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不破昌和

 スキルスティーラーの一件後、油井は単独行動を続けていた。

 人間関係を築くことが煩わしくなってしまったのだ。

 あれ以来ボスからも連絡はない。

 

 この戦いにおいて単独行動は、避けるのがセオリーだ。

 ただでさえ学生の身分である油井には、

 金銭面からも茨の道でしかない。


 傍からみれば無謀とも思われる放浪生活も、

 選抜者ならではの有利さもあった。

 ひとたびコア能力を使えば、その反応で周囲から人がいなくなる。

 おかげで、食料などを調(・)達(・)するのには困らなかった。


 寝ている間はコアの反応が弱まるのか、

 翡翠のペンタスに遭遇することはなかった。

 起床している間は常に周囲に神経を張り巡らせている。

 最初は疲労が蓄積したが、次第に慣れてくると、

 安全な場所を嗅ぎ分けられるようになり、

 他のコアへの反応も鋭くなった。


 ここまで、数回戦闘があったが、

 こちらも重症は負わされていない。

 こちらが一人であって相手が油断しているせいか、

 思った以上に渡り合えていた。

 なんだかここで倒してしまっては拍子抜けしてもったいないとすら思えた。


 そんな放浪生活の中、油井に付いて来る者ができた。

 それはたまたま選定の付近を通りかかったときに出会ってしまった。

 名前は柊沙莉といい、油井と同じくらいの年代の女である。


 他人と関わるのは面倒なのですぐに去ろうとしたが、

 生き残ったとはいえ凄惨な出来事に遭ったショックで、

 縋りつくように泣かれてしまい、

 放るに放っておけなかった。


 仕方ないので同行を一応は許してはいるが、

 やはり煩わしいのであまり込み入った話は聞かないようにしていた。

 それでも沙莉は勝手に付いて来た。


 最初は2人の間にはあまり会話はなかったが、

 次第に慣れてきたのか沙莉の方から語り掛けることが多くなってきている。

 無視するのも忍びないので、適当に相槌を売っている状況だ。


「でさ、結局あんたは何を目指してあちこち行ってるの?」

 相槌を打つだけでは終わらせられないめんどくさい質問が飛んできた。

 なるべく端的に短く答える。


「知らない。とにかく誰とも関わりたくないだけ」

 油井はそれ以上聞くなと言う代わりに少し歩みを速める。

 が、理由は決してそれだけではなかった。

 何かが起こる気がしたのだ。


 恐ろしく暗い。

 そして寂寥感を超えたなにかに恐怖を足し合わせたおぞましいもの。

 ここで油井たちは再びあの感覚を味わう。


(この感じ……)

 それを感じたときにはすでに答えを直観していた。選定である。

 何か話題を作り出そうとしていた沙莉も何かを感じて立ち止まる。


(これはたぶんこっち側のだな。どうするか)

 そこはデパート内だった。

 だが、中に入ることも覗くこともできない。

 それでも、明らかに人智を逸した何かが中で行われているのがわかる。


(生き残った奴を一目見てから去ることにしよう)

 黙ったままそこで立って待つことにする。

 沙莉も無言で横に立つ。


 5分ほどでそれは終わった。


 恐る恐る様子を窺っていると、

 中からよろめくように出てきたのは小学校高学年とみられる男の子だった。

 中ではどのくらいの体感時間だったのかはわからない。

 すでに泣き叫ぶ段階などとうに越していた。

 その顔からは絶望以外の感情が消えており、

 子供が受け止めるにはあまりにも残酷過ぎる惨劇だったであろうことは聞くまでもなかった。

 見るんじゃなかったと後悔しながらそっと立ち去ろうとする油井を沙莉は引き留める。


「ちょっと!!放っておくつもり!?」

 思わず油井は足を止めるものの気乗りはしない。

 沙莉と行動を共にするようになってからというもの、

 大きな強敵との戦闘がなかったためここまでやってこれたが、

 これ以上守らなくてはならない存在が増えるのはあまりにも負担が大きい。

 もともと彼一人でやっていくつもりだったのに、

 これ以上厄介事を抱え込みたくない。


 だが、振り向いたときに思わずその少年と目を合わせてしまう。

 その瞳は明らかに助けを求めていた。

 このままにしておけば、いずれ翡翠のペンタスに見つかったときに殺されない保証はない。


「あーーー!!!

 わかったわかった」

 そう忌々しそうに大声を上げながら、

 油井は少年の元に近付いていく。

 少年は恐怖に身を固めながらその場で動けないでいる。

 敵か味方かあるいはその他か判断しかねているのだ。


「安心して。俺たちは敵じゃない。

 君の名前は?」

 両手を上げながら油井はゆっくりと歩み寄っていく。

 その内心焦りがある。

 あまりノロノロとやっていると、

 選定の気配を嗅ぎ付けた敵がやってくるかもしれない。


「武智朋也……です」

 恐る恐る朋也は歩み寄ってきた。

 ここはデパートであるからしておそらく親を失ったのだろう。

 それにもかかわらず、喚きもせずになるべく冷静に状況に対処しようとする姿勢は見られるのは、

 その年にしてはかなり賢明であると言える。


「何が起こったのかは聞かない、だいたい想像はつく。

 とりあえずこの場を離れよう。

 話はそれからだ」


 無言で小さく頷き、油井に促されるまま、

 朋也たちはその場を後にした。

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