5
仕事を早めに切り上げて、ケーキ屋に入りショートケーキを2個買い家に帰る。
カバンを放り投げ、すぐに仏壇の前に座り、買って帰ったケーキを置き蝋燭を2本詫立てる。
「心江、お誕生日おめでとう」遺影に向かって言いながらスーツのポケットから小さな箱を取り出す。
「9号だよね?どう?きつくないかな」そう言いながら、箱を開け指輪を遺影に向かって差し出す。
「うん、すごく似合っているよ」
その後も何度も話しかけるが、心江からの返事はなかった。
冷えたビールを冷蔵庫から取り出し、左手に持ち右手の人差し指で開けゴクリといい音をさせて飲む。
この頃は、一人の時間の長さにも少しずつ慣れてきて心江が嵌っていたDIYをやったりしている。
…と、言えばカッコイイのだが、実際に俺が作るのは、工作程度なのだが。
今の職場に満足しているので、プロになりたいわけでもないし自分の目的に合ったものが作れればそれで十分なのだ。
初めからうまい人なんていない。
俺も結構失敗したりしているが、作るたびに腕が上がるのを感じられると気分が上がるし、失敗したものは他の何かに変身させることができる為一つも無駄ではないのだ。
例えば、これも失敗作をアレンジしたもので、形は歪だがこうやって色を塗れば立派なペン立てになった。
もちろん、作品が出来上がるたびに、線香を焚いて心江に報告しているのだが。
なにか夢中になれるものがないと、俺は狂ってしまいそうなのだ。
心江がいない世界で生きるという事は、耐え難い苦痛であり、
この十年間俺は最高に幸せであったことを、失ってみて初めて気が付いた。
言わば、俺と言う人間は、一人の人間「心江」の中毒者なのだった。
風呂に入りながら考える。
いや、考えたいから風呂に入るのではない、風呂に入るとやることがない為に気になってしまうのだ。
そして、心江は入浴中に亡くなったため、風呂に入るたびに、そこに引き戻されるのだった。




