討伐戦③
(一方的に攻撃しているのはこちらなのに、決定打にはなってない……)
違和感の中でも華憐は決して攻撃の手を緩めない。
何度目かの暴風の衝撃に、がれきと化した木々に紛れて敵の3人は姿を眩ました。
(残り1人のコア能力がわかってないのが不気味ね)
飛び道具の類の可能性もあり、どこから飛んでくるかわからない。
動かずに周囲に注意を払い待ち構える。
およそ30秒は経ったが何も起こる様子がない。
幻覚の類の可能性を考慮し、
華憐は付近の力の痕跡を感じ取ろうとしたが何もなかった。
更に30秒ほどが経過するも何も起こらない。
(もしかして、何かの能力で逃げた……?)
こちらから仕掛けようかとしたときだった。
周囲からザザっと人が動いた足音がしたため、
体を一瞬こわばらせる。
しかしそれきり何も起こらない。
仕方がないので当てずっぽうで暴風を巻き起こす。
ちょうどそこに1人いたようで、横に回避しながらそそくさと姿を晦ました。
やはり向こうは華憐の様子が見えているようだった。
動きを見てから回避行動に出ればギリギリ間に合う距離にいる。
近付こうとすればその分遠くに行き、
離れようとすればその分近付いて距離を保ってくる。
時折、華憐を見ていると言わんばかりに牽制の小石が飛んで来る。
(明らかに攻撃になってない。
何かがおかしいわね……)
華憐としては、時間稼ぎをされることは大きなデメリットではない。
むしろここで3人を足止めすることの方が重要だ。
華憐の違和感は正しかった。
しかし、その意味を理解するのはこの戦いが終わる頃であった。
* * *
先ほど水岡たちが通り抜けた広場には、
1人の男が気を失い横たわっている。
犬養によってのされた者だった。
水岡たちが追いつかれない距離まで行ったことがわかると、
犬養はふうっと息を吐いた。
(これで、本気を出せるな)
今までは水岡たち2人を先に進めるため、敵の注意を引き付ける必要があった。
慣れない戦い方をしたため、危うい場面もあったがもうその必要はない。
「お前らごとき、一瞬で終わらせてやるよ」
とは言ったものの、ここまででギリギリの戦いの中、
小さくないダメージが蓄積していた。
1人をノックアウトしたものの、
左腕は折れているうえに、
針がいくつも刺さったままで感覚がない。
視界もふらついている。
視界の端でぼんやりと捉えていた敵の姿がフッと消える。
背後に気配を感じ、迫りくる凶刃を倒れるように前に回避する。
そのまま横に移動しようとすると、
脳を直接締め付けるような感覚に襲われ、のたうち回るように転がる。
これでもダメージは少ない方で、
元いた場所にいれば直撃していた。
敵は回避した先に攻撃を浴びせてくる。
その余波から逃れたと思えば、
眼前に無数の針が迫っていた。
犬養は雄たけびを上げる。
辺りをまばゆい翡翠色の光が包んだ。
光で一瞬目を眩ませたうちの1人である、
精神攻撃使いに瞬時に距離を詰める。
そして、顔面に思い切りの一撃を見舞う。
敵は呻き声を上げながら飛ばされ木に激突し倒れた後、
そのまま起き上がってこなかった。
これで2人目だ。
しかしそれも束の間で、
気付くと右の方から針の嵐が迫っていた。
硬直しかけていた足を踏ん張って一歩を踏み出し、
前へ飛ぶように回避する。
避けるのが遅れたせいで、
右足に数十本の針が突き刺さり体勢が崩れる。
だが、痛みにのたうち回っている暇などない。
飛んだ先に残りの1人の姿がいつの間にか現れており、
ナイフを振りかざしている。
今の崩れた体勢では迎撃できない。
ナイフがこちらの背中に突き刺さろうかという瞬間、
犬養の体が翡翠色に光る。
その光は天に向かって雷のように鋭い閃光となっていた。
「それがどうした!!!」
ナイフの男は両手で思い切り犬養の背中にナイフを突き立てた。
しかし、手ごたえはなく、
まるでコンクリートの地面のような固さがあった。
(どういうことだ!?まずっ……!!)
困惑したその隙に犬養の拳が顔面にめり込む。
犬養は乱れていた呼吸を整えながら、
足に刺さった針を引き抜く。
口内にたまった血を吐き出しながら最後の1人の方を向く。
その体はボロボロで、
肺か気道に血が残っているのか呼吸音もおかしい。
しかしその目には、突き刺すような鋭さがあった。
まるで獲物を追う狼のようだった。
最後の1人となった針使いのスティングは、
それでもまだ奥の手を残していた。
というより、これまで使えなかった手段をここでようやく実践できるようになった。
長い髪で目元はうっすらとしか見えないが、
ニヤリと笑うのを犬養は見た気がした。
何をするのかと思えばスティングは真後ろを向いて走り始めた。
一瞬あっけにとられるも、すぐに追いかける。
距離はあったがあまり足が速いわけではなかったので、
50メートルほどで追いつく。
その瞬間、スティングは振り返ってこちらを見ていた。
「みんな、当たったらごめんネ」
そう呟いたかと思うと、
全身に黒い模様が浮かび上がっていた。
先ほどまでは針を発射する手のひらのみが黒くなっていたが、
今は肌が見えている部分すべてに浮かび上がっているのがわかる。
本能的にやばいと思ったが、既にスティングのコア能力が発動していた。
(針球体!!!)
全身から四方八方に針が発射された。
恐ろしいのはその範囲だけではない。
今までとは違い、長時間発射し続けられていた。
眩しい光が広がるように無限の針が、
いくつもの重機が動いているかのような音と空気の振動とともに辺りに広がる。
20秒ほど経ったとき、ようやくそれは収まった。
スティングの背後にあった木の表面はまるっきり見えなくなっていた。
周囲は文字通りの針山がいくつも築かれている。
スティングがふうっと息を吐くと体に付着していた針がジャラジャラと落ちた。
自身もその針で周りが見えなくなる。
邪魔なものを払うと、周囲に比べて不自然な盛り上がりがあった。
人の形状になった針山だった。
あまりにも多くの針が刺さっているため、その皮膚すらも見えない。
だが、何か違和感があった。
(おかしい。血がまったく滴ってこない……)
確かめようと一歩を踏み出した瞬間、その塊は動き出した。
スティングの反応は追いつかなかった。
その速さと勢いに刺さっていた針が落ちていき、
その姿を現しながら犬養は顔面に拳を見舞う。
一瞬で意識を奪われる。
それと同時に周囲にあった針が跡形もなく弾けるように消え、
彼女自身は木に背中から激突して倒れた。
「お前の針は威力がなさ過ぎたな。
こんなんじゃ俺には傷一つ付けられないぜ」
ここにいる敵は全員伸びているが、
コアを破壊したかはわからない。
一度確かめるため移動しようとしたとき、
頭に鈍痛が走り思わずふらつく。
(少し能力を使い過ぎたか)
咳き込むとそこには血が混じっていた。
口元を手の甲で拭う。
(だが、この程度で俺はくたばるわけにはいかない)
犬養は顔を上げた。
「なあ、そうだろ?」
この言葉は独り言ではない。
そこに現れた者に告げたのだった。
聞こえているのかどうかはわからなかったが、
猿渡は笑みを浮かべて全身に禍々しい黒い模様を浮かび上がらせながら木の陰から姿を現した。




