ナスタチウム班⑤
亘たちは公園の正面付近までやってきた。
中からコア能力を使っている気配がしている。
やはりまだこの公園の中に真坂たちはいるようだった。
律儀に正面から入る必要はまったくない。
だが視界が開けた状態で戦うことが最善だと考え、正面突入に決める。
「さあてと、ここでは戦闘に集中させてもらおうか」
こちらとは反対側に立っている4人を見据えながら、
亘は自らの体を翡翠色に発光させた。
向かって左斜め前方に大きな影ができる。
そこへ全長3メートルほどある細長い紫色の水晶が落ちてくる。
ドスンと音を立てながら地面に突き刺さった。
それは高く鋭い形状をしていた。
真坂は異変に気付いた。
(こちらの妨害がまったく効いていない……)
真坂は動じない。
「いいだろう。
ならば対応を変えるだけだ。
革命!!」
真坂は再び法則を変更した。
すると、周囲を覆うどんよりとした感じがなくなった。
代わりにどんな負の効用が襲ってくるのかと亘たちは身構えてる。
しかし数秒経っても異変を感じない。
ひとまず油井は避雷針を作ることで、
無駄に消費するなという亘の意図を汲み取り放電を中止する。
公園の至る所に明らかに地面を掘ったとわかる跡がある。
大島の体が群青色にまばゆく発光した瞬間、
破裂音がしたかと思うと、地面から大量の水があちこちから噴き出す。
水道管から噴き出した水は上方に舞い上がり、
そのまま水流のように纏まってうねるように亘たちの方へ向かってくる。
予想外の出来事とその水量に、
亘たちはなす術なくあっという間に水に包まれる。
亘は触手を地面に突き刺し脱出を試みる。
だが、体を包んでいる水は半径10メートルほどにも達しており、
どうにもならない。
横のミノムシは既にヴェールを出していたが、
水中でフワフワと漂っているようで、
手元に持って来ることができないでいた。
慌てふためいて手足をバタバタさせている。
もはやなす術がなく絶望の中でミノムシはもがき苦しんでいると、
目の前に亘の触手が伸びてきてひらひらとしていることに気が付く。
これを掴めと言っているようだった。
藁にも縋る思いで本能的にそれを掴んだ。
すると次の瞬間、目の前の景色は水中から先ほど通った道路に変わっていた。
ミノムシは咳き込みながら、
待ち焦がれた新鮮な空気を目一杯に吸い込む。
「ちっ、早速使うことになっちまったな」
亘はミノムシほどは息が上がっていない。
あらかじめ説明はなかったが、
これも亘の持つコア能力の1つのようだった。
しかし、ミノムシはそのコア能力に見覚えがあった。
「その能力……
津島はやられたんですか……?」
「ああそうだ。
助けるには間に合わなかったが、
コアだけは無事だったものでな」
亘はもう一度目の前の塀に×印を付け、
ワープのためのマーキングをしながら答える。
ポインタのコア能力は今や亘の立派な財産である。
ふと知ってしまったポインタが死んだという事実に、
ミノムシはわずかに身震いする。
(やっぱりこの人は完全に信用しちゃダメだ……)
ミノムシは恐怖を悟られないようにあえて会話をする。
「油井くんは置いてきてよかったんですか?」
「あいつはあれでいいんだ。
むしろあいつの仕事はここからだと言っていい」
ミノムシはあまり合点がいかないようだった。
一方の真坂は、
消えた亘がどこへ行ったのか思案しながら、
球状になった水中でもがいて泡を発生させている前方の油井を見ていた。
ここで油井にとどめを刺すことは簡単だ。
このまま放置すれば、いずれ窒息死することはわかりきっている。
だが、今回の最優先事項はスキルスティーラーの討伐だ。
(奴がこのまま逃げるわけがない。
文字通りこの場はあの子をしばらく泳がせることにする)
が、それでも目の前の油井の起こしている現象に目を向けざるを得なくなる。
人がもがいて泡立っているにしては量が多く、
やけに時間も長い。
いい加減に窒息死していてもおかしくない程度の時間は経っていた。
そのはずが、泡の量がさらに増えていく。
(この泡は何……!?)
疑問が湧くと同時に友江はとある変化に気付く。
先ほど3人を拘束したときより、
操っている水の量が減っているのだ。
一人取り残された油井は全身に黒い模様を浮かび上がらせていた。
自身を覆っている水を電気分解して酸素と水素を発生させていたのだ。
電極の位置は体の2点になる。
酸素が集まる陽極は幸運にも腹のあたりだった。
それらの気体は油井の体を覆い、
泡立ちながら水球の外へと出ている。
「あいつ、ただの囮ではないな」
大島は感心したように呟く。
当初、彼らにとって油井は、
スキルスティーラーを狙ったら付いてきたコバンザメという程度の認識だった。
見聞きしたところ、彼のコア能力は電気を発生させるものであり、
それなりに脅威かもしれないが、
こうして水で覆ってしまえば何もできずに葬られる敵の1人のはずだった。
油井自身も自分がそんな役回りだということは初めからわかっていた。
だからこそ彼はその立場を利用して最大限にこの場を引っかき回すことにした。
油井は元々そういった対人においての駆け引きを得意としていた。
一人でできることには限界もあったが、それも含めて楽しんでいた。
(そろそろ頃合いかな)
周囲で発生している泡が激しくなる。
友江が他の手段での攻撃を試みるも、
その前に油井を包んでいたすべての水が干上がってしまった。
地に足がついた瞬間、雷光石化のごとく突っ込んでいく。
友江は慌てふためくも、真坂と大島が手で制して前に出る。
このとき、既に真坂の新しい領域は構築されていた。
油井にはそんなことなど知る由もなかったが、
これ見よがしに体にバチバチと電流を走らせ、
帯電しながら突進していく。
わずかにでも触れれば一瞬で高圧の電流が流れて相手を仕留められる算段だ。
周囲には注意しつつも全力で相手の懐を目指して突っ込んでいく。
だが、何かが起こる気配はない。
真坂たちも棒立ちのままだ。
(何かあるはずだ)
疑心暗鬼の中、ついに標的の眼前まで迫る。
いや、迫ってしまったのだった。
真坂に触れようと右手を伸ばした瞬間、
目の前の2人がありえないほどの反応速度で動いた。
油井の右手は空を切る。
勢いを利用して大島に触れようとするも、
大島もまたありえないほどの速度で動く。
体をまばゆい群青色に発光させながら、
どこかに隠し持っていたバールを脇腹へと投げてきた。
その刹那、周囲を閃光と鈍い音が包んだ。




