ふざけないでライラ、あたしが一体誰のためを思って――!」
『お願い。少しの間、静かにしてちょうだい』
真剣な表情と声に圧され、さしものサラも押し黙ってしまう。
野犬どももライラの声に従い、風だけが草木を鳴らしていた。
『…………ェ…………』
『間違いない』
ライラが目を見開いて立ち上がる。
『グリムの声よ。まだ生きてるわ』
「確かに、何か聞こえたけど……」
サラは結晶化している獣の亡骸に目を向ける。
「頭はユアが粉々にしたし、活動も完全に停止している。さっきちゃんと確認したし、今だって……」
『そっちじゃない』
ライラは亡骸とは反対方向の茂みを指差した。
『あっちから聞こえる』
「そんな……私は確かに、あのグリムさんを……」
『…………おい、奴隷。きさま何をやっている?』
「だって、早く立ち上がらないと……んしょ、よいしょ……」
かろうじて動く手足をバタバタさせているだけで、背筋は地面にくっついたまま。
脊髄そのものに異常はないが、神経系はおれが主導権を握ったままだ。動かせるはずもない。
おれも疲れている。このまましばらく眠るのが、おれと奴隷のためでもあるが、仕方ない……。
『……全く、面倒なやつめ……奴隷よ。少しの間じっとしていろ』
「へ……って、うわわ……身体が、勝手に……?」
奴隷をどうにか立ち上がらせると、そのままサラのところまで歩かせる。
「ちょっと、ユア――きゃあ」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
『おい。ボケッとしてないで、こいつを支えろ。こいつの身体はもうしばらく管理が必要なんだ。少しだけ動かしてやるから、あとはきさまが運べ』
「管理って……あんたがユアを操縦していたせいじゃない!」
『主人が奴隷を使って戦わせて何が悪い。アフターケアの必要が分かっているなら、文句を言わず運べ』
「あのぉ…………一体、何の話でしょうか…………?」
「ばかっ! あんた、さっきまでずっとネロの操り人形だったのよ! あんたひとりであんな化け物、相手に出来たわけないでしょうが!」
『猫聞きが悪い……。シンクロと呼べ、シンクロと』
「一方的に操ったことには変わらないでしょうが! こんなドジのウスノロに無茶させた結果がこのザマよ。主人を自称するなら奴隷の限界くらい考慮しなさい!」
『……確かに……こいつはおれの予想を超えるポンコツだった……それは反省している』
「――――ありがとうございます」
「はぁっ?」
「私、ひとりじゃ何にもできなかった。今だって、まともに歩くこともできていない。怖くて震えて立ち上がれないから、ネロ様が私を動かして、サラちゃんが支えてくれている……。私、強くなりたいです。ふたりのこと、ライラやみんなのことも、今度はちゃんと自分の手で守れるくらい……」
『…………とにかく、きさまは基礎体力からだな』
「というより、両手のリハビリが先じゃないかしら。ずっと両手が使えなかったのに無理な動きするから、肩とか腰とか、関節に負担がかかっているのよ。こればかりは、あんたのシンクロとやらでも解決できる話じゃないわ」
『……なるほど、面倒そうだ』
いずれにしても、訓練など猫には眠くなるほど無縁の話だ。




