討伐戦⑥
水岡たちは思わず顔を腕で覆う。
目を開け再び亘を見ると、
先の戦闘で負ったであろう傷痕が完全に消えていた。
ぷはあ、と息を吐く。
その直後に力んだ目で笑みを浮かべた。
首をコキコキと鳴らし、肩をぐるぐると回す。
(まさか…?)
嫌な予感が水岡たちによぎる。
それをかき消すためか、休む暇を与えないためか、
天花は亘の方へ駆け出した。
天花1人では瞬殺される。
そうならないために、水岡もやや遅れて不安を胸に抱きつつも続く。
亘の方に動きはない。
むしろ、こちらのことをまったく気にかける様子がない。
ただ、晴れ晴れとした表情をしている。
そこへ重厚な翼が振り下ろされる。
亘は天花の方を見て笑みを浮かべた。
体が軽い。
自由に動けることはこんなにも気持ちのいいことなのだと初めて知った。
これからさらに力を手に入れれば、
どんな景色が見えるのだろうか。
真上から振り下ろされる重厚な拳が、
地面まで落ちることはなかった。
触手が複雑に絡まり勢いを殺され、完全に停止している。
とっさに引いてみるもまったく動かせない。
一度コア能力を解除して、逃げるように距離を取る。
「聞いてねえよ……」
その横で水岡はただ突っ立っている。
手負いであればたとえ1人でも死力を尽くせばなんとかなると考えていた。
しかし、眼前にいるのは全快の、大島たちでさえ倒せなかったスキルスティーラーである。
「ダメだ天花。
こうなったら俺たちじゃかないっこない。
一旦退却しよう」
「嫌なら逃げればいい。
私は1人でもまだ戦う」
天花には強い意志があった。
それは彼女の願いを叶えるためだけではない。
先日の戦いでボロボロになったのは水岡や犬養だった。
無力なままでいるわけにはいかない。
そんな思いがあった。
そんな真意など知る由もない水岡が、
どうするべきか決めあぐねている間に、
天花は再び亘へ向かっていく。
「ああ……!!
くそっ!!!」
不本意ながらも水岡は共に立ち向かうことを選ぶ。
天花は走って勢いをつけ、
翼を使って棒高跳びのように大きく跳ぶ。
(受け止められないくらいの勢いで殴ればいい……!!)
振り落とされる両翼は、5階建てのビルくらいであれば、
木端微塵に破壊できるほどの威力があった。
「俺の仲間もやられちまったんだ。
その分のコアは回収させてもらうぜ」
その重機のような両翼は、完全に静止している。
触手にがんじがらめに捕らわれていた。
欲望に満ちた獣が触手をウネウネとさせる。
獲物を目の前にした肉食動物のような眼光だった。
それが天花を見据えている。
(倒す覚悟じゃない、守る覚悟だ……!!!)
水岡はその漲る力をほとばしらせ、突っ込んでいく。
亘の触手が天花を貫こうかとする直前、
天花を捕えていた触手がすべてプツンと千切れる。
水岡が投擲したモノを分解させる黒い塊が空中で液体に変わり、
拡散しながら触手を分解していた。
触手の制御が奪われ緩み、
拘束されていた天花はするりと抜け後ろに倒れ込んだ。
「ぐあッ!!」
黒い液体を少し浴びた亘は、
後ろに飛び退き一時的に距離を取った。
「大丈夫?」
「ん。ありがと」
「俺も一緒に戦うよ。
やれるところまでやろう」
「……うん」
2人は亘を見据える。
荒くなった呼吸を一度整えている。
「やってくれるじゃァねェか」
顔の左側を強く押さえながらも、
もう片方の目でギラギラとした視線を向けている。
狩りから戦闘へ格上げすることに決めた。
(やっぱり、ありとあらゆる手を使ってこその俺だよなァ)
この戦闘で、亘は終始ニタニタとした笑みを浮かべていたが、
それが消え一瞬無表情になる。
そして、 短く呟いた。
「開幕」




