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エリートウォーズ  作者: 流山治満
全面戦争編
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50/58

南禅寺義和

 翡翠のペンタスとレッドコアズ。

 それぞれ相手の陣営の本拠地がどこにあるのかを把握したのはほぼ同時だった。

 そしてこれが、史上最大の戦いの幕開けとなった。


 翡翠のペンタス側は次の日の朝、メンバーを集め、

 3日後に決戦とすることが告げられる。

 何の因果か、レッドコアズ側もまた同様に3日後に突入することとしていた。

 互いに自分たちが寝首を掻くことになると思っている。


 水岡たちライラック班は当然、矛の一つとして敵本拠地に赴いている。


「ここが……」


 水岡たちが目の前にしているのは、

 都会のど真ん中にある摩天楼の一角をなす商業ビルだった。

 どうやらこの中の一角に敵のボスは潜んでいるらしい。


 ここまで身を隠してきただけあって、

 選抜者がいる気配や影響など微塵もなく、

 辺りは通常の雑踏と変わりない。

 このビルには今この瞬間も仕事をしている大勢の人間がいる。


「人を盾にもできるってことか。

 よく考えられてるな」

 犬養の呟きに水岡ははっとする。

 今回のようにこの居場所がわかったとして、

 このビルごと攻撃するのは簡単だ。

 だがそれをやってはもう人としておしまいだった。


 だから、大掛かりな方法は難しいとなると正面から入っていくしかない。

 水岡たちは犬養を先頭にエントランスから堂々と入っていった。


 相手がこちらに気付いているかはわからない。

 しかし、なんらかの監視システムがあってもおかしくない。


 だが、水岡たちが溶け込むのはそう難しくはなかった。

 1階は飲食店やコンビニが入っており、

 周りにいるのはサラリーマンやOLばかりだけではない。

 一般客の出入りもあるため、ぱっと見選抜者だとは思われまい。


 すでにライラック班以外にもいくつかのメンバーが集結しつつあり、

 突入の準備が整いつつあった。


 そのとき、全員の通信機に急報が入った。

 みな慌てて振動を止める。

 それは南禅寺からだ。

 全員に音声が流れる。


「やられた。

 敵もどうやらこちらのアジトを察知していたらしい。

 攻め込まれた」


 その場にいた者はみな互いに顔を見合わせる。

 突入を決行すべきか、一度戻って今からでも応戦するべきか。

 どうすることが正解なのか判断がつかなかった。


 そこへ、南禅寺の一声が入る。


「敵が攻めてきているということは、

 あちらも守りは薄いということだ。

 半分は残ってもう半分は援護に戻って来てくれ。

 それまでこの場はなんとか持ち堪えてみせる」


 そうして、水岡たちライラック班のほか2つの班がここに残り、

 翡翠のペンタスの命運をかけた矛となったのであった。



――翡翠のペンタスアジト


 街はずれのうっそうと木々が生い茂るだけのはずの森に、

 振動が重く響いている。

 翡翠のペンタスのアジトの外側には20~30人の侵略者がいる。

 その中の数人は黒い模様を浮かび上がらせ、

 この振動と轟音を次々に生み出す元凶となっていた。


 すでに2,3人が先行して侵入しているが、

 この要塞は明確な入口がなく、

 それを可能にする能力を持った者以外はこうして入口を作るしかない。


 ここに集結している者たちはみな、

 ハチの巣をつついたように敵のお出迎えがあることを想定していたため、

 多少は慎重に身構えていたことに加え、

 想定外の足止めを食らっており、

 すぐに総突入とはいかなかった。


 先に侵入した者たちは敵地のど真ん中にいることへの警戒から、

 派手な行動はしない。

 自分が鉄砲玉になって殉死するつもりなど毛頭ないのだ。

 彼らが南禅寺に察知されるまでの間にできたことは、

 妙に手薄な敵のアジトの中をわずかに探検したことだけだった。


「うっ、キツい……」

 叶野の部屋と同様に、

 南禅寺にもこのアジトを監視するための部屋があった。

 そこにいるのは南禅寺と今この瞬間も時間稼ぎをしている羽島である。


 翡翠のペンタスの砦の守りの要は南禅寺以外にももう1人いる。

 モノの破壊方法には事欠かないはずの選抜者たちがいる中ですぐに突破されないのは、

 その羽島の恩恵である。

 弱冠20歳でありながら、

 この要職に就きこれまで黙々と役目を果たしてきた。

 ポニーテールを時折揺らしながら苦悶の表情を浮かべている。

 彼女も厳しい状況ではあるが、

 レッドコアズ側の一部のヴィンテージたちの強力な攻撃は、

 叶野の盾が経験したことがあるため防がれる。


 だがそれも長くは持たない。

 それでも、このアジトの守りを任せることができるのはこの2人しかいない。


「こちら南禅寺だ。

 総員に告ぐ。

 敵に侵入されている。

 戦闘が不可能な者はシェルターへ集合せよ。

 対処可能な者には私から別途通信を送る」


 すぐに全員の連絡用端末に一斉放送した後、

 改めて討伐組にも連絡を入れる。

 そうしながら、これらの対処について頭を巡らせる。


(早く決着をつけなければならないのは向こうも同じか。

 羽島くんも長くは持たん。

 となれば、ここは私が出るときかな)


 このアジト内で戦闘ができる者は限られている。すぐに答えは出た。


「羽島くんも適当なところで切り上げて避難したまえ。

 私は先に招かれざる客たちのお相手をしてから戻る」

「はいッ……」


 絞り出るような羽島の吐息交じりの返事を背に、

 南禅寺は部屋を出た。


「思ったより広いな」

「まるで人気がないんだが」

(早く誰かきてほしいな。

 1人じゃ心細いよ)


 先に侵入したレッドコアズの3人はそれぞれ違う方法で違う場所に侵入したため、

 息を潜めながらも探りを入れている。


 いずれも万が一敵にばったり出会っても戦闘はできるし、

 負けるつもりはない。

 そんな自信に呼び寄せられるように、それぞれの眼前に人影が現れる。


「君たちがネズミだね。

 よくもまあこんな日に来てくれたものだ」


 その姿はいずれも南禅寺であった。

 認識に関わる彼の持つコア能力は、

 スキルスティーラーと対峙した特務班の真坂と同じかそれ以上のレベルで洗練されている。

 彼の領域内おいて、本人が望めば敵は彼を必ず認識する。


 その顔を知っている者はレッドコアズでもほとんど残っておらず、

 すでにこの戦争から脱落したものと思われていた。

 初見の敵こそ最も注意しなければならないが、

 3人はいずれも退く気はまったくなく、

 その態度は自信に満ちている。


(コイツ、リストにある要注意人物じゃなさそうだ)

(油断はしないがやれない相手ではなさそうだな)

(この僕がこんなおっさんに負けるわけがない!)


 3人ともここで南禅寺を倒すと決めた。

 そして、それぞれの方法で先手必勝を図る。


 1人目のトロイは泳ぐような体勢を取ったかと思うと、

 全身を細長い螺旋状にして、

 その指先から南禅寺の鼻先に吸い込まれるように体内に一瞬で入り込む。

 南禅寺が呻いたかと思うと、次の瞬間には木端微塵になった。


 2人目のヤシャもまた素早い動きで、

 居合のように南禅寺の体をすり抜けて残心の体勢を取った。

 すると、これまた南禅寺の体が文字通り八つ裂きに切り刻まれた。


 3人目のスイキュウはじわりじわりと仕込みをしていた。

 殴りかかった南禅寺の拳は空を切り、

 スイキュウの体は液体となって溶けるように姿を消したかと思うと、

 南禅寺の周りに水が囲むように現れる。

 そのコードネームのごとく、

 南禅寺の頭は直径80㎝程度の水球に包まれている。

 ものの2~3分で南禅寺を溺死させた。


 緊張と不安を乗り越え、自信を得た状態で先に進もうとする3人の前に人影が立ちはだかる。

 それは南禅寺の姿だった。

 彼のコア能力の範囲内、このアジト一帯において、

 彼(・)は(・)い(・)つ(・)で(・)も(・)ど(・)こ(・)で(・)も(・)何(・)人(・)で(・)も(・)現(・)れ(・)る(・)こ(・)と(・)が(・)で(・)き(・)る(・)。


 3人が全員面食らった。

 だが彼らもその程度で隙は作らない。

 すぐに先ほどと同じようにして再度南禅寺を葬る。

 今度こそ間違いなく手ごたえはあった、はずだった。

 やはり南禅寺は再び現れる。

 先ほどの死体は幻でも見ていたかのように跡形もなく消え失せていた。


 確かにこちらの攻撃は当たっているし有効だ。

 手ごたえから間違いない。

 だが、どういう能力か敵は何度も現れる。

 逃げようとしてもその先に立ちはだかってくる。

 3人は敵を殺し続けることを強要されているかのようになってきた。


 いつまで戦い続ければこの戦闘に終わりが来るのか。

 倒しても倒しても何も見えてこない。

 3人は徐々に追い詰められているのは自分ではないかと思えてくる。


 だが、一方の南禅寺も攻め手を欠いていた。

 素手で戦っているのに等しく、

 攻撃するための使い方ではない。

 数で押すことも今はできない。

 故にここで侵入者を足止めすることしかできない。


 ここで、アジト内に小さな振動が響く。

 どうやら羽島はついに崩れたようだ。

 一方でそれは南禅寺の枷も解き放つことになる。


 南禅寺はこれまでアジト一帯を覆っていた能力の影響を解除する。

 その瞬間、レッドコアズの面々がアジトの突入にあたってどこか感じていた忌避感が消えた。


 このアジトは、ここにあるということを知って強く意識しなければ、

 翡翠のペンタスのメンバー以外には気付くことができなかった。

 仮に何かの拍子で付近を通りかかっても決して気付かなかっただろう。


 そしていま、その必要がなくなったため、

 アジトの隠蔽に向けていた力をすべて解除した。


 レッドコアズたちはみな、

 アジトの奥の方からとても強いコアの反応を感じ取った。

 それは、炉心融解した核燃料を想起させるほど激しく、

 とてつもない力が溜まっていることがわかった。


 この力の大きさは複数の選抜者が何かをしているものだと思いたかったが、

 明らかに1人のものだった。


「全力で足止めさせてもらおう」

 南禅寺が言葉を解き放つと、

 外にいるレッドコアズを囲むように大量の人間が現れた。

 それはみな同じ服装をし、同じ背丈で同じ顔をしている。

 すべて南禅寺である。


 ここに翡翠のペンタスの防衛戦が始まりを告げた。

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