猿渡和真
その後、コア能力の発動による人除けを用いて道を開いた。
これが手っ取り早いといい、
犬養は有無を言わさずに能力を発動させてしまったのだ。
そうして、すんなりと事を済ませ1時間もしないうちに帰路に着いていた。
バスの中で水岡は大荷物を抱えながら、
窓の外の移り行く景色をぼんやりと眺めていると、
車内アナウンスが入った。
「バスは急停車します。つり革などにお掴まりください」
運転手が告げて数秒後、予告通りバスは急停車する。
運転手を始めとして、次々と乗客たちがバスを無言で足早に後にしていった。
「来てるな」
先ほどまで眠っていたはずの犬養はいつの間にか起きており、
周囲の様子を窺っている。
華憐と天花も続く。
「これだけの人除けが発動するなんて、複数人の襲撃ね」
「これじゃいい的だね。とりあえず私たちもここから出よう」
バスを出ようとしとき、
他のバスが坂の上から、
猛スピードでこちらに向かってくるのに気が付いた。
「防いだ方が速いね。みんな私の近くに寄って」
天花が呼びかけると同時に、
体が翡翠色の光に包まれる。
その直後にバスが衝突した。
「やっぱり、選抜者ってのは引かれ合うもんだなァ!
あいさつのつもりだったが、これはもう終わっちまったかな」
黒煙を眺めながら、バスの前方100メートルほどに立っている、
サングラスをかけ、金髪で派手な柄のシャツを着た男が呟いた。
顔の左側に黒い模様が浮かび上がっている。
「レプリカさん、一応貯めてます」
隣に立っているもう1人のやや太った男は、
攻撃の命中した場所から目を離さずに、
両腕を曲げて拳を強く握りしめている。
首に向かって黒い模様が浮かび上がっている。
「うーん、どうやらまだ気配はあるし生きてやがるな。
こうなったら頼むぜ、貯蓄ちゃん」
レプリカはにやけながら少しずれたサングラスを中指で直すと、
模様は消えていた。
「ところでレプリカさん、
いつまでバスなんかで攻撃するつもりなんですか?」
貯蓄はふと感じた疑問を口にした。
「普段使いの武器もあるに決まってんだろーが」
そう言って懐からナイフを取り出した。
慣れた手付きで遊ばせる。
「だが、こいつはあくまでも接近戦用だ」
ナイフをくるくると回しながら付け加える。
「今日は俺の特大のショウを見れるかもしれないぜ?
今回はお前にはその手伝いをしてもらうからな」
「はいはい。あんま消耗させないでくださいね」
貯蓄は小さくため息をついた。
一方、水岡たちは天花のコア能力によって発現した翡翠色の大きな翼に包まれていた。
それは確かに翼の形はしているが、
まるで彫刻のようで、見るからに重厚な翼だった。
横転したバスの周囲は煙に覆われている。
水岡はほかの3人の無事を確認するが、まったくの無傷であった。
犬養は意にも介していない様子で、天花にふと尋ねる。
「毎回思うけど、お前の翼って何でできてんの?」
「知らない。でも丈夫なことだけは確かだよ」
「あそこの2人ね」
轟々と燃えているバスから出ている煙の間から、
華憐が攻撃の主を発見した。
敵もこちらを目視したようで、
同じような攻撃がくると思い構えた。
しかし今度はバスではなく、
直径3メートルほどある黄色い光線が発射される。
それは見た目の割に速度は遅かった。
天花はすぐに先ほどと同じように翼で防御しようとした。
「そいつは避けろ!!!」
犬養は叫びながら能力を発動した。
翡翠色の光に包まれると、移動速度が急上昇した。
天花と華憐を両腕で引っ張り、
水岡を蹴り飛ばしながらその場を離脱し、
道路の脇の林につっこむ。
水岡は背中に背負っていたリュックがクッションとなり、
大きなダメージはなかった。
敵の放った攻撃は4人がいた場所の道路をえぐりながら通過していき、
置き去りになった水岡の残りの荷物を蒸発させて彼方に消えていった。
「自分で防げる攻撃の程度くらい把握しとけ、バカ」
「そんなことないと思ったけどなあ」
天花は相手の死角に入るように木に隠れながら、少し不満足そうに言った。
蹴り飛ばされて木に激突し痛みに耐えながら、
水岡は上半身を起こした。
そのやりとりを苦い表情で聞いていたが、
犬養は戦闘時においては案外面倒見がいいようだと思った。
犬養は突然鋭い目線を、道路を挟んで反対側の林に向けた。
「この感覚……!」
再び、犬養の体が翡翠色の光に包まれる。
まだ立ち上がれない水岡に何者かが急接近してきた。
目の前に立ったその男は不敵な笑みを浮かべていた。
ストリートバスケをするかのような文字の入ったパーカーを着ており、
身軽そうな服装をしていた。
「お前のコアを破壊させてもらうぜ」
水岡は眼前の男の力が膨れ上がるのを感じた。
そのまま男は拳を振り上げ殴りかかってきた。
その攻撃を間に入るように現れた犬養が手で弾きながら止める。
「よォ、犬養」
犬養を知る男は、余裕のある笑みを浮かべながら話しかけてきた。
年齢は犬養と同じくらいであろう。
元々色黒だが、それ以上に目立つ黒い模様が服の上に浮かび上がっている。
「猿渡ィ!!」
犬養の吠えるような声を聞き、
フッと微笑を浮かべながら猿渡は一旦後退し距離を取る。
そこに犬養は一目散に向かっていく。
2人はそのまま奥へと消えていった。
少し離れたところで、木の倒れる音がした。
「さっきの2人は任せた。こいつは俺がやる」
犬養の声が遠くからこだまする。
バスに乗る前にただ1つした犬養自身に関する話で、
猿渡という人物は因縁の相手らしい。
出会うことがあれば、
ほかの一切は任せることになると言っていたのを水岡は思い出した。
残された華憐と天花の元にふらふらと戻る。
「華憐さん、犬養さんが行っちゃいましたよ……?」
「犬養くんはほっときましょう。
それより、さっきのはあれだけの威力となると、
おそらく何発も続けて打てないタイプかしらね。
次の攻撃が来る前にあの2人を叩くわよ」
「もう片方の攻撃は私が防ぐ」
林の中を敵のいた方に先行して走り出した天花に華憐が付いていく。
やや遅れて水岡も駆け出す。
「女2人しかいないから不安?」
先ほどから感じていた不安の正体を見透かされ水岡は黙り込む。
それを見て華憐は笑って続ける。
「うふふ、いいのよ。
まあ普通ならそう思うわよね。
でもね、私たちにはコア能力があるのよ。
決して腕力だけで戦うわけじゃない。
大事なのは能力の使い方よ」
「使い方……」
水岡は明らかに戦闘に慣れている華憐たちが、
とても頼もしく思えてきた。
走りながら自分のみぞおちのあたりに目を向ける。
「前見ないと転ぶわよ」
水岡は慌てて視線を前に戻す。
突然、3人を大きなプレッシャーが襲う。
貯蓄が光線を放ったのだ。
だがそれは3人の横数メートルをかすめて外れる。
光線の通った後には何も残らず、わずかに土煙が舞っていた。
「当たったか?」
「いや、まだ気配がするので外れましたね」
「あのあたりだと思うんだけどなあ」
レプリカは貯蓄が攻撃をした位置の上空を眺めた。
再び顔の左側に黒い模様が浮かび上がらせて、
ニヤリと笑みを浮かべる。
「俺のショウを見せてやる」




