討伐戦⑤
「……!」
コア能力の反応が小屋の中からあったのを、
天花は感じ取っていた。
突入するべきか迷っていると、
あちらからドアを蹴飛ばして出てきた。
紛れもないスキルスティーラー本人である。
既に触手が1本出現しており、
血の滴る何か黒い物体を掴んでいる。
「お前らは覚えてるぜ」
そう言って屈託のない邪悪な笑みを浮かべる。
「しかしお前らのようなガキが刺客とは、
俺も舐められたものだ」
周りの空気がピリピリとして重くなったような感覚がする。
これが重症を負い逃げていた人間のものだとは思えなかった。
それでも、水岡は一歩を踏み出す。
「あんたのコアを破壊する!!」
そう宣言すると、亘はくっくと笑い始めた。
禍々しい黒い模様とともに6本の触手が阿修羅像のように生える。
亘はそれらを調子を確かめるように不気味に蠢かせる。
亘の体が翡翠色に発光する。
水岡は炎が迫ってくると想定し身構え、思考を落ち着かせる。
(能力はだいたいわかってるし、相手は手負いだ。
能力を見てから対処すればいい)
……はずだったのだが一向に何も起こらない。
隣の天花の様子を見るまでの余裕はなかった。
突然、横から強い衝撃を受ける。
反射的に起き上がったときに、
ようやく天花によるものと気付いた。
もといた場所を見ると、
一匹の茶色の蛇がとぐろをまいて佇んでいた。
それに天花は容赦なく翼を振り下ろす。
そのマムシらしきものからは、
わずかにコア能力の雰囲気がしていた。
(遠距離攻撃は発火だけじゃなかったのか……
しかもこれはずっと気にしてないといけないやつか……!)
その様子を亘はゆっくりと眺めていた。
(「コアを破壊する」のあたり、慣れてないねえ)
自分から戦いを仕掛けることは水岡にとって初めてのことだ。
(恐怖に足がすくんだらここでおしまいだ。だがそれなら……!)
水岡は前に出る。
そこへ火球が飛んでくる。
真横に飛んで避けた。
(イメージ通りだッ!)
水岡は素早く近付き、体を翡翠色に発光させる。
黒い塊を手でつかみ、投擲する。
それらは弾けて飛沫となった。
(簡単には防げないぞ!!)
しかし亘は触手で木を掴み、
ターザンロープのようにして後方に飛び退き、
それらをいとも簡単に避ける。
しかし水岡に焦りはない。
「わかってたよ!」
その先に迫っていた天花の翼が、
横から薙ぐように襲い掛かった。
しかし、今度は触手をバネのようにして、
地を蹴って真上に飛び、木の枝を掴んで回避される。
「くそっ、攻略法はわかっているはずなのに……!!」
「水岡くん!!」
水岡は亘が体を翡翠色に発光させながらこちらを見ていることに気付く。
慌ててその場を離れると、元いた場所に炎が上がっていた。
(危なかった……)
亘は既に木の陰に隠れていた。
かと思うと、反対側から飛び出して発火を仕掛けてくる。
水岡はダッシュして火から逃れる。
(どうするか……)
天花も攻撃を命中させられないでいた。
しかし、彼らはチームである。
互いに背中合わせになり攻撃に備える。
そこで水岡が小声で告げる。
「打ち合わせた作戦を使ってみよう」
「わかった」
返事をするや否や、天花が先に動き始める。
それも逃走するような形で。
完全に背中がガラ空きだ。
すぐに亘が迫る。
「助けでも呼びに行くのかお嬢ちゃんよォ!!」
後頭部にコアがあることはわかっていた。
その柔らかそうな背中に触手が届くかというとき、
天花のコアが光った。
天花の翼は背中から生えてくるのだ。
「うおおお!!!」
咄嗟に触手をクッションにして直撃を防ぐ。
吹っ飛ばされながらも無傷で着地した亘は、
横から回り込み今度こそコアを奪おうとする。
そこへ水岡がいつの間にか精製していた槍を携え突進してくる。
「こっちが本命だったんだろ!?
わかってんだよォ!!!」
亘の体が翡翠色に光る。
燃え盛る灼熱の壁を放つ。
それと同時に木の影へ身を隠そうとする。
だがそれは意味をなさなかった。
天花は両方の翼を拳を握るような形にしてそれをひたすら振り下ろした。
巨大なハンマーでもぐら叩きをするかのように激しく、
何度も振り下ろす。
地響きがして木々の葉や枝が落ちてくるうえ、
土煙も舞うその様子は軽い災害である。
「見かけによらず派手なことをするねェ」
亘はわけもなくいなした。
余裕を保っていたが、1つの可能性を見落としていた。
その猛撃の嵐の中を突き進んでくる者がいるという可能性である。
炎の壁を下がらずに避け、
こんな地盤が崩れるかのような激しい揺れが続く中で、
適格にこちらを狙える者などいるはずがなかった。
しかし、天花と水岡はそれを可能にした。
亘の背後まで迫っていた水岡が精製した斧を振り下ろす。
必殺の一撃がスキルスティーラーに届く……!!
その刹那で水岡の時間が止まった。
亘を切りつけようとし迫っているその瞬間、ふと想像してしまったのだ。
過去の戦闘でちょっと触れただけで、
のたうち回るような苦痛を相手に与えてしまった。
たった今生成したこれを生身の人間の体に触れさせると、
どのような反応が起こるのか。
体は動き始めていたものの、
その動きには明らかな躊躇があった。
(いくら皆を生き返らせるためとはいえ、
人をこちらから傷付ける動機にはならない……)
「だーから甘ちゃんなんだよ坊や」
その隙を見逃す亘ではない。
触手を水岡の手首に巻き付ける。
斧を振るうことができなくなった水岡は、
もがくもやはり振りほどけない。
気が付くと体が宙に浮き、
景色は上下逆さまになっていた。
天花のいる方へ投げ飛ばされたため、
思わず天花もその動きを止める。
亘が2人から距離を取ったのと、
水岡が天花にキャッチされたのはほぼ同時だった。
「今のは少し危なかった。
だから敬意を表して俺も本気を出そう」
出ていた触手の一本は先ほどから使われていなかった。
ずっと血の滴るミノムシのコアを掴んでいたからだ。
それを触手で素早く細切れに割いた後、
まるでポテトチップスの袋に入った残りを一気に食べるかのように口に入れた。
ガリゴリバキとコアが噛み砕かれる音がする。
コアは回復にも影響しているのではないか。
事実として、強いコア能力を持つ真坂たちの回復は今までの敵とは違い、
不自然なくらいに早かった。
コアを肌に埋め込むのではなく、体内に直接摂取したらどうなるのか。
これまで、誰よりもコアの仕組みについて思いを馳せてきた亘だからこそ考えついたことだった。
ごくん、とそれを飲み込んだのがわかった。
すると、亘の体中に黒い模様が浮かぶ。
それと同時に亘を中心に激しい風が巻き起こった。




