モーグル②
「水岡くんたちが遭遇した敵の攻撃から、ようやく敵の位置が割り出せた」
帰還して解散したはずの水岡たちは再び呼び出され、
やや興奮気味の南禅寺から話を聞いた。
水岡たちが選定後の敵を捕捉してからすぐに飛んできたあの攻撃は、
明らかに彼らを狙ったものだった。
無駄だとわかったのか、
ここ最近はめっきりその回数が減ってきていた中だったので、
これは確かな意思を持って行われた攻撃だった。
そしてそれが、決め手となったのだ。
「これまでこちらも、ありとあらゆる手を使いながらも、
敵の本拠地については推測の域を出なかった。
決定的な情報が転がり込んでくるのを気長に待つしかない状況だった。
だが、ようやく始められる」
本人たちも、まさかそんな成果につながるとは思ってもみなかった。
ここがこの戦争の大きな分岐点となる。
その場ではそれ以上のことは何も告げられなかったが、
近々、早ければ明日や明後日にも総力戦の電撃戦が始まるかもしれないことはわかった。
「もしかしたら、次の作戦で全部が終わるのかな」
部屋に戻る途中で天花がふと呟いた。
「え……?」
思わず水岡は唖然としてしまった。
敵のボスを倒すことができれば、
この戦争の状況は大きく変わるだろう。
だがそれでこの戦争が終わるわけではない。
天花の呟きは少々飛躍し過ぎている。
でも、これまで翡翠のペンタスの行動を制限し苦しめてきた、
レッドコアズのボスが放つ追尾機能付きの消滅弾がなくなれば、
一気に数日でカタが付くかもしれない。
叶野や南禅寺の頭脳をもってすれば、非現実的とは言えないのではないか。
確かにこれまで、願いを叶えるために戦ってきた。
だがそれは遠い先の話だと思っていた。
まさかこんなすぐにそのチャンスが訪れることになろうとは、
思ってもみなかったので現実味がない。
華憐も同じように固まっていた。
一瞬、目が潤んだように見えた。
「まだ勝ったわけじゃないわ。
油断しちゃだめよ」
なだめるように言うと、
ちょうど別れるところに着いた。
おやすみを告げて別れた後になって、
水岡は少しずつ実感が湧いてきた。
(これで、すべて元通りにできるかもしれない。
どっちにしても、相手のボスを倒せばきっと大きく何かが変わる)
皮算用はいけないと思いつつも、
感情がだんだんと沸き上がるのは抑えられない。
淡い期待を胸に、水岡は床に就いた。
「いよいよこの戦争も大詰めかもしれないね」
叶野の自室には先ほどまで南禅寺がいたが、
すでに退室した。代わりに見守る者がいる。
「ここまで、犠牲も多かったなァ」
しみじみと感慨深げに見守る者は呟く。
しかしその表情は言葉とは合っていない。
「こんな形になるなら、あの場面で使い潰すべきじゃなかったと後悔するような選抜者もいるんじゃないかァ??」
「先のことなど誰にもわからない。
今更悔いても仕方ないだろう。
失った駒は二度と戻ってこない。
これはいわば、将棋ではなくチェスなのだよ。
そこがポイントだ」
今回の叶野は真面目に返していた。
そうすればするほど、ガイドは乗りたくなってしまう。
「それじゃァまるで、消耗品のようだなァ」
「完全に同じコア能力などない。
そんなことはないよ」
「それ、弁解になってるかァ?」
意地悪く笑みを浮かべるガイドに、
叶野は同じく笑みで返した。
――レッドコアズ本拠地にて
だだっ広い部屋の暗がりで男がオフィスの幹部が使うような革製の高級椅子に腰かけている。
レッドコアズのリーダーことアベルである。
「ついに突き止めたぞ」
これまでアベルは、叶野の盾の出現位置のデータをいくつも集め統計を取り、
居場所を探ろうとしてきた。
だが有力な手がかりはつかめなかった。
そんな中、その距離に制限があるのであれば、
亘の一件で特定につながる可能性があった。
だから亘の近くにいた奴はもちろん、この街にいる奴にも飛ばしてみた。
そして結果は――
以前と何ら変化はなかった。
これでこの方法による拠点の特定は切り上げようかと思った。
(だが、俺には神が舞い降りた。
俺たちは大きな勘違いをしていたのだ。
だから俺たちは奴らの拠点を特定できなかった。
そう……、奴の能力に範囲の制限はなかった)
このことに気付いたとき、アベルは調査方法に心理面も取り入れた。
そして、叶野の防御に何らかの事情があるかのような、
不自然な偏りがあることを見つけた。
その偏りのあった場所に時間や戦闘の有無など様々な条件を付与した結果、
拠点の位置の候補が8つに絞られた。
あとはシラミ潰しに確認をするだけだった。
が、これだけであれば、南禅寺の認識阻害が邪魔をして特定には至らない。
そこに加えて、モーグルが水岡たちが対峙したあとに忍ばせたコア能力が最後のピースとなった。
あのとき水岡たちがレッドコアズの新人に出会ったのは、アベルの罠だった。
アベルはエサを撒いた。
モーグルがコア能力を使うために、一人の新人を犠牲にしたのだ。
そうして、たった今、レッドコアズのリーダーは翡翠のペンタスのアジトの位置を特定したのである。
アベルはすべてのレッドコアズに告げる。
「3日後、我々は翡翠のペンタスのアジトに総攻撃を仕掛ける。」
――同時刻、翡翠のペンタス側
「3日後、我々はレッドコアズのボスに総攻撃を仕掛ける。」
叶野は堂々と宣言した。
唐突に決戦の時期を告げられた。
この戦争史上最大の戦いが幕を開けようとしている。
翡翠のペンタスの誰もが、
どこか前夜祭のような高揚感を覚えていた。
その凄絶な戦いの行方を知る由もないまま。




