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エリートウォーズ  作者: 流山治満
全面戦争編
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52/58

アベル

「おい、おい大丈夫か!」


 グロリオサ班の江本に肩を強く叩かれ、

 秋吉の意識は戻った。


 どうやら集中のあまり忘我状態になっていたようだ。

 その場にへたり込む。

 呼吸は荒く過呼吸寸前で、

 もはや立っていることさえできないほどに力を使い果たした。

 それは江本も同様だった。


「完全に持ってかれたよ……

 しばらくは使い物にならんね」

 敵を葬ることこそできなかったが、

 何人かは脱出させることができた。

 グロリオサ班の中から2人、しかもバリバリの武闘派を送り込めたのは悪くない収穫だった。


「あとは彼らに託そう」

 沢田が通信を入れる。

 もともと1班がレッドコアズのボスに到達できるかどうかだった。

 ここに残った誰もが、脱出できた者たちに全てを託した。


 華憐もまた気が気でなかったが、信じて待つほかない。

 天花も妙にそわそわとしている。


(油断って言うのかこれ。

 常時中にいる奴らを監視するなんて芸当俺にはできねえよ……)


 タウロスは悪態を付きながら傷の手当てをしている。

 敵を出してしまった以上、

 現実世界は安全な場所ではなくなった。

 仕方ないので自身もその閉鎖空間の中の、

 敵の攻撃が届きえないであろう場所に身を潜めている。


 二度目はない。

 残った敵だけでも確実にここに留めておく。

 もっとも、ただやることがないから防衛役と言う名の時間稼ぎをしているだけで、

 あのボスがそこらの数人が束になってかかってきたところで、

 負けるわけがないと確信している。


「ま、せいぜいどの程度命を保つことができたか、

 あの世でタイムアタックの記録でも争うんだな」


 負傷により息を荒げながらも、勝ち誇るような表情をしていた。


 

「うおおおッ!!!」

 うめき声を上げて転がりながらも、

 間一髪であの閉鎖空間から脱出することができた。

 水岡は痛みを感じながらも体を起こす。


「出られたのは俺とお前だけか」

 声の主は犬養だった。

 水岡を蹴り出したのはやはり犬養だった。


「犬養さんも出られたんですね」

 転がるように飛び出た先は、

 やはりオフィスの廊下だった。

 だがその廊下には何度も見慣れた剥げかけたタイルはなかった。


「行くぞ」

 脱出できたことに喜んでいる暇はない。

 むしろここからが始まりであり、本来の仕事である。

 おそらく残った方がよっぽど楽だっただろう。

 だが、彼らはそちら側になるさだめではなかった。


 レッドコアズのボスがいるという部屋の前まできた。

 他の班で脱出できたメンバーと合流する。

 グロリオサ班からは毛野と皆月の2人、

 エーデルワイス班からは野内があの閉鎖空間から脱出できたようだ。


 重そうな白く塗装された分厚いドアからはどこか威圧感が漂っている。

 これから試練を受けるかのような趣を感じてくる。

 だがそれは試練などという生易しいものではない。

 敵も逃げずに待ち構えている。

 当然迎え撃つ意思があるということだ。


 先頭を行く油井はそのドアを一瞥した後、

 思い切り開け放って切り込むように部屋に侵入した。


 ドタンという音が、思っていた以上の広さの、

 ものがほとんどなく薄暗い大部屋に響いて小さくこだまする。

 その中心に、微笑みとも怒りとも悲しみとも取れない無表情をした男がこちらを見据えていた。

 間違いなくレッドコアズのボスである。


「お前は確か、ガンマや貯蓄を殺ったやつらか」

「殺してねえぞ」


 猪突猛進せず、案外犬養は敵に調子を合わせている。

 いちいち倒した敵のことなど覚えていない。

 会話の内容は適当だ。

 なぜか犬養のことを認知しているようだったが、その程度では驚かない。

 だが、ねめつけるような鋭い視線は敵の全身を突き刺すように向けられている。


 その間に他の者も大部屋に入り込み、

 各々間合いを掴もうとしている。

 静けさの中この部屋じゅうに殺気が漂い、

 空気が刺々しく張りつめている。


 それをアベルはまったく意にも介さず続ける。


「戦争での敗北は死と変わらんよ。

 彼らは敗北に見合ったものを得られたというのかな?

 それよりも、どうして我がレッドコアズにはエネルギーを放つ類のコア能力を持つ選抜者が多いと思う?」


「選定してるのはお前だって言いたいのか」

 犬養の返しにアベルは凶悪な笑みで返した。

 それと同時に彼の右手から、自分が即死したと思ってしまったほど強力な反応を感じ取る。


 体に浮かび上がる模様は敵のコアと同じ毒々しい赤色をしていた。

 右手から放たれたのはやはりエネルギー波だった。

 だが、その形は見えない。


 発射と同時に白い盾が進路を塞ぐように現れる。

 普段アベルが日常的に放っているものは叶野の盾によってすべて防がれている。

 しかし、犬養たちはそれが破られる瞬間を前にも目撃していた。

 そして、それと同じことが起こることが本能的に理解できた。


 適当に放たれたそれは不可視だったが、

 途中で色を帯び可視光線となり叶野の白い盾を抜け、

 あっけないほど唐突かつ自然に皆月の体を貫いていた。


「がッ……、あ、あっアアアアアア!!!!!」

 やや遅れて皆月の体は目や口や耳など、

 体内から白い光を漏れ放ちながら跡形もなく消滅した。


 断末魔が何もない大部屋に小さく反響する。

 それが消えるか消えないかのうちに毛野は走り出していた。


 防御することは不可能。

 それならもう攻めるほかに選択肢はない。


 彼らにもまだ希望はある。

 ここは建物の12階である。

 でたらめに攻撃をして崩壊すれば、

 自らをも危険に晒すことになる。

 だから派手な動きはできないと踏んでいた。


 そのわずかな希望でさえも打ち砕くように、

 敵のコアに身震いするくらいの力が集まるのがわかる。


(ブラフに決まっている!!!)

 毛野は果敢にも敵の懐に飛び込む。

 この室内全体までもが底冷えしそうな冷気を身に纏い、

 足元を凍らせスケートの要領で滑らかに加速し、

 氷でできたかぎ爪をもってその喉を掻き切りこの戦争を終わらせようとした。


 が、すべては誤算だった。

 アベルは躊躇せずにそれを解き放った。

 彼を中心に無数のサーチライトが放たれたかのように四方八方に光の筋が差す。


 正面から迫る毛野にその数本が突き刺さる。

 直後にその場で静止したかと思うと、

 謎の高音を上げて全身から白い光を放ちながら、

 この部屋に冷たさだけを残して消滅していった。


 野内もまた右肘に被弾していた。


「うおおおおお!!!!」

 翡翠色の閃光が巻き起こったかと思うと、

 その場に鮮血が舞う。

 瞬時の判断で右腕を切り落としたのだ。

 すると、切り落とされた腕だけが光を放ちながら消滅していった。


 激痛に顔を歪めながらも、

 右肩を抑えている野内は生き残っていた。

 まだコアは無事だ。戦うことはできる。


 取り残された水岡は、

 こちらに照準されていないにも関わらず、

 ピクリとも動くことができなかった。


 毛野が先に前に出ていたため、

 遅れて横から回り込んで追撃しようとしていた犬養は、

 距離があり弾幕のちょうど間に位置していたため幸運にも無傷だった。


 どういう原理かはわからないが、

 あの恐ろしい光は数秒後に対象のみを消滅させるようで、

 建物、もっと言うと選抜者以外はすり抜けていくようだった。

 白い盾を貫くための進化の過程において、

 追尾能力がなくなっていたのが唯一の救いだった。


(速攻で懐に潜り込んで一撃食らわすには、距離が離れ過ぎている。

 あっちの攻撃を食らう方が速い。

 これじゃ近づけねえ……!)


 犬養の速攻は近距離であればあるほどそのスピードで、

 意表を突いて敵を葬れる可能性が高まる。

 会話をして時間稼ぎをするのでもなんでもいいので、

 少しずつでもにじり寄っていくしかない。


「お前の速さは厄介だ。

 だがわかっていればどうとでもなる」


 犬養の目論見は完全に見透かされていた。


「そうかい」

 そうして、死出の旅路の一歩を踏み出そうとする犬養を野内が止めた。


「お前たち、作戦がある」

シルバーウィークなので、3日間連続で投稿してみようと思います。

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