巡り合わせ
非常用に整備されていたアジト内にあるシェルターに、
残った非戦闘員たちが身を寄せ合っている。
刑務所で選定に遭い回収され、
つい最近ここで生活することになった夜野は、
なるほどこれが戦争なのだなと感心するように、
視線をそわそわと泳がせている。
だが、その目にはまるで生気がない。
彼を回収した水岡が最初に得た感想は、
何をしたのかは知らないが、
想像通りの犯罪者に違わぬ陰険とした不安定で危うい何かを纏っているということだった。
彼は誰にも敵意を持っていない。
むしろ水岡たちには感謝さえしている。
それが伝わらずに、常に構えられるのは仕方のないことだと理解もしている。
特に生きる目標のない彼とって、この場はただただ退屈なだけだった。
だからふと興味本位で、このシェルターを抜け出してみることに決める。
選抜者になって日が浅く、コア能力を使ったこともない。
どんなコア能力なのかも今一つわかっていない。
しかしそんなことなどどうでも良い。
夜野は真の自由を得たのだ。
まるで散歩するかのように、気の赴くままに歩みを進めていく。
思った以上にアジトは広く、すぐに会敵することはなかった。
敵も慎重に攻めてきているようで、
散らばりつつも1つ1つ部屋を漁って見逃しがないよう確認しながら進んでいる。
しばらく歩いて夜野は、通路の少し先の角から男が曲がってきたのにばったり遭遇する。
その男はソドム=ゴモラと呼ばれるようになった朝田であった。
互いに動きを止め、硬直したようになるが、
ややあって夜野が口を開く。
「君のプロフィールは知っている。
レポートでたまたま昨日読んだ。
君も痴漢冤罪で捕まったんだって?
君とは戦わねばならない気がしていたよ」
「あ?誰だよテメー」
様子を見てやろうと思ったが一言目でもう見限った。
今にも折れそうな細身で、
暗い影を帯びた雰囲気をしているしけた男などと話をする気はない。
何より、最もソドムを憤らせる事柄に触れてしまったのだ。
ソドムは、有無を言わさず体に黒い模様を浮かび上がらせる。
爆風という名の破壊の嵐が通路を覆いつくして吹き抜け、
その壁をも削りながら夜野を消し飛ばす。
選抜者になってからというもの、
自分が随分と冷酷になったと思った。
だが、それはこうなる以前の鬱憤があればこそだ。
たとえ選定に遭わなくてもこうなるのは、
時間とほんのわずかなきっかけさえあれば、
どの道のことだったかもしれない。
などと、思いふけっているうちにいつも敵はただの炭になってしまう。
運よく生き延び、このぼうっとしている間に逃げおおせたとしても、
別の者がハイエナのように執拗に追い回し仕留める。
最悪の人間たちによる最高のコンビネーションは、
結成してそこまで長くはなかったが、
翡翠のペンタスに恐怖と戦慄を与えていた。
しかし、調子に乗った人間を叩き落とすことに喜びを感じていたソドム=ゴモラには、
そんなもの何一つ面白みがない。
やがてそれに飽き飽きしていたソドムは今回、単独行動を取ると決めた。
着いて来ようものなら、ほんの少し黒い模様を浮かび上がらせる素振りを見せれば、
許しを請いながら逃げるように立ち去ってくれる。容易いものだ。
だが、夜野は平然とそこに立っていた。
その虚ろな目にはただ周囲にメラメラと燃え残っている炎が暗く写っているだけで、
意思が感じられない。
それでも、なぜか彼は生き残っている。
自らのコア能力の激しさがかき消すために、
他の者のコア能力を使う気配を感じ取れないのはいつものことだったが、
得体の知れない何かが起きたのは間違いない。
「やるねえ」
ソドムは嬉しそうに声を上げる。
初撃を生き延びた者がいたのは久しぶりのことで、
彼にとって待ち焦がれていた存在になりうる期待が湧いてくる。
怒りなど二の次になった。
「こいつァどうかなァ!!!」
辺り一面を薙ぐように憎しみを体現した紫の炎が冷たく焼き払う。
これはどんなコア能力を持ってしても貫通する。
彼のコア能力は破壊をばらまくものである。
それは文字通りであり、爆発や炎があるのは本人の憎しみなど負の感情が反映されたに過ぎない。
対物だけでなく、コア関連のものにも破壊が及ぶことが最大の特徴である。
ソドムを始めとした次世代型のコア能力は、
概念的な能力が多い中でも、特に目立つ恐ろしいコア能力と言える。
力というものは目覚めていくものである。
修行や訓練など目覚めさせるための手助けに過ぎず、
まったく必要のない者もいる。
ソドムは選定を終えた直後に、
すでにその片鱗が現れていた。
最初の段階で既にヴィンテージレベルのえげつないコア能力を有していた。
力というものは目覚めていくものである。
夜野もまた例外ではなかった。
迫りくる破壊の炎に対して、防ぐことも避けることもしようとしない。
そういった意思がまったくない。
この戦争における皮肉な運命の出会いが、また1つここに生まれる。




