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エリートウォーズ  作者: 流山治満
スキルスティーラー編
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ナスタチウム班⑥

 人気のない住宅街の真ん中にある公園には5人の人間がいる。

 その中の1人は地面に打ち伏している。


 現在、真坂が領域内に適用している法則は、

 彼に近い人間ほど反応速度、

 体の動きなどすべての速度が上がるというものだ。


 その領域自体は先ほどのものに比べると小さいが、

 今回は彼が選んだ者にしか適用されない。


 彼らは油井が突っ込んできたとき、

 強化により人間離れした速度で対応したのだった。


 大島のコア能力は万力は流転する(フォースバンク)と命名されている。

 身の回りにある物理的な力を操り、固定したり重ねたりできる。

 強大な力で攻撃するためにあらかじめ力を溜めておくこともできる。

 そのために、地面を何度も蹴ることで力を溜めていたのだ。


 大島が貯めていた力をわずかに解放し、

 バールで打ち付け、油井は公園の端まで吹き飛ばされていた。

 落下したときの衝撃で脳震盪を起こし、前後の記憶が曖昧になる。


 うめき声を上げながらも油井は本能的に立ち上がろうとした。

 しかし、強い衝撃を受けたためにふらふらし、

 全身、特に脇腹への激痛で立ち上がることができなかった。


 これでもコアは破壊されていない。

 脳震盪により記憶にはないが、

 大島に一撃をもらう直前に自らの体に電気ショックを与え、

 その反応で体をかばう体勢にしていたのだ。


「どうします?

 奴が戻る前にとどめを刺しときますか?

 今ならそんなに労力はいらないですよ?」


 既に上空の積乱雲を縮小し、

 その分の水分を使うために確保し始めていた友江が尋ねる。

 彼女の周りにはいつの間にか水たまりができている。


「そうだね。

 友江さんのコア能力も制限されるし、

 そうしておこうか」


 自らがその役目を果たそうと大島が歩み出たときだった。

 上空から大きな紫色の水晶が、

 油井との間を隔てるように落下してきた。

 ズドンという大きな音とともに、

 辺りの木々が揺れ葉っぱがひらひらと落ちる。


「ここまでできりゃ上出来だ」


 真坂たちの向かい側に亘とミノムシが立っていた。

 真坂がその姿を視界に入れたのと同時に、

 亘の放った炎の塊が飛んでくる。

 その炎は亘が今まで出した中でも最大で、

 離れていてもその熱気が伝わってきた。


「空気が乾いているからよく燃えるなあ!」


 炎の壁が迫って来るのと当時に、

 真坂たちを大きな影が覆う。

 1メートル四方程度の大きさの巨大な紫色の水晶が上空に出現する。

 上空と正面の二方向から真坂たちに亘の攻撃が迫ってきている。


「しょうがないわね」

 友江は積乱雲を解体する。

 操作によって集まっていた水分は、

 辺り一面に滝のような雨となって降り注ぐ。

 それにより亘の発生させた剛炎が減衰する。

 それでも勢いは保っており、

 真坂たちの方へ轟々と迫る。


 友江は周囲にある水分を操り、

 分厚い水の壁を目の前に出現させる。

 一方で大島は、両腕を水晶に向かって広げた。

 大島の体が群青色にまばゆく発光する。


 炎の壁は水の壁に相殺されジュウジュウと音と煙を立て、

 真坂たちの前方で完全に消え去った。

 一方、紫色の巨大な水晶は大島の頭上で落下することなくゆっくりと回転していた。


 その水晶がすぐに激しい勢いで風切り音を出しながら回転し始める。

 回転することによって光があちこちに反射する。


「そら、食らいな!!」

 その物体を勢いよく亘たちの方へと放った。


 亘は少し逡巡していた。

(今ここにいるのは油井と宮島……

 ここであれを使っても最悪やられたってことにして始末しちまえばいいか)


 それは今までに聞いたことのないような、

 当たれば木端微塵になって即死するような衝撃を持っているとわかる音を立てて迫って来ている。


 亘は右手の人差し指をそれに向けた。

 右手の人差し指の先を中心に黒い模様が浮かび上がると、

 指先から放射状に薄く赤い光が照射される。

 大島の放った水晶が進むにつれてその体積がどんどん縮んでいき、

 ついには石ころくらいの小ささになった。


 ガリバーレイと名付けているそのコア能力は、

 放射した光線に当てた物体を小さくするものである。


 石ころ程度になっても、威力は保っているようで、

 横に巻いている竜巻のように飛んで行った。

 しかしその小ささ故に簡単に避けられてしまった。


 水晶は公園に接している家屋の塀に衝突した。

 すさまじい音を立てて貫通し、

 後方の建物ごと破壊しながら30メートルほど進んだ。


 その衝撃で突風が公園側にも発生し、

 辺りはがれきによる砂煙に包まれた。

 それが通った後は文字通り何も残っていなかった。


「亘さん、今の能力って……」

 顔が少し青ざめたミノムシが砂煙をかき分けながらやってくる。

 この戦闘によるものとは別の不安を抱えた表情をしていた。

 なぜなら、このコア能力には見覚えがあるからだ。


 この能力の持ち主はミノムシとも面識があった。

 死因は戦闘によるものであり、道半ばで命を落としたとのことだった。


 亘の右目のコア能力については、

 元々の持ち主の死に際に同意を得て移植したのを、

 レッドコアズのメンバー数人が立ち会っているので説明はつく。


 しかし、ガリバーレイについては、

 同意を得て手に入れたものだという確証はない。


 そもそも死因がはっきりせず、うやむやだ。

 なおさら亘の悪癖を疑わせるものがあった。


 亘は返事をせず無言のまま敵へと突っ込む。

 その途中で友江の操る水に囲まれ、

 三度目となる水球の中へ閉じ込められた……はずだった。


 閉じ込められたはずの亘は何の抵抗もなく、

 変わらない様子で水球を通過して真坂たちの方へと向かって来ている。

 ミノムシのヴェールだ。


 不意を突かれたとはいえ、距離を詰められるほどに真坂たちは亘に迫られていた。


 その間にミノムシは油井の方へ駆け出していた。

 さっきのことは捨て置けないが、

 油井の回収が今の役割である。

 与えられた役割を果たさないと、

 自分自身がどうなってしまうかわからない。

 それに、なぜだか油井を見捨てることができなかった。


「てめえらのコアは俺がいただくぜえ!!!」

 亘は触手を最大の8本まで生やして吠え猛りながら迫る。

 対して、再び、真坂と大島が前に出る。


「まずはお前らからかァ!!」

 その形相とは裏腹に、亘はきっちりと右目を使い真坂たちの周囲を観察していた。

 その瞬間、既に自身が罠の渦中に足を踏み入れていたことを悟る。

 反射的に飛び退こうとするも、

 既に前方へ進む体を止めることはできなかった。


 周囲で何かが弾ける音がした。

 それらは小石だった。

 大島の能力で石に力を加えておき、

 任意のタイミングで破裂させたのだ。


 これと同時に、もう一つの罠も作動していた。

 亘の足元が崩れ落ち体勢を崩された。

 それでも亘は、とっさに触手で身体をガードしながら、

 地面を蹴り上空へ飛び上った。


「真坂さんの言った通りだったな」

 亘は目を見開いた。

 飛び上がった先で、大島が大きく体をひねっていた。

 こちらに一撃を食らわすには絶好のタイミングだ。


(やられるッ!!!!)


 大島のふるったバールが亘に真横に突き刺さる……

 かのように見えた。

 大島の腕を触手で包み込んで、

 その勢いすら利用して体勢を変えた。

 大島の攻撃は空振りとなった。


「なーんてなァ

 お前のコアからいただくぜ!」


 既に右目で大島のコアの位置は見抜いていた。

 群青色の光にまばゆく包まれている大島の体の中で、

 ひと際輝いているのが心臓の部分だった。

 そこへいくつものコアを貫いてきた触手の先を鋭く伸ばす。


 そのとき、確かに貫いたと思った。

 しかし、それは硬直したように静止する。

 反射的に引き抜こうとするも動けなかった。


「誘い込まれたってのか!!」


 大島は物理的な力を操ることができる。

 それ故に、物理的な攻撃に対しては無敵だ。

 もっとも、このように動いている物を静止させることは、

 職人レベルの技量と鍛錬が必要であり、

 それこそが一番の自信でもあり強みでもあった。


 そこへ真横に飛んできた真坂が現れた。


(速い……!)

 真坂をオーラのようなものが覆っており、

 何かしらの強化がされていることは右目でわかっていたが、

 予想以上のものであった。

 真坂の身体能力は、それだけでも他の選抜者と渡り合えるほどになっていた。

 その動きに思考すら追いつかないまま、

 亘は顔面に拳をもらい斜め真下に落とされる。


 ここまではほんの一瞬の出来事ではあったが、

 大島は硬直しない。

 そのまま落下した亘に向かう。

 体を群青色に発光させながら、

 上からバールを薪割りのように振り下ろす。


 激しい衝撃と砂ぼこりが巻き起こる。

 ミノムシは思わず目を瞑っていた。

 再び目を開けると、左で亘が倒れていた。

 潰されてはいなかった。

 ミノムシは亘が気を失っているか死んだと思った。

 しかし亘は、一度咳き込み吐血するとすぐによろよろと立ち上がる。 


 とっさに自分の上着を複製し、大島の視界を塞いだのだ。

 そしてわずかにでもその場から離れつつ、

 触手で防御の姿勢を取ったことにより、

 追撃から生き残れたのだった。


「ちくしょう。今のでコアをいくつかやられた」

 亘は血が滴る右目を手でおさえていた。

 右目のほか、毒の羽、水晶に加えて、

 最後に身を守る一因となった模造のコア能力も一気に失っていた。


 起き上がると、偶然にも先ほど避雷針代わりに出していた水晶が、

 真横に無機質にそびえ立っている。


「ここまでやられちゃあ、

 成果なしではおめおめと帰れねえなァ」


 この状況でも亘は不敵に笑いながら、

 重い体を引きずって真坂たちの方を見据えた。

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