スキルスティーラー
「あいつら、生きてるかな」
水岡はふと湧いた疑問を口にしてしまうが、
天花は変わらぬ様子で淡々と答える。
「さあ?ちょっと見てくる。
華憐さんももう少しで来るはずだからここで待ってて」
そう言って下方へ飛ばされた敵2人を確認しに駆けて行く。
「今の質問はちょっと無神経だったんじゃねえか?」
水岡と天花は付近で誰かがコア能力を使用するのを感じ取った。
男の声が響いたのと同時にコツンという音が周囲からしたかと思うと、
辺りに何かの小さな粒が雨のように降り始める。
水岡は手のひらに落ちてきたそれを見た。
(紫色の水晶……?)
不審に思っていると、天花が叫びながら駆け寄ってきて2人の体を守るように翼を出す。
だが、少し間に合わなかった。
水岡は半ば天花に突進されるような形で押し出されたが、
天花の体越しに衝撃を感じながら倒れ込む。
巨大な紫色の水晶が頭上に現れ、落下していたのだ。
(ほかの敵かッ!?)
気を失った天花の重みを感じながら上半身を起こすと、
2人を大きな影が包むのを感じた。
上空を見上げると先ほどよりも一回り大きい塊が出現していた。
(間に合えッ!!)
すぐに黒い物体を変形させ、
上空に向かって傘のようになるように2人を覆う。
それとほぼ同時に大きな紫色の水晶の塊は落下してきたが、
傘に触れた途端、さらさらと砂のようになりそのまま風に流されていった。
「ほほお、やるねえ」
前方を見ると、一人の男が立っている。
身長はそんなに大きいわけではないが、
横幅は広く威圧感があり見るからに人相が悪かった。
年齢は30代後半といったところか。
男は少し嬉しそうに続ける。
「じゃあこいつはどうかな?」
男が翡翠色に発光した。
(味方じゃ、ない……?)
大きく息を吐くような動作をすると、
大きな火球が吐き出され、水岡たちに迫ってくる。
(炎……?すぐに防がないと!)
能力で分厚い壁を出現させる。
壁を隔ててもなおその熱気が伝わってくる。
だが、なんとか相殺できた。
「ほお、いい能力だなあ。
欲しくなってきたぜ」
男は嬉しそうに顎に手を当てて周りを見回した。
「この風ならちょうどいいな」
男は呟いて両腕を大きく広げると、
体が翡翠色に発光し、
蛾のような薄茶色で模様のある2~3メートルほどの大きな羽が男の背中に生えた。
(今度は羽……?どういう能力なんだ??)
だが、その「羽」は微動しているようだが何も仕掛けてこない。
相手のコア能力がわからない以上何をすればいいかわからず、そのまま動けずにいた。
すると、後方から男の声がした。
「息を止めてそこから離れろ!!!」
華憐はアジトへ連絡し応援を要請していたのだ。
滝沢とともにやってきた翡翠のペンタスのメンバー2人と駆け付けてきたところだった。
だが、気付いたときには水岡の体は既に麻痺し始めてその場に倒れ込んでいた。
(なんだ……これ……?)
体がまったく動かない。
息をするのがやっとの状態だが、やがては呼吸さえもできなくなるかもしれない。
「華憐!!!」
後方から走ってきている男が叫んだときには既に風を起こしていた。
華憐の起こした風が敵の男が発生させていた毒の鱗粉を吹き飛ばす。
男はすぐに「羽」を消した。
「奴、大物ね。スキルスティーラーよ」
少しだらけた白いワイシャツを着た目つきのやや鋭い男が片言で告げた。
「わかってる。ウェン、今回は俺が攻撃する」
忠告をした男の体が翡翠色に発光し始める。
男は指でスキルスティーラーのいる位置をなぞって6面体の箱の形になるように囲む。
すると、そのなぞった跡が青白く発光した。
スキルスティーラーはすぐにその場所から離れた。
数秒後その囲まれた場所に激しい爆発が巻き起こる。
「やっぱり当たらないか……!
だが、遠距離ならこちらが有利だ」
コア能力を使った男は顔をしかめながら、
次の攻撃に移ろうとする。
しかし、スキルスティーラーは華憐たちとの間の視界を塞ぐように巨大な水晶を発生させた。
(くそッ!これじゃ俺の能力で狙えない)
華憐の攻撃もあの水晶は破れそうにないと悟り、滝沢が尋ねる。
「追撃するか?」
「いや、不用意に近付くのは危険だ。
とりあえず城嶋たちの救出が先決だ」
4人は天花と水岡のもとへ駆け寄って行く。
その様子を自身が出した水晶の間から横目で見ながら、
スキルスティーラーは倒された味方の様子を確認する。
「あーあ、貯蓄くんはもうだめだねえ。
コアがいってら」
残念そうに呟くと今度はレプリカの様子を確認する。
レプリカはサングラスが吹き飛んで素顔が露になり口をだらしなく開け気絶している。
その左目を指でそっと開いた。
「こっちは無事みたいだな」
レプリカのコアは左目にあった。
(ここで戦うのもいいが、わざわざリスクを冒す必要はない。
あいつらの能力は惜しいが一度退くとするか)
そして、もう一度倒れているレプリカの姿を見る。
「おい、無事か!?」
救援に来た仲間たちが水岡たちのもとへ駆け寄っている。
一方、スキルスティーラーは背中から触手のようなものを伸ばし、
それでレプリカを包み込んで持ち運ぶ用意をしていた。
そして、華憐たちの上空に大きな紫色の水晶を出現させる。
「ウェン、頼んだ!!」
体が翡翠色に発光し、ウェンは両腕を構える。
そして、落下してきた水晶の塊に手刀をするかのような動作をした。
次の瞬間、その塊は4つに切り分けられ華憐たちのもとに落ちることはなかった。
スキルスティーラーは一度後ろを振り返って水岡たちの方を見た。
(なあに、どうせここからは詰将棋だ。
現状維持なら俺の勝利は確実だ)
指でさよならのジェスチャーをしながら触手をバネのようにして跳び、
木の枝に巻き付けてその場を飛び去って行った。
水岡は華憐に介抱されている。
体が麻痺して倒れたまま動けないが、
なんとか口を動かすことはできた。
「天花が……」
「大丈夫。気を失ってるだけね。
うまく防いでるよ」
既に天花の方へ駆け寄り様子を確認していたウェンが答えた。
「そうですか。よかっ、た……」
天花の無事を確認すると、水岡の視界は真っ暗になった。




