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カナリアは、もう啼かない!  作者: 愛章
1章 おれさまは、猫である
19/46

3頭と征く(2)

警備を突破します…

「――おい、こっちにも居るぞ!」


 軍靴の音が増える。


「待て……そこに居るのは誰だ?」


 右手の黒い穂先の小槍を構えつつ、左手の松明を掲げる。

 二人の警備兵の前に、奴隷が白いローブを広げてみせた。


「――カナリア?」


「なぜここに? いや――」

 警備兵のひとりが、炎に浮かぶ影に目を凝らす。

「――それは、何だ?」


「はじめに申し上げます」


 奴隷はおれの言葉を、そのまま口にする。


「私たちは味方です。聖なる使命のために参りました」


 聖なる使命。

 要するに、犠牲である。

 穢れたカナリアが、土地や人々から穢れを取り除くためにその身を捧げること。

 結果、何人死ぬことになっても、全ては聖なる使命。

 それは犠牲になったカナリアはもちろん、犠牲にした連中も、罪に問われることなく許されるという、実に便利な言葉。


「…………」


 警備兵たちは顔を見合わせる。

 半信半疑でも、聖なる使命と聞けば、それを引き止めるようなマニュアルは存在しない。ヒトも猫も、我が身が一番なのだ。

 奴隷が歩き出す。

 触れることはできない。

 ましてや聖なる使命を宣言したカナリアを止めるなど、許されない行為だ。

 そうやって、声高に『聖なる使命』をふれ告げながら、防壁に近づいていく……。


「――あれは何だ?」

「カナリア? だが……」

「おい、何事だ」


 聞き覚えのある声が近づいてくる。


「待て。止まれ、カナリア!」


「ごきげんよう、ムロ軍曹」

 奴隷は軽く会釈する。

「ですが、心配はご無用。私たちはこれより『聖なる使命』に殉じます」


「そんな話、こちらは一言も――」

「私たち自ら志願しました。『聖なる使命』は誰にも止められません。私たちの生死はすでに決定されています。あなたも信徒なら、これを阻むことは許されないと知っているはずです」

「……その通りだが……そっちの連れているのは、何だ?」


 奴隷を守るように侍る、白く巨大な四足の野獣。それに跨る二人のカナリア。

 …………今、やつらの目におれたちはそう映っている…………。


「前にお話した、猫さんです」

「は?」

「――正面は陽動です。気を取られないで、後ろを守ってください」


 笑顔で言い切るなり、奴隷は野獣の背にまたがる。


「まっ――」


 そして、ムロ軍曹が反応するより早く、野獣は駆け出し、闇へと消えた。

 防壁の柵をひとつ、突き破って……。


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