戦い方
少し前、水岡たちは策を練ることを迫られていた。
「あれがもう一発来たらどうするんですか?」
水岡は恐る恐る尋ねる。
「別にどうもならないわよ。
確かに威力はすさまじいけど、
あんなに遅ければ走って逃げれるでしょ」
確かに天花の言う通りだと思った。
水岡が少し安堵しかけたとき突然、
上空を大きな物体が覆う。
木の陰になって全体像は見えなかったが、
平べったい塊のようなものが出現していた。
「私の近くに寄って!!」
天花は大声を上げると同時に翼を拡げる。
次の瞬間、その塊がそのまま落下してきた。
崖崩れが起こったかのような激しい音がし、
木々はなぎ倒され塊だった物は粉々になり、
辺り一面は砂嵐のような土煙と土の臭いに包まれる。
落ちてきたそれは舗装された道路そのものだった。
「ひゃははははは!!!!
どうだ貯蓄ゥ、俺のショウは!?!
この中に奴らはいるかなあ!!!」
レプリカのコア能力は物質をコピーするものだ。
出現させる位置を制御したり、
自動で動かすことがある程度できるようになってからは、
コピーしたモノを激しく大破させながらの攻撃方法を心の底から好んでいた。
(どうにかして劇物とか持ち込んだりして使えばいいのに。
この人は付近にあるモノを使ってめちゃくちゃにしたいとかいう、
無駄で悪趣味なポリシーさえなければなあ……
でもまあコスパは悪いけど、
確かにレプリカさんなら簡単にできるうえに、
まあまあ威力も高いんだよな)
貯蓄は1人で興奮しているレプリカを横目に、
次の攻撃に備えて着実に力を貯めている。
「この土煙が晴れたらいるのがバレるよ。
どうする華憐さん?」
自分のコア能力の防御力には自信があるのか、
天花は安否の確認をしなかった。
「遠距離戦はこちらにだいぶ不利ね」
「じゃあ、このままつっこんじゃおっか」
天花は相変わらず無表情だった。
「それもアリかもしれないわね」
華憐もまた、挑戦的で蠱惑的な笑みを浮かべた。
「水岡くん、私たちに着いてきてね。
大丈夫、あなたは私が守るから」
水岡はごくりと唾を飲み込み無言で頷く。
「行くわよ!!」
周囲にがれきや根本の残った木があり足場が悪い中、
敵の方へと走り出した。
「いたぞ!!バカめ。
走って向かって来やがったぜ!!!」
レプリカは即座にバスを出現させ、3人へと突進させる。
恐ろしいほどの勢いで坂を下ってくる。
「なめんな!!」
天花はその大きくて堅牢な翼を出し、バスを薙ぐように吹き飛ばした。
バスは横転しながら斜面の下へと転がり落ちていった。
だが、貯蓄が放っていた光線が3人へと迫っていた。
「こんな遅いの、ちょっと横に避ければ当たらないよ」
天花たちが少し横に移動すると、
光線も追尾するように曲がり始めた。
「追尾もできるのね……!」
華憐が少し息を切らしながら呟く。
(このまま走り抜ければギリギリ避けれるかもしれないけど……)
水岡はまだ平気な様子であったが、
体力面では彼に劣る2人が、
この坂を走り抜けられるかの判断がつかなかった。
「そうはいかない」
天花の体が翡翠色に光る。
翼を発現させたのだ。
「あの攻撃は防げないんじゃ……!?」
言いかけた水岡と華憐は2人まとめて天花の翼に包まれる。
天花はもう片方の翼で地面を強く叩き、大きく跳んだ。
3人は地上10メートルほど飛び上がり貯蓄の放った光線を避けた。
だが、貯蓄は既に次の光線を放っている。
ちょうど3人が着地するであろう位置に、
ピッタリと重なる完璧なタイミングであった。
周囲に熱気をまき散らしながらそれは迫って来る。
(あれが直撃するッ……!)
水岡が思わず両腕で顔を覆ったが、
華憐が左方に突風を巻き起こす。
すると、空中にいる3人は反動でそのまま右方向数十メートル先に吹き飛ばされ、
なんとか攻撃を避けた。
いくつもの枝や木が折れる音が響き、周囲には葉や土煙が舞う。
天花の翼に包まれていたのと、
周囲の木の枝がクッションになったおかげで、
3人はほぼ無傷で着地できた。
だが再び敵2人から距離が開いてしまった。
「なんで今あれを撃たなかったんだよ??」
レプリカは低く唸るように貯蓄を問い詰めた。
だが貯蓄は冷静な様子で臆することなく答える。
「とっさに防がれますねあれだと。
あれはここぞってときにしか使えない一撃必殺なんで。
それにあの場面では着地刈りが最適でしたね」
「あれが噂の風使いの女じゃなかったらな」
レプリカは舌打ちしながら頭を掻いた。
「まあいい、依然追い詰めているのはこちらだ。
今どれくらい溜まってる?」
「そこそこ貯まってますけど、
ケリをつけられるほどではないですね。
レプリカさんはさっきのやつまた撃てないんですか?」
「撃てないことはないが、それをやるとすぐにガス欠になっちまう。
だが心配するな、小さいやつだったらまだ何発も撃てるし、
俺にはこいつもある」
レプリカは再び懐から取り出してナイフを見せた。
(それだけはいつも持ってきてるよな)
貯蓄にはもっと効率的なやり方がいくらでもあるように思えた。
「とにかく今は迎撃に徹しろ。
警戒してこのまま勝手に時間を使ってくれればこっちのもんだ」
レプリカは少しずれかけていたサングラスを直した。
先ほどの着地時の衝撃による周囲の土煙が晴れた頃、
水岡たちは身を隠しながら策を練っている。
妙案だった攻撃が失敗した今、次の手を考える必要があったが、
どの案も今ひとつ攻め手を欠いていた。
戦闘に慣れていないため、
ここまであまり貢献することができなかった水岡は歯がゆい思いをしていた。
そんな彼に妙案が浮かぶ。
その案は華憐と天花には、まさに唯一の打開策のように思えた。
だが、それは水岡にとっては危険なものだった。
「やりましょう。
ボクたちはこんなところで死ねない」
心配する華憐の言葉を遮り、水岡は真っすぐな瞳で言い放つ。
その呼びかけに天花は無言で頷いた。
華憐も諦めたかのような笑みを浮かべながら呟く。
「私もできる限りフォローするわね」
「お願いします。
じゃあ行きましょう」
そう言うと水岡は背負っていたリュックをその場に降ろして、
華憐とともに先ほどの攻撃で木々が削り取られ、
見晴らしのよくなった地形へと向かう。
レプリカと貯蓄が辺りを警戒していると、
坂の斜面下に人が現れた。
「あいつか。
このままだとジリ貧だと気付いて、
一気に勝負を決めに来たか?」
だが、こちらを向いたまま走っては来なかった。
代わりに何かコア能力を使うかのような動作をしている。
「どんな手かは知らんが、迎え撃つだけだ。
当たるなら打っちまえ」
水岡は黒い物体を精製し、上空に放り投げた。
それを華憐が強風でレプリカたち目掛けて吹き飛ばす。
水岡の出した物体はすぐに液体状になり、
まるで暴風雨のようにレプリカたちに吹き付けた。
全身に硫酸を浴びたかのような痛みが走り、レプリカたちは悲鳴を上げる。
「熱い!!なんだこれ!!くそがッ!!!」
貯蓄ももがきながら水岡の方に光線を放つが、
あさっての方向へと飛んで行った。
「よく狙えばこの距離ならすぐに殺れる!
あのガキからぶっ殺してやる!!」
レプリカも躍起になって水岡を狙うことにした。
早速バスを出現させ、こちらへ迫ろうと坂を駆け上がって来る水岡の方へ走らせる。
水岡はなぜこんな作戦を切り出したのか自分でもわからなかった。
少し後悔しかけている。
だが、水岡は男だった。
足手まといでいる自分が許せなかったのだ。
(華憐さんや俺と同い年の天花までがあんなに必死に戦ってるんだ。
俺だけがだせえ真似してられっか!!!)
雄たけびを上げながら必死に横へと走った。
レプリカはそこへ追いかけるようにバスを向かわせたが、
凹凸の激しい地形ではうまく進めず横転してしまう。
(そろそろ撃ってくるはず…)
ちょうど光線の到来を予想したときに光るのが見えた。
(きたっ……!)
それも真横に走り抜けてかわす。
(部活のときの反復横跳びより楽勝だ)
そして、再び坂を駆け上がり始める。
(ちっ、ここは使うしかないか)
貯蓄はレプリカが何かを目論んでいることを察して、
顔を前のめりにして構える。
水岡との距離が50mほどまで迫ったときだった。
貯蓄は光線を発射する。
スピードの遅いものであればこの距離でも簡単に避けれる、
水岡がそう考えた刹那、先ほどのとは違う何かを感じ取った。
(さっきのやつより速いッ……!)
水岡は反射的に右方向へ飛び込んだ。
足をかすめるがギリギリ避けきった。
だが、倒れ転んだ隙をレプリカは見逃さなかった。
「よくやった!!!これで1人目だァ!!!!!」
バスを出現させ、突進させる。
この距離であればたとえ横転しようとも巻き添えを食らう。
(ダメだ……俺のコア能力じゃ防げない!)
この刹那、先ほどの自分の言葉を思い出していた。
「ボクは野球部で体力もありますから。
この役割に一番向いています。
華憐さんは他の役目をお願いします」
そう威勢よく言ったものの、現実は厳しかったようだ。
だがそのとき、斜め後ろから激しい突風が吹く。
水岡は吹き飛ばされ斜め方向に転がる。
これによりかろうじて、迫りくるバスから逃れることができた。
(華憐さん……!)
転がる最中、水岡は後方に立つ華憐の姿を見た。
華憐に感謝すると同時に、
この作戦は自分にしかできないと息巻いたことを後で謝ろうと思った。
すぐに立ち上がり、レプリカたちへと迫る。
貯蓄は大きめの光線を放ち、
それを避けさせる間に水岡から距離を取るため、
道路を走って下った。
彼らの間は40メートルほどであった。
さらに、レプリカは再びバスを出現させ、突進させる。
だが、距離が近すぎて小回りのきかない車両では、
ギリギリ水岡に避けられてしまった。
その瞬間、水岡は勝利を確信した。
(あいつらは、バスで逃げようとはしなかった。
それならあとは、時間を稼ぐだけだ)
水岡が迫ってくると、貯蓄は再び光線を放った。
(今度は速い方だッ……!
この距離なら避けられまい。
バカめ、お前は俺たちの罠に引っかかったんだよ!!)
水岡は走りながらコア能力を発動して固形化する。
それは盾の形をしていた。
(こっちの方は威力が低い!)
先ほど転倒したときに、貯蓄の放った速い光線が木の幹に当たるのが見えた。
通常ならそれをえぐって貫くほどの威力があるはずだが、
それは木に傷を付けると消え去っていた。
読み通りその光線は水岡の精製した盾で防げた。
レプリカはもはや、攻撃のためではなく障害物としてバスを利用する。
水岡は盾を解除して転びそうになりながらも避け、
体勢を持ち直して再び全力で追いかける。
バスが視界から消え、レプリカたちの姿が見えた瞬間、
貯蓄の放った光線がこちらを狙って進んできた。
とっさにコア能力を発動し、液体状態のまま間一髪で相殺させる。
(今のは危なかった……
でも盾を出したままでは距離を詰めれない。
そうか!)
水岡はこのダッシュをして別の動作をしてはまたダッシュに戻るという動きに、
どこか既視感があった。
(あの速い光線はちょうどボールくらいの直径だ
だったらこの形が一番やりやすい)
コア能力を発動させ、精製した物体を左手に装着する。
それはまさしくグローブの形をしていた。
その後、貯蓄が速い光線を撃つがすべて水岡のグローブに収められた。
そのままほとんど減速することなく2人を追いかける。
それはさながら守備練習のようであった。
しかも、今回は練習と違って取れない球は避ければいい。
彼の小学生から続いている野球人生において、
この程度の攻撃を捌くことなどたやすいことであった。
「もういい貯蓄。
何も無理やり距離を取る必要はねえ!
ここでまずあいつからぶっ殺す……!」
距離を取るのを諦めたレプリカが坂を下るのをやめ、水岡に向き直った。
「俺が出せるのがバスだけだと思うなよ!!!」
レプリカが両手を広げると、その背後に複数のナイフが現れた。
こちらを向いて宙に浮いている。
(あれは、大きいのじゃないと防げないな)
10メートルほどまで迫っていた水岡だったが、
すぐに体を覆う大きさの盾を出現させる。
それと同時にレプリカの出したナイフが一斉に襲い掛かり、
盾越しに降り注ぐ数多の衝撃を感じた。
すべて防いだのを確認すると、直観的に真横に走り出す。
既に貯蓄の放った大きい方の光線が迫っていたのだ。
(攻撃はいらない。
引き付けるだけでいいッ……!)
飛び込んで転がりながらそれを避ける。
そして、すぐさま盾を出現させレプリカの追撃を防ぐ。
「威勢がよかったのは追っかけてくるときだけかァ???」
またもや迫る貯蓄の攻撃をすぐさまダッシュしダイブしながら避け、
そのあと盾を構える。
「いつバテるか楽しみだなァ!!」
水岡は必死に走り続ける。
(まだまだ、あと20本はいけるぜ……!)
挑発的な視線をレプリカたちに向ける。
この攻防が続けば、やがて水岡は力尽き、
敵の攻撃の前に命を落とすだろう。
だが、それが続けばの話であった。
今までで一番激しい突風が、
林の方から木々をなぎ倒しながら2人に吹きつける。
そこに突如現れたのは天花であった。
水岡は叫び声を上げる。
「行けェェェ!!!!天花ァァ!!!!」
勢いに乗った天花は翼を出し、
それを思いっきり2人の元へと横から薙ぎ払った。
大地を揺るがすかのような衝撃が辺りに伝わる。
翼は道路をえぐりながら2人に直撃していた。
2人は数十メートル飛ばされて地面に落下したあと、
更に数メートル転がっていった。
「生きてる?」
天花は翼を解除しながら涼しい顔で尋ねてきた。
そよ風に髪をさらさらとたなびかせているその顔にどこか安心感を覚えるとともに、
心を奪われそうになる。
「なんとか、な……」
肩で息をしていた水岡は、大きく息を吐きながらその場に座り込んだ。




