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カナリアは、もう啼かない!  作者: 愛章
1章 おれさまは、猫である
12/46

お箸を折ってはいけません!(1)

もうお腹ぺこぺこです…!

「いただきます」


 ――長い。

 実に長い黙祷のあと、ようやく奴隷たちは食事に箸をつけた。

 用意したのは村の住民。

 この宿舎の窓のひとつが専用の受け渡し口になっていて、朝と夕方の決められた時間に持って来るそうだ。出前というより、家畜や囚人の扱いに近い。

 しかし食事内容は意外と人並み。実体はともかく、カナリアもまた聖職者という肩書きがある以上、無下にはできないということらしい。

 おれたちが教会堂で話している間に、ライラは受け取った食事に手を加えて、テーブルに並べていた。

 食器がひとつ多いのは、おれの分だと言う。


『ネロ様、食べないのですか? おいしいですよ?』

『……おれは猫舌なんだ……』

『じゃあ、ふーふーしますね?』

『よせ、ばか!』


 止める間もなく、スープが飛び散っておれに襲い掛かる。


「あわわわ、ごめんなさい――! は、早く拭かないと――!」

『いてっ、いでででででで……むちゃくちゃにこするな!』


 もういい、放っておけと、おれは部屋の隅で毛づくろいしながら丸くなる。


『ネ~~ロちゃん。私ので良かったらどうぞ。まだ口はつけていないから』


 ライラめ……さてはこうなると分かっていて、あらかじめ取り分けておいたな。策士め……奴隷の顔を立てつつ、おれのご機嫌を取るとは……。

 まぁ、良い。望みどおり頭くらい撫でさせてやろう。


『ず、ずるいです、ライラ。ご飯は私の役目なのに……』

『あら、ちゃんと順番は守ったわよ? あなたも奴隷なら、主人の好みくらい考えておきなさい、おほほほ』

「……あほくさ……」


 独り、我関せずといった顔で、黙々と食事をしているサラ。

 こんな得体の知れない、どこまで猫なのかどうかも怪しい、自称グリムの一体どこが可愛いというのか、全く理解できない。

 ……という心の声が混じったつぶやきである。


『まぁまぁ、サラの心配は分かるけど、かといって邪険に扱う理由もないじゃない』

 おれの体毛を愉しみながら、ライラはもっともらしい顔をする。

『こうやってお互いに思っていることだって分かるんだから。少なくともネロちゃんの言葉に嘘は感じられないわよ?』


『…………だとしても、本当のことを言っているとは限らないわ』

『――全く、面倒なやつだ。素直に触りたいのなら、そう言えばいいものを』

「だっ、誰もそんなこと言ってないわよ!」

『声が出てるぞ』

『出たわね』

『出ましたね』


「~~~~~~っ!」


『……というわけだ。きさまの心の内はもちろん、おれの内心だって多少は漏れ出る。互いの全ては読めなくても、相手に向けて語りかける以上、考えを隠し切ることはできん』

『だとしても、全てが本心とは思えない。考えの全ては読めない……それは自分が言いたくないことは話さない、って意味じゃない?』

『なるほど。では質問しろ』

『何ですって?』

『本当のこととやらが何なのかは知らんが、要するにきさまはおれに質問したいわけだ。答えてやるから、勝手に判断しろ』


 サラはユアを一瞥した後、箸を置いておれに向き直った。


『――分かった。とりあえず三つ質問する』

『好きにしろ』


 おれはライラの手を払い、伸びをしてテーブルの下に戻る。


『さっきはどうしてユアにあんなことを言わせたの?』

『さっき……あぁ、山猫かもしれないというやつか?』

『あんな丸分かりの嘘ついて、一体どうするつもりよ』

『全くの嘘ではない。奴隷は大きな猫を見たと言っただけ。山猫だと言ったのはやつらで、奴隷ではない。ましてやそれがグリムかどうか、確かめなかったのはやつらのほうだ』

『じゃあ仮に、その猫がグリムだったのかと聞かれれば、あんた何て答えたのよ』

『その通りだと、答えるまでよ』

『――そんなの!』

『実際、やつらはその猫がグリムだとは考えなかった。やつらにとってグリムとは、凶悪強大で穢れた怪物。まぁ、間違ってはいないが、イコール猫ではないのだろう』


『……だから、あんな馬鹿げた答えを言わせたの?』


『連中にとって重要なのは、奴隷を襲ったのが恐ろしい怪物だったかどうかだ。本心では、それがグリムで無い事を願っていた。やつらにとって、未知のグリムよりも未知の獣のほうが好ましい。山猫など、このあたりでは見たことも聞いたこともないのに、どうしてときさまは言いたかったのだろう? ありふれているものなど、誰も驚いて逃げ出したりはしない。ありえないくらいが、ちょうどいい場合もあるということだ』

『…………へたな嘘を並べるよりマシということね』

『事実、おれは奴隷に一言だって嘘を言わせていない』

『それがあんたのやり方というわけね。もしかして、ユアを奴隷にしたのも同じ理由かしら?』

『答えはノーだが、今のが二つ目の質問か?』

『聞き方が悪かったわね…………。あなた、一体どうしてユアを奴隷にしたの?』

『そんなものに訳が必要なのか?』

『だってあなた、ライラを話せるようにしたり、あたしの目もちゃんと見えるようにしたじゃない。なのに、ユアを奴隷にした根拠が分からない。もっとはっきり言えば、別にユアの助けを借りなくても、この村に侵入することだって、何なら都に入り込むことだってできるはずよ。むしろユアが居ないほうが、好き勝手に行動できるはず。どう考えたって、ユアが必要とは思えない』

『……サラちゃん、ひどいです……』

『事実よ。こんな食事の世話もまともできない役立たず、わざわざ奴隷にしたのはどうして?』


…で、結局触りたいのか?

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