誰も彼も自分のために
花江とボーイは相変わらず他キャストから嫌われている。
花江は不満に思ったことをペラペラと他キャストに話しながら依存先を探し、ボーイはボーイで店の内部事情をオーナーに話す時には「花江が、花江が。」だった。心底くだらない。
ボーイという立場にリーダー性が伴わないのであれば、潔く辞めればいいのだ。
花江も花江で件の「給料泥棒」たちと表面上仲良くしつつ写真を撮ろうと言い出すも、見ているのは自分が盛れているかどうかだけだった。
ボーイから提案があった。
「佐和子さん、ガールになりません?」
「花江も『毎日会えるなら』って張り切ってますよ!」
コンスタントに出勤できるならガールでもキャストでも構わなかった。後に知ることとなる、ボーイの付け回しは下手の極みで、花江の席しか見てないのだから、着いていく人は誰一人としていない。
オーナーに伝えて欲しいと花江が甘えてきたので、花江を嫌っているスタッフの給与計算が間違っていた事などを伝え、キャストの現状を話すと、
「じゃあ君がガール兼教育係ね。」
と言われてしまった。
頼られているのは嬉しいことだった。
ただ時給は500円ほど下がるし、ボーイの仕事が無くなるとなるとボーイも優柔不断な面を見せ始めた。
誰を信用したらいいのかわからない。
いや、この世界では誰も信用しない者が生き残る。
頭ではわかっていても、毎日一緒に入れて楽しいという花江の笑顔が見れるなら、多少の自己犠牲もいいと思っていた。
事件はまたしても起きる。
出勤前でバダバタしてると言うのに、Xから鉄板焼きにいるから今すぐこいというものだ。口調の強さから、電話越しにアルコール臭がしそうな勢いだ。
「おい、絶対来いよ。地元の暴力団の先輩も来てんだ。挨拶するって言ったんだよ。」
「わかった、わかったってば!でも10分20分で帰るよ。今日ラウンジ出勤だもの。」
行ってみるとなんてことない。
ギュウギュウ詰めの店内は年齢層が高めだ。
それをわざわざ、
「あっちの先輩は現役ヤクザでー」
「あの先輩は飲み屋街進出禁止だ」
など紹介してくる。
わたしにとってみたら、
いや誰だってそうだろう、
この田舎町のヤンキー軍団以外は無関心な話題ばかりだ。
もうすぐ20分近く経っている。
「もう時間だわ。帰るわね。」
「おい待てよ。俺の後輩の店だぞ。一言言えば1時間くらい居座れるって。電話、かけろよ。」
牙をむき出しにしたがらXは電話を急かす。
あーだから、酔っ払いって、地元のヤンキーって嫌いなんだわ、心底軽蔑したが。タクシーで行くにしても間に合わない。仕方なくオーナーに電話した。
「すみません、Xさんと飲んでいて出勤が30分ほど遅くなりそうです。」
ため息のような間を置いた後、冷徹に言い放つ。
「俺とXさんの中では使える言い訳だけど、店は関係ないからね。キャストの教育係として紹介する以上。そこだけ覚えておいて。」
迎えに来てくれた送迎車に乗り込み化粧を直す。
なんでわたしが被らなきゃいけないのだ、とふつふつと怒りが込み上げる。
鳴り止まない携帯を見ると、ボーイからで「満卓なのでできる限り急いでください!」というメッセージが何通も入っていた。
なんでみんなこう自己中なのだ。
だから大嫌いなのだ。
夜の世界は。




