よみがえる猫(1)
「――茶番はそこまでよ」
「…………サラ、ちゃん……………ちょっ、急に何を……!」
「いいから尻尾を出して!」
「や、やめて……引っぱらないで下さい……!」
『……サラ、こんな時にどうして尻尾なんか……?』
「こんな時、だからよ」
『……どういう……?』
「ユアの尻尾は、元々あいつのもの。あいつがユアを奴隷と呼ぶのも、この尻尾があるからよ。これはコントローラーであり、あいつ自身でもあるの。言っている意味、分かる?」
『……まさか……』
「あいつが本当に死んだのなら、この尻尾だって消えてなくなってる。でも、こうして根付いているということは――」
「い、いたっ、引っぱらないで――もげっ――もげちゃう……!」
「さっさと出てきなさい、このバカ猫! じゃないと、本気でこの尻尾引っこ抜くわよ!」
……うるさいなぁ。
『……猫が寝ているというのに、ぎゃあぎゃあ騒ぎおって……どういうつもりだ、全く……』
「この声――ネロ様っ? でも、どうして……!」
奴隷が千切れたおれの上半身と、自身の尻尾を見交わしている。
……どうやら未だに状況が分かっていないらしい。
『……おい、サラ。きさま気付いていたのなら、なぜ何も言ってやらなかった?』
「あたしだって騙されたクチよ。一体どういうつもりだったのか、あんたの口から説明なさい!」
『眠い。面倒だ……』
「寝るなっ!」
「はぎゃああぁぁぁぁ!」
全ての感覚を奴隷と共有しているわけではないが、さすがに今のはピリッときた。
しかもうるさい。
『……あのなぁ……おれが意味も無く惰眠をむさぼっているとでも、きさま本気で思っているのか?』
「えぇ、思っているわよ」
『…………』
「ネロ様……本当に生きてる……今なら分かります、私の尻尾……ネロ様と確かに繋がっている……でも、どうして出てきてくれないのですか?」
「少なくとも、この身体……ただのニセモノ、ってわけじゃないみたいね」
『ニセモノ? ネロちゃんの、この身体が? でも、確かにここからネロちゃんの声が……』
「えぇ。あたしも直接近くで見るまで分からなかったもの。簡単にバレる程度の仕掛けなら、入れ替わる意味も無いってのは分かる。でも、どうして? あたしやライラだけでなく、どうしてユアまで騙したの?」
『…………まさかきさま…………それが理由で怒っているのか?』
「あ、あくびしてんじゃないわよ! いいから質問に答えて!」
『……言うまでも無い。きさまも気付いていながら黙っていた……喋ればどうなるか、分かっていたからだろ?』
「……えっと、どうなるのでしょう……?」
『そうねぇ……私は口が堅いほうじゃないし、ユアもウソが下手だから……ネロちゃんが実はピンピンしてる……なぁんて知ったらあのグリムちゃん、ものすごく怒っていたかもしれないわねぇ』
「……怒る以上に、警戒したでしょうね。特にユアの尻尾に潜んでいると分かっていたら、絶対に近づけさせなかったと思う」
『……ほらな。おれをわざわざ叩き起こす必要もない話だ……』
「待ちなさい。それならどうして、あんな――」
『手の込んだ人形を用意したのか、か? 逆におれの姿が目視できなければ、やつは最初から尻尾の秘密に気付いていた。やつを倒すだけならおれ独りで近づいても良かったが、それではきさまらを連れてきた意味が無い』
「……意味、ですって?」
『奴隷よ。おれはきさまの何だ?』
「えっと……ネロ様は私を助けてくれた猫さんで……とっても大切な猫さんです」
『……まぁ、いい。ともかくきさまはおれの所有物だ。きさまは自分の大事な猫を、敵の前に放り出せるのか?』
「そ、そんなこと絶対にしませんっ! ネロ様は、私が守ります!」
『つまりはそういうことだ。おれひとりに始末をつけさせては、奴隷の立場が無いだろう。だが、きさまはおれのために働き、見事おれや下僕どもを守り抜いた。ほめてつかわす』
「え、えへへ……それほどでも……」
「簡単に乗せられてるんじゃないわよ、おばか! あたしたち、こいつにいいように使われて、あげく騙されていたのよ!」
「た、確かにそうでした…………でも…………」
『……ん……結果オーライみたいだから、別にいいんじゃない?』
「……あんたらねぇ……」
小姑が説教モードに入った、その時だった。




