3頭と征く(2)
警備を突破します…
「――おい、こっちにも居るぞ!」
軍靴の音が増える。
「待て……そこに居るのは誰だ?」
右手の黒い穂先の小槍を構えつつ、左手の松明を掲げる。
二人の警備兵の前に、奴隷が白いローブを広げてみせた。
「――カナリア?」
「なぜここに? いや――」
警備兵のひとりが、炎に浮かぶ影に目を凝らす。
「――それは、何だ?」
「はじめに申し上げます」
奴隷はおれの言葉を、そのまま口にする。
「私たちは味方です。聖なる使命のために参りました」
聖なる使命。
要するに、犠牲である。
穢れたカナリアが、土地や人々から穢れを取り除くためにその身を捧げること。
結果、何人死ぬことになっても、全ては聖なる使命。
それは犠牲になったカナリアはもちろん、犠牲にした連中も、罪に問われることなく許されるという、実に便利な言葉。
「…………」
警備兵たちは顔を見合わせる。
半信半疑でも、聖なる使命と聞けば、それを引き止めるようなマニュアルは存在しない。ヒトも猫も、我が身が一番なのだ。
奴隷が歩き出す。
触れることはできない。
ましてや聖なる使命を宣言したカナリアを止めるなど、許されない行為だ。
そうやって、声高に『聖なる使命』をふれ告げながら、防壁に近づいていく……。
「――あれは何だ?」
「カナリア? だが……」
「おい、何事だ」
聞き覚えのある声が近づいてくる。
「待て。止まれ、カナリア!」
「ごきげんよう、ムロ軍曹」
奴隷は軽く会釈する。
「ですが、心配はご無用。私たちはこれより『聖なる使命』に殉じます」
「そんな話、こちらは一言も――」
「私たち自ら志願しました。『聖なる使命』は誰にも止められません。私たちの生死はすでに決定されています。あなたも信徒なら、これを阻むことは許されないと知っているはずです」
「……その通りだが……そっちの連れているのは、何だ?」
奴隷を守るように侍る、白く巨大な四足の野獣。それに跨る二人のカナリア。
…………今、やつらの目におれたちはそう映っている…………。
「前にお話した、猫さんです」
「は?」
「――正面は陽動です。気を取られないで、後ろを守ってください」
笑顔で言い切るなり、奴隷は野獣の背にまたがる。
「まっ――」
そして、ムロ軍曹が反応するより早く、野獣は駆け出し、闇へと消えた。
防壁の柵をひとつ、突き破って……。




