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第八章 反乱



 夜が明けていく──。



 一睡もできずに夜明けを迎えたメルファは、霧が薄くなっていくのを静かに見つめていた。

 どうやら、迷いの霧はようやく晴れていくようだ。


 けれど、厚い雲で覆われているせいで、霧が晴れてもあまり変わらなかった。これからの未来を示唆しているような暗雲は、どこかおどろおどろしかった。


(太陽がすべてを浄化しちゃえばいいのに……)


 そんなことを考えたメルファは、次の瞬間、苦笑した。


 いつの間にか神官の考えに感化されたのだろうか。

 前までのメルファだったら、そんな表現は使わなかったはずだ。


 ぽつり、ぽつりと降り出してきた外を眺めていたメルファは、ふいに目を細めると、その場に膝を突き、両手を胸の前で組んだ。


「女神レウリアーナ。あんたが応えないのなんてわかってるけど、あたしはもう無理だよ。あんたの代わりなんかしたくない。ねえ、あたしの声が届いてるならなんとかしてよっ」


 もちろん、八つ当たりだっていうのはわかっている。

 仮にレウリアーナが姿を見せたとしても、危険なのは彼女の命だ。

 けれど、突然のアークの裏切りに加え、彼が憎い仇の息子だと知って、メルファは平静でいられなかった。

 そうこうしているうちに、この屋敷の使用人が入ってきて、ぼんやりとしているメルファに服を手早く着せ替えていく。簡単な朝食を摂ると、具合が悪いと嘯いて寝室にこもった。大騒ぎをする彼女たちに、安静にしていれば治まると言い捨てて、柔らかな毛布にくるまった。


 


リィ────ンッ リーンッ

 

 静まった室内に、澄んだ音色が響き渡った。雨音に決して消されることのない清音は、窓を閉め切っていても通り抜けていく。

 邪気を払うかのような心に澄み渡る音色に、メルファは耳を傾けた。

 近くにある神殿から毎朝、鳴らされるのだ。どのような道具によって、こんなに美しい音が出るのかメルファは知らないが、時間を知らせる役目も持つこの音は、どこの街でも欠かせないものだった。


 ああ、朝の祈りの時間が始まるのだ、と耳を澄ませていたメルファは、いきなり扉を叩かれ、ぴくりと体を震わせた。


「──ご無礼をお許し下さい。どうしてもお話ししたいことが」


 サリタニやアークでないことに安堵の息を漏らしたメルファは、寝台から下りると扉を開けた。

 そこに立っていたのは、神殿で祈りを捧げているはずの神官であった。年の頃は四十代前半だろうか。彼は、メルファが扉を開けたことに驚いた様子であったが、すぐに頭を下げ、声を潜めた。


「今ならば、警備も手薄です。逃げおおせるのならば、今が好機です」

「なに、言ってるの?」


 女神の仮面を被るのも忘れ、ぽかんと口を開けたメルファに、神官は苦渋に満ちた顔で囁いた。


「このままでは貴女様も穢れてしまいます。私はこれ以上、罪を重ねたくはないのです」

「!」


 メルファは目を丸くした。

 腐敗したルオンの神殿で、まだまっとうな考えを持った神官がいたのだ。


「守警団員の中にも、手を汚すことを嫌う者たちがいます。その者たちに話を付けて、貴女様の警護に当たっていただくことになりました。どうかお願いです。このままでは、ルオンだけでなくファーゼまでもが滅んでしまいます」


 彼はサリタニの計画を知っているようだった。


「駄目、あたしは行けない。だって、仲間を見殺しに出来ないよ」

「ファーゼの未来と数人の命、どちらを選ぶべきかご存じのはずです」

「……っ」


 メルファは返答に詰まった。

 慈雨の地ファーゼを案じているからこそ、サリタニが支配する世の中では滅亡することをわかっているのだ。だが、メルファの言い分も聞かず、自分の思想を押しつける彼は、ただの自分勝手な人間でしかない。


「神官長様がファーゼを支配したのなら、犠牲者はルオンの街に留まりませんよ。今までも……っ」


 神官は語尾を濁らせた。メルファに伝えてもいいのか迷っている様子に、メルファはそっと睫を伏せた。


「知ってるよ。ここでどんな悪行が行われていたか。毎日毎日、罪なき住民の命が奪われていった。アークが大神官になったらサリタニが権力を思うまま振るうと思う。きっと……ううん、絶対。もう二度と安息なんか訪れやしない」

「ならば……!」

「けど、あたしも人間だよ。心がある人間なんだよ。救えるかもしれない仲間を見捨てて、自分だけのうのうと生きることなんてできない。どんな悲惨な未来が待ち受けていようと、あたしはあんたと行くことはできない」

「そんな……っ。貴女様はわかっていらっしゃらない! ファーゼの民をお見捨てになるのですか」


 神官は、メルファを次期女神として疑っていなかった。

 メルファが盗人である事実すら知らないのだ。


 お綺麗な人間じゃないと、この手は黒く汚れているんだと叫べたらどんなに楽だっただろう。

 すがるような神官を黙って見つめたメルファは思案した。

 女神レウリアーナだったならなんと答えるだろう、と。


 もちろんメルファは女神レウリアーナではないのだから、ちっとも思い浮かばなかったが、口は勝手に動いていた。


「──違うよ。あたしの仲間も大切なファーゼの住人だもん。みんな等しい命に優劣なんかない」


 自分で自分の言った台詞に驚いたメルファだったが、ああ、その通りかもしれないと思った。胸にすとんと落ちた答えは、メルファの言いたかったことなのかもしれない。

 思わぬ返答に神官が息を呑んだそのとき、突然笑い声が割り込んできた。


「ああ、ごめんね。いい余興を見せてもらったと思って。ねぇ、父上」


 くつくつと笑いながら廊下に立っていたのはアークだった。 

 彼が後ろを振り向くと、深く笑んだサリタニがゆっくりと近づいてきた。

 メルファたちは話に夢中なあまり気配に気づかなかったのだ。てっきりみんな祈りの最中だと思って気を緩めていた。

 まさか、神官が祈りを放り出すとは考えも及ばないだろう。


「なぜ……!」


 サリタニの後ろには、屈強そうな男たちがいた。緋色の外衣をまとった守警団員だ。彼らの手には、気を失った神官たちの姿があった。暴力を振るわれたのか、口元をはらし、ぐったりとしていた。青ざめた顔でぴくりとも動かない仲間の姿に、神官の体が恐怖に戦いた。


「ああ、まだ死んではいないよ。これからじっくりとお仕置きをしないとね。ほかの裏切り者たちと一緒に」


 瞳を無邪気に煌めかせたアークが愉しげに言った。


 ほかの裏切り者というのは、神官の味方についた守警団員を指しているのだろう。

 神官の顔色から血の気が引いていた。


「あはっ、オレたちが悠長に祈ってるって思った? いけないなぁ。君、参謀には不向きだよね。耳や目はいたるところにあるんだよ。隠せてるって思ってたのは君たちだけ。オレたちはね、君たちの動向をずっと監視してたんだよ。メルファちゃんのおかげで、そろそろ動くかなぁって思ってたけど、まんまとしっぽ出すなんてねぇ。筋書き通りで笑っちゃう!」

「アーク、ご託はよい。次期女神殿を丁重にお連れしろ」

「はぁい」

「っ、ち、近づくな!」


 神官は、扉口で立ちすくんでいたメルファを抱き込んだ。ひんやりとした何かが頬に当たる。短剣だ。彼は掟を破り、自ら穢れに触れたのだ。神官で武器を手にしていいのは、護衛神官をはじめとする限られた者だけだったはず。


 彼は、小声でメルファに謝った。メルファが言うことを聞かなかったら、最初から刃物で脅すつもりだったのだろうか。それとも護身用だったのか、今のメルファには問う術もなかった。


 アークは歩みを止めなかった。

 悠然と前へ進むアークに怯えたのは、人質をとっている神官のほうであった。部屋の奥へと後じさるが、後ろは壁で逃げ場はどこにもなかった。


「この方の命がどうなっても……」

「そんな度胸ないくせ……に…ッと!」


 跳躍したアークは、瞬きのうちに神官をのしていた。短剣を持つ手を片手で捻りあげると、もう片方の手でメルファを攫い、腹を蹴飛ばしたのだ。

 呻いて、あっけなく床に伏す神官。

 短剣を取り上げたアークは、少しも呼吸を乱していなかった。


「大丈夫? メルファちゃん」


 体を震わせるメルファに気づいたアークがそう問いかける。

 キッとアークを睨み上げたメルファは、手を大きくあげて、思い切り彼の頬を叩いた。


 乾いた音が響いた。


 先ほど能力をひけらかせたアークならば簡単に避けられたはずの平手打ちを、彼はなぜか甘んじて受け入れた。


「バカ! バカッ。なんであの男のいいなりになってんのよ……っ」


 違う。


 言いたいのはそんなことではないのだ。本当は、前みたいに優しく気遣ってくれたアークの行動が嬉しかったのに。


「メルファちゃん……?」


 俯くメルファに、アークが触れようとしたその刹那、苛立たしげなサリタニの声が割って入った。


「なにをしている。さっさと次期女神殿を連れてこんか! このまま主神殿に赴き、任命の儀式をすませるぞ」


 サリタニのほうはもう前から準備が整っていたのだろう。

 もともと自分の元にいる裏切り者を消してから、主神殿へ行くつもりだったのだ。

 騒がしいサリタニに、ほんの少しだけ眉を潜めたアークは、すぐに笑顔となってメルファを見下ろした。


「さあ、行こう。仲間の命が大事なら、ね」


 顔を上げたメルファは、アークの真意を探るように見つめた。


「あんたはほんとに大神官になりたいの? イーシスをけ落として? みんなから恨まれても?」

「オレの存在価値は、それだけだよ」


 寂しげに呟くアーク。


 ふと、家族の話をしたときのアークの冷めた表情を思い出した。どちらかといえば、憎んでいるようにもとれた彼の顔つき。あれはメルファを騙すための演技だったのだろうか?

 ひとりだけの殻に閉じこもるアークに、だんだん怒りがわいてきた。

 アークはちっともわかっていない。


「家族ならいるじゃない!」


 メルファは思わず怒鳴った。

 サリタニたちが驚いたように肩を跳ねさせたが、もう取り繕ったりしなかった。


「イーシスもヴァズも……みんなみんな家族でしょっ。血の繋がりがなによ。一緒に過ごした時間が多ければ、血なんて関係ない。子供を道具としてかみてないヤツなんて親じゃない。ほんとの親はもっとあったかいんだ。思って思われるのが家族でしょ」

「メルファちゃん……」

「あたしはアークに傷ついて欲しくなんかない。もしアークがイヤイヤ従ってるなら、あたしは助けたい。きっかけはどうであれ、あたしはあんたに何度も助けてもらったから。たとえ善意じゃなくても、そこに思惑があったとしても、あたしは嬉しかった。ほんとに嬉しかったんだ……。だから──」

「ククッ、これは勇ましい次期女神殿だ」


 メルファの言葉を遮るように、サリタニが皮肉げに口元を歪め吐き捨てた。


「もう少し頭の回転はいいかと思っていたが、たんに感情の起伏が激しいだけか。とんだ誤算だ。まあ、いい。どう足掻こうと、ワシには逆らえんからな」

「どうしてそこまで権力が欲しいの!?」


 アークが押しとどめるようにメルファの名を呼ぶが、感情が高ぶっているメルファにはとめられなかった。


「どうして? 貧民区で暮らしておきながら、よくその言葉が吐けるものだ。虫けら同然に扱われながら、権力を欲しはしなかったのか? 富があれば、地位があれば、見下されることも見放されることもなく、自由に生きられる。惨めな思いをしないですむだろう?」

「──っ」

「なあ、地面に這いつくばって貴人の靴をなめたことはあるか? 汚いと、邪魔だと罵られ、唾を吐きかけながら物乞いをしたことはあるか?」

「え……」


 真に迫った物言いに、メルファから怒気が抜ける。

 それはよく見てきた光景であった。貧民区の住人ならば、一度は受けたことのある仕打ちだろう。メルファだとて例外ではない。仕事を探して街中を走り回ったとき、薄汚れた格好のメルファを見て乞食と勘違いした大人が、水を被せて追い払ったこともあった。


「なんで、そんなこと……」

「知らなかったか? ワシもこのルオンで育ち、両親を病で失ってからは貧民区で暮らしていた。憎らしかったさ。明日の心配もなく笑っていられる平民や貴族が。だからワシは誓ったんだ。いつかこの地の権力者となり、ワシを馬鹿にした輩に復讐してやろうとな」


 爛々と光る双眸は狂気で歪められていた。もはや、清廉な神官とはほど遠い姿であった。いくら外見を整えても、心の醜さが表面にも透け出ていた。


「だから簡単に人の命を奪ったの?」

「ククッ、だれでもよかった。人々が恐怖し、ワシを畏れ敬うのであればな」

「ひどい……っ」


 彼の自尊心を満たすために両親の命は儚く散ったというのだろうか。


「語り過ぎたか。──アーク、行くぞ」


 廊下にいたサリタニが促した。

 しかし、アークはその場を動こうとしなかった。


「なにをしている、早く来ないか」


 アークの異変に気づいたのか、サリタニが足を止めた。

 微笑んだアークは、メルファの体を引き寄せると腕の中へ閉じこめた。


「父上、残念ながら時間切れです」

「なにを……」


 訝しげにサリタニが眉を寄せたとき、一階が騒がしくなった。


「だれ一人として逃がすなっ」


 言い争う怒声が聞こえてくる。

 呆然とするサリタニに、悪戯が成功したような子供っぽい笑みを浮かべたアークは、小首を傾げた。


「オレも中々の演技者でしょ、父上」


 無邪気に笑ったアークは、不安そうな顔をしているメルファの頭を優しく撫でた。


「さあ、罠にはまったのはだれかな?」

「……っ、ワシを裏切ったのか!」

「あはっ、心外だなぁ。裏切るもなにも、そこまで情はなかったでしょ。っていうか、オレは護衛神官の立場を気に入ってるんで、大神官サマなんてたいそうな地位は興味ないんですよ~。だから、諦めて刑に処されてくださいね、父上」


 その直後、武器をもった護衛神官見習いたちが現れた。彼らはアークに気づくと一礼し、抵抗するサリタニや守警団員を軽やかに捕らえていった。

 アークを罵る声が遠くなっていく。

 あまりにもあっけない幕引きに、メルファは言葉もなかった。今目の前で起こったことが信じられないように愕然としていた。


「メルファちゃん、もうなにも心配することはないよ。君の大切な仲間は、大神官サマたちが保護してるし」

「……んで、」

「ん?」


 唇を戦慄かせたメルファは、アークの腕の中から飛びだした。そして、複雑な顔でアークを見上げた。


「わけ、わかんない! ちゃんと説明、してよ。あたし、すっごく辛かったのに……! アークがサリタニの子供だって知って……、」

「うん、ごめんね」


 アークは自分の瞳と同じ色をしたメルファの髪を優しく撫でた。

 口調は軽いのに、触れた手から本当に申し訳なさそうな想いが伝わってくるようで、メルファはぐっと押し黙り、唇を引き結んだ。


「メルファちゃんを利用した。言ったよね、印章を盗むところを見てたって。それで今回の計画を思いついたんだ」

「……サリタニは、父親なんでしょ」

「父だなんて思ったことは一度もないよ」


 アークは双眸を翳らした。

 それを見たメルファの胸がぎゅっと痛くなる。


「前に話したと思うけど、オレはね、捨てられたんだ。実の父親にね。けどオレが護衛神官となって、その利用価値に気づくと連絡をとってくるようになった。いまさらだよね。オレはもうサリタニを父親だなんて思えなかった」

「じゃあ、なんでサリタニの言うことなんて……」

「あはっ、オレは護衛神官だよ。身内の悪事を放っておけると思う? ずっと前からこの日を思い描いてきたんだ。罪を隠匿する神官長を逮捕するには、大仕掛けの演出が必要だったんだよ。──たとえ、無関係の民を犠牲にしてもね」

「うそばっか……」


 メルファは呆れたように呟いた。

 アークはそんな冷酷な人間ではない。もしそうだとするなら、わざわざメルファや仲間のことを助けたりはしなかっただろう。


「──俺にも黙って遂行するとは、ずいぶん大がかりな芝居だな」

「そうですね、僕たちも見くびられたものです」


 アークの話を立ち聞きしていたらしいイーシスとリオスが、姿を見せた。

 いつの間にか屋敷は静まり返っていた。みんな護衛神官見習いに捕まったのだろう。


「や、やだなぁ、大神官サマ。ほら言うじゃない。敵を欺くにはまず味方からって。ローゼス主神官には悪いことをしたけど、まあ日頃の行いが悪いせいだよね」


 どことなく怒りを含んだ、殺伐とした空気をまとうふたりに、アークは頬を引きつらせた。


「貴様が仕向けたのか?」

「え~、まあ、否定はしないけど。だってほら、裏でこそこそしてるのばれたら困るからね」

「ふんっ、俺たちまで謀った罪は重いぞ」


 イーシスは目を眇めたが、アークが裏切っていない事実に安堵しているようでもあった。


「死鳥を寄越すとは、考えたものだな」


 イーシスは小さな紙切れをアークへと放った。そこには、サリタニが今日動くことが記されていた。


「あはっ、さっすがオレの相棒。大神官サマはオレのことを信じて、こうして駆けつけてくれたってわけね」

「本来なら、あなたの行為は見咎められるべきものですよ。まったく、慈悲深いイーシス様でなく、冷酷なバルティンがこの場にいたら、あなたを詰問するだけではすみませんよ。位階の剥奪、もしくは護衛神官見習いへの降格が妥当ですかね。ま、僕としても愚かな同輩がいなくなるのは好ましいことですが」

「ちょっ、リオスくん。それってないんじゃない? オレ頑張ったんだから褒めてよ! ほら、終わり良ければすべてよしっていうじゃない」

「あなたの場合はやり方に問題があるんだ」


 言い合うふたりをよそ目に、ぽかんとしているメルファへと近づいたイーシスは、その手を取った。


「今度は、振り払うなよ?」

「イーシス……」

「これで、貴様は満足か?」

「……どうかな」


 メルファは気まずそうに視線を逸らした。


「ほかになにを望む」

「わかんないよ。欲なんてさ、キリがないんだ。わき水みたいに、どんどん欲求は大きくなる。だからさ、今はただ、神官長たちの悪事が暴けただけで満足だよ。……ずっと、ずっと、待ち望んでた。ルオンから闇が取り除かれるのを」

「そうか。──そこに倒れている神官もサリタニの手の者か?」


 イーシスに問われ、すっかりその存在を忘れていたメルファは、ぁっと小さく声を上げた。

 ちょうどそのとき、彼は意識を取り戻したようで、唸りながら体を起こしていた。


「いったい、なにが……」


 部屋を見回した彼は、護衛神官の姿に気づくと口をあんぐりと開け、慌てたようにその場に伏したのだった。



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