いくら何でも大きすぎます(2)
頭が二つもあります…
斥候部隊を率いていたグリム・ハウンドは、屈強な人間と並ぶサイズだったが、ボス犬がそれに劣るはずがない。
体格だけなら大型の熊と互角。
しかしグリムと野性の熊とでは、勝負にならない。
熊ごときでは穢れで出来た身体は破壊できないし、逆に黒く硬質な爪と牙は熊の分厚い肉ごと骨を引き裂く。
さらにこのグリムは、一体ではない。
元は二匹のグリムが、融合して一体となっているのだ。
融合することで身体の拡張に成功し、ここまでの巨体に成長した。頭が二つあるのは、その名残り。状況に応じて、思考や神経、感覚を使い分けることができる。
まともにぶつかれば、やっかいな相手。
だが……。
『何をしている。行け、奴隷よ』
「えぇっ! 真っ直ぐ突っ込む気ですか?」
『当たり前だ。こんな茶番、早く終わらせるに限る。さぁ、行け』
「む、無茶言わないで下さい……! 私だけならともかく、この子まで巻きこむ気ですか?」
『面倒なやつめ……』
あくびをしながら、奴隷の頭の上から顔を出す。
『おい、駄犬よ。下僕の分際で、おれさまに歯向かうとは偉くなったものだな。おれの奴隷が相手をしてやる。身の程を知れ』
『――――!』
言葉無き咆哮。見た目だけでなく、頭の中までも獣らしい。
怒りのまま、こちらへ真っ直ぐ突っ込んでくる。
『ほら。きさまが行かないから、向こうからやって来たぞ』
「ネロ様が怒らせたんじゃないですかぁ!」
稲妻のような突進。
速度と破壊力がすさまじい分、動きはシンプル。
よく狙えば、カウンターが決められるというのに、奴隷は迎え撃つどころか、おれと犬を両手で庇おうとする。
――仕方ない。
『がアアアぁぁぁぁぁっ!』
衝突する手前で、おれは尻尾を動かした。
瞬間、獣の片方の頭が、もう一方の頭に食らいつく。
獣は叫び、その場に倒れこんだ。
「――これは、一体――」
土煙の中、奴隷は恐る恐る目を開き、自身の頭にねじ伏せられる獣を眺め、つぶやく。
『縄張りを放棄したとはいえ、こいつの首のひとつがおれの支配下にあったことは変わらん』
奴隷の腕から、獣の頭へと飛び移る。
『おれとの繋がりが消えて浮かれていたようだが、近づけば再び屈服させることなど造作も無い。さぁ、奴隷よ。とどめをさしてやれ』
「……とどめって……ネロ様、これはいくらなんでも酷すぎます……」
『奴隷の分際で主人に口答えするな。猫は近寄らなければ何もしない。酷いのはわざわざおれを追いかけ、挙句きさまら全員を狙ったこいつだ。分かったら、さっさと……」
ふいに、身体が浮いた。
遅れて、衝撃がやってくる。
見下ろすと、おれの身体の半分が、まだ犬の頭の上に残っていた――。
「――ネロ様ぁぁ――っ!」
地面に転がったおれに、奴隷が泣き叫びながら駆け寄ってくる。
その頭上で、黒い爪が光った。




