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カナリアは、もう啼かない!  作者: 愛章
1章 おれさまは、猫である
22/46

いくら何でも大きすぎます(2)

頭が二つもあります…

 斥候部隊を率いていたグリム・ハウンドは、屈強な人間と並ぶサイズだったが、ボス犬がそれに劣るはずがない。

 体格だけなら大型の熊と互角。

 しかしグリムと野性の熊とでは、勝負にならない。

 熊ごときでは穢れで出来た身体は破壊できないし、逆に黒く硬質な爪と牙は熊の分厚い肉ごと骨を引き裂く。

 さらにこのグリムは、一体ではない。

 元は二匹のグリムが、融合して一体となっているのだ。

 融合することで身体の拡張に成功し、ここまでの巨体に成長した。頭が二つあるのは、その名残り。状況に応じて、思考や神経、感覚を使い分けることができる。

 まともにぶつかれば、やっかいな相手。

 だが……。

『何をしている。行け、奴隷よ』

「えぇっ! 真っ直ぐ突っ込む気ですか?」

『当たり前だ。こんな茶番、早く終わらせるに限る。さぁ、行け』

「む、無茶言わないで下さい……! 私だけならともかく、この子まで巻きこむ気ですか?」


『面倒なやつめ……』

 あくびをしながら、奴隷の頭の上から顔を出す。

『おい、駄犬よ。下僕の分際で、おれさまに歯向かうとは偉くなったものだな。おれの奴隷が相手をしてやる。身の程を知れ』


『――――!』


 言葉無き咆哮。見た目だけでなく、頭の中までも獣らしい。

 怒りのまま、こちらへ真っ直ぐ突っ込んでくる。


『ほら。きさまが行かないから、向こうからやって来たぞ』

「ネロ様が怒らせたんじゃないですかぁ!」


 稲妻のような突進。

 速度と破壊力がすさまじい分、動きはシンプル。

 よく狙えば、カウンターが決められるというのに、奴隷は迎え撃つどころか、おれと犬を両手で庇おうとする。

 ――仕方ない。


『がアアアぁぁぁぁぁっ!』


 衝突する手前で、おれは尻尾を動かした。

 瞬間、獣の片方の頭が、もう一方の頭に食らいつく。

 獣は叫び、その場に倒れこんだ。


「――これは、一体――」


 土煙の中、奴隷は恐る恐る目を開き、自身の頭にねじ伏せられる獣を眺め、つぶやく。


『縄張りを放棄したとはいえ、こいつの首のひとつがおれの支配下にあったことは変わらん』


 奴隷の腕から、獣の頭へと飛び移る。


『おれとの繋がりが消えて浮かれていたようだが、近づけば再び屈服させることなど造作も無い。さぁ、奴隷よ。とどめをさしてやれ』

「……とどめって……ネロ様、これはいくらなんでも酷すぎます……」

『奴隷の分際で主人に口答えするな。猫は近寄らなければ何もしない。酷いのはわざわざおれを追いかけ、挙句きさまら全員を狙ったこいつだ。分かったら、さっさと……」


 ふいに、身体が浮いた。

 遅れて、衝撃がやってくる。

 見下ろすと、おれの身体の半分が、まだ犬の頭の上に残っていた――。


「――ネロ様ぁぁ――っ!」


 地面に転がったおれに、奴隷が泣き叫びながら駆け寄ってくる。

 その頭上で、黒い爪が光った。


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