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討伐戦②

  「なんでこんなとこなんだよ。

 アロマセラピーでもしようってのかよ」


 先頭を走る犬養が嘲笑するように呟く。

 どんな罠があるかわからないというのに、

 一切の躊躇いなくぐんぐん進んで行く。

 曰く、先手必勝らしい。

 残りの3人は数メートル後方にいたが、

 犬養が会敵時のターゲットを引き付ける形になっており、

 比較的安心して進めるのも事実であった。


 前方の犬養の動きが止まる。

 こちらにサインを送っていたので、

 水岡たちもその場で足を止める。


「反応があったから近くまで来てみればビンゴだぜ」

 森の中のため視界が悪いが、

 犬養と睨み合っている敵がいるようだ。


「とりあえず見やすくするか」

 何者かの呟きと同時に、

 前方で敵がコア能力を解放しているのが水岡にも感じられる。

(ここまで届くってことか!!)


「下がれ!!」

 犬養に言われるまでもなく、

 水岡たちは距離を取る。

 すると、前方で工事現場のような大きな音がしたかと思うと、

 目の前にあった木々が折れ倒された。

 さらにそれらは、地面に吸い込まれるように、

 ガサガサと消えていった。


 敵の姿が露になる。

 3人組の男だった。

 1人はたった今コア能力を使ったばかりで、

 腕に黒い模様が浮かべていた。

 もう1人はまだ何もしていないようだ。

 目立つのがもう1人で、

 全身が黒い模様と銀色の光沢に覆われ金属のようになっていた。


 早速正面から突っ込もうとする犬養を華憐が止める。

「ここは私に任せて」


 珍しく犬養ではなく華憐が切り込むのだと水岡は思い、

 前に出ていく華憐の後ろで身構えていると犬養に声をかけられる。


「何してんだ。先を急ぐぞ」

 どうやら水岡だけがその場に固まっていたようだった。

 耳を疑ったが天花も犬養についていこうとしていた。

 驚いて華憐の方を見たが、振り返らず返事だけが来た。


「大丈夫。()()()()()()よ」

「で、でも……」

「1人の方がやりやすいの。

 だから先に行って、政人くん」


 討伐班になった日にどさくさに紛れて水岡を下の名前で呼んでいたが、

 意気消沈している水岡は気付かず、

 いつの間にかその呼び方が定着しつつあった。

 ようやく気付いたが今はそれどころでない。

 華憐を信じて先に進むことにした。


「華憐さん……!」

 水岡の声は正面から迫ってくる叫び声でかき消された。

 しかし、水岡たち3人にその攻撃は当たらない。

 華憐の起こしていた風は3人を森の奥へと運びその姿を眩ませた。

 自身も風を操り、その攻撃を難なく避けている。


 華憐は送り出すような気持ちで水岡を見ていた。

 そして相手の様子を見ることなく、

 腰にさしてあったうちわを取り出し扇ぐ。

 突風が敵に吹き付ける。

 直接ダメージを与えることはなかったが、

 レッドコアズたちは思わず目を閉じざるを得なかった。


 レッドコアズたちは一旦木の影に隠れ、

 一斉に攻撃するタイミングを窺う。

 この風が止んだときはこちらが攻撃する番だ。

 そう考えている。

 だが、それは甘い算段であった。


「そろそろ安全なところまで行ったかしら?」

 華憐は水岡たちの進んでいった方向を見据えた。

 木々に囲まれているためあまり遠くまでは見えないが、

 問題はなさそうだと判断する。


 すると、風がぱったりと止んだ。

 あまりにも一瞬で止んだので、

 レッドコアズの構成員たちは困惑する。

 華憐が沈黙しているような様子だった。


 ここぞとばかりに、体に黒い模様を浮かび上がらせて、

 木々の影から繰り出していく。

 しかし、どこか違和感があった。

 なぜだか、操り人形のように自分の意思とは別に体が動いているような気さえしてくる。


 その拳が届く直前、翡翠色の光に包まれている華憐の顔に、

 蔑むような笑みが浮かんでいるのを目に入れる。


 完全に誘い込まれた……と悔やむ間もなく、

 華憐の突風によってその体がものすごい勢いで木々を破壊しながら吹き飛ばされた。

 全身が金属になっているはずの体がである。


 他の構成員も直撃こそしなかったが、

 その余波だけで後ろへと吹き飛ばされていた。


 うめき声を上げながらなんとか立ち上がる。

 すぐに次の攻撃が差し迫っているのがわかり、

 痛む体に鞭打って無理やりにでもその場を離れる。


 転がるようにして直撃は避けたが、

 余波で体が別の方向に転がされる。

 起き上がる瞬間にはまた次の突風が放たれている。

 それを転がるようにかろうじて避ける。

 だがまだまだ止む気配がない。

 もはや回避すること以外に思考を巡らすことができない。

 付近に大きな竜巻があるかのような感覚さえしてくる。


 これが華憐の全力であった。

 全身から神々しい翡翠色の光を放ちながらも、

 凄まじい風を巻き起こし周囲を破壊しつくすその様子を、

 こっそりと知っていた叶野はブリュンヒルデモードと名付けていたのだった。


(あまりにも順調すぎね)

 その疑念は戦闘を続けていく度に強まっていくことになる。



 水岡たちは先ほどと同様に犬養を先頭にして、

 生い茂った深い森の中を進んでいる。


 遠くからは破裂音が時折聞こえる。

 他の班も突入をしている頃合いだ。

 水岡は華憐が心配ではあったが、

 今は一心不乱に先を目指す。


 すると、キャンプ場らしき少し開けた場所に出た。

 先を行く犬養の動きが一度止まり、

 手で制止するようジェスチャーをする。

 襲撃に備えて水岡たちも後方で構える。


 そっと水岡が前方を見てみると、人影が見える。

 相手は3人いた。


「どうするんですか……?」

 声を殺しながら犬養に近付いて尋ねる。

 少し考えた後で犬養は切り出した。

「回り道はできなさそうだ。

 それならやることは決まってるよな?」


 犬養は指をコキコキと鳴らした。

「俺が前に出て引き付ける。

 その後に続け」

 返事を待たずに飛び出していく。

 この場にいた3人が一斉に犬養の方を向いた。


(迂回できない以上、速攻で抜けるのが最善か……)

 水岡たちも、やや遅れて飛び出す。


 レッドコアズの1人の黒髪の女がこちらを向いて何かをした。

 黒い模様こそ見えないが、コア能力を使っているのが水岡にもわかった。


 何かがキラリと光った気がした。

 しかし、何が起こったのかわからない。

 先頭で真正面から攻め込む犬養もそれは同じだった。

 だが、それが自身の眼前5メートルほどまで迫ったときにようやく気が付いた。


 大量の鋭い針がこちらに飛来していたのだ。

 ここで真横に飛べば避けることはできる。

 しかしそれでは後ろにいる水岡たちにそのまま飛んでいく。

 彼らがそれを避けられるとは限らない。


 考えるより速く体が動いた。

 瞬時に体を翡翠色に輝かせ身体能力を向上させる。

 すべての針を硬化させた手で目にも止まらぬ速さで撃ち落とす。


 そうしている間にほかの2人がこちらに迫ってきた。

(近接タイプのようだが動きはノロそうだな)


 犬養はその2人をスルーして追い越し、

 先に針の女から倒そうとした。

 すると背後からその2人の怒号が聞こえた。

 念のためわずかに振り返ってみたが、

 水岡が黒い塊を投げて2人を足止めしたところに、

 天花の重い一撃を見舞っていた。


(ちっ、引き付けるつったじゃねえかよ。

 だが、あいつらもやるようになったじゃねーか)


 自分もさっさとケリをつけよう、

 そう思っていると水岡たちの背後に人影が現れたのが見えた。

 敵はもう1人いたのだ。

 それと同時に先ほどの女がこちらに向けて針を飛ばした。


 翡翠色の光が一瞬、辺りを包む。


 気が付くと水岡と天花は犬養によって蹴り飛ばされていた。

 茂みがクッションとなったため痛みはほとんどない。

 起き上がってみると、犬養はレッドコアズの4人に囲まれていた。


「こいつらはお前たちとは相性が悪い。

 ここは俺に任せて先に行け!!」


「でも……」

 コアを感知することができるのは、

 この中では犬養と天花だけだ。

 先ほどと同じく誰かが引き受けるのであれば、

 水岡だと考えていた。


「じゃあもっとわかりやすく言ってやる!

 俺以外にこの状況で生き残れるのはいねえ!

 お前たちじゃ足手まといだ」

 4人を同時に相手にしながらも、犬養は言葉を返してくる。


「行こう」

 天花は水岡の手を引っ張った。

 2人は先に行くことに決めた。


「だがいい線いってたぜ」

 2人には聞こえていないだろうが、

 犬養はニヤリとしながら敵に対峙する。


 彼らを見送る暇もなく、無数の針が飛んできた。

 後ろに飛び退いてそれを回避する。

 しかし、その針は途切れることなく、

 地面に突き刺さりながらこちらの方に近付いてきている。

 どうやら出しっぱなしの状態でこちらに照準を合わせられるらしい。

 それでも、犬養のスピードをもってすれば回避することはたやすい。


 相手もそれは織り込み済みだった。

 犬養が飛び退いた先にいつのまにか巨漢がいた。

 その右腕を中心に、黒い模様が禍々しく浮かび上がるのが見えた。


 その拳を体をねじって地面に激突しながらも間一髪で犬養はかわす。

 転がりながらもその視界の端には空を切った拳が地面に突き刺さり、

 爆発が起こるのを轟音とともに目に入れる。


(やはりあれは食らうと終わるやつか)

 反撃に移ろうとしたとき、別のコア能力の発動を感じ取る。

 その正体を掴むより速く、犬養の頭に衝撃が走った。


「ぐぅっ…!!」

 攻撃をしようと飛び出していたが、

 バランスを崩し呻きながら転がり落ちる。

 今の攻撃は脳に直接ショックを与える類のものだった。


 そこへ背後から現れた敵がナイフを突き立ててくる。

 今から避けるのは間に合わない。


(こんなとこで死ねるかよ……!!!)

 犬養の体が翡翠色に輝く。

 ひと際強い光だった。

 水岡と天花はそれを薄暗い森の中で感じ取っていた。

 だが決して後ろは振り返らない。

 ただひたすら前に向かって進んでいる。

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