ナスタチウム班④
「はい。これで大丈夫なはずですよ」
ミノムシは落雷のない安全な場所で、
亘と油井に真坂のコア能力を防ぐヴェールを被せていた。
油井は本当にこんなんで大丈夫なんですかねと言いかけたが、
一気に体の重みが取れたことが感じられた。
思わず感嘆の声を上げてその場を少し跳ねてみる。
亘もどこか満足げな笑みを浮かべると、
2人の肩をパシっと叩いた。
「よし、もう一度攻め込むぞ」
彼らが向かってくる様子は、舛森が逐一実況するように報告している。
「ついに来るか」
大島は拳をポキポキと鳴らし首を回す。
友江は手をせわしく動かしている。
真坂はただ腕を組みながら亘たちがいる方向を見据えている。
舛森はどこかへ隠れたい気持ちだった。
しかしそれはできない。
こうなった以上舛森は友江に的確に指示を出し、
落雷でこの戦いに決着を付けられるよう、
力を最大限発揮するしかない。
「もう放っていいです!」
舛森が言うより速かった。
辺り一面が真っ白になったかと思うと、
続けざまに轟音と地響きが起こる。
舛森は思わず両手で耳を覆い目を瞑る。
音が鳴りやむとすぐに目を開けた。
体を翡翠色に発光させながら、
亘たちに一番近い場所にいた雀を乗っ取り、様子を窺う。
憑依した雀の視界に入ったのは、
体から放電している青年と、地面に突っ伏している2人だった。
3人とも致命傷どころか傷一つ負っている様子はなかった。
「バカな……」
ミノムシはもとより耐性があったので仕方がない。
だが、他の2人まで無事でいることに強いショックを受けていた。
舛森は嫌な汗をかいていることに気が付く。
この追い詰められている感覚を味わうのは、
特務班に入ってからは一度もないことだった。
今すぐここから逃げ出したいと思った。
しかし、あんな攻撃を防げる相手だからこそ、
真坂たちの力で倒さない限り自分に平静は訪れないと直感する。
「まだ、雷は撃てるよ。
今のはたまたまかもしれないし、
もう1~2発は試してみる」
攻撃の結果は舛森の様子から見るに聞くまでもなかった。
それでも、相手のコア能力を見極めるという第二の目的のためにも、
友江は攻撃を続けることを示す。
亘たちは一斉に走り出す。
もう真坂の影響はない。
友江の雷を防いでいるのは油井だ。
亘は「右目」を用いて周りを見て、
油井が落雷対策を備えていることを知った。
(こいつ、末恐ろしいガキだな。
後で殺してコアを奪うには少し惜しい人材かもしれんな……)
亘が少し距離を取って後ろを走っている油井の今後の処遇を思慮していると、
上空で閃光が走った。
後方から轟音が響いた瞬間、
思わずミノムシは転ぶ。
亘も背中に衝撃を感じたが、
振り返ることはしない。
亘たちの位置から公園はもう見えている。
もはや、会敵することは避けられそうにない。
「もうダメだ……
奴らが来ます……!!」
舛森は今にも逃げ出したい衝動に駆られて焦りながら喚く。
しかし、慌てふためいているのは舛森だけであった。
「まあそうだろうね。でないと拍子抜けだ」
飄々と告げる真坂と、それに自信満々の表情で頷く大島たちに舛森は戦慄する。
それでもやはり、この人たちの近くにいるのが一番安全なのだと思わざるを得なかった。
だが、戦闘の最前線に立つことへの恐怖は克服できないでいる。
それを見透かしている真坂は舛森の肩に手をポンと置き、
心配ないさと告げているかのような表情で呟く。
「舛森さんは『録画』に集中してくれればかまわない。
それでは、彼らをここへお招きしておもてなししようじゃないか」
そう言って真坂はまた法則を変更した。
その瞬間、周囲を覆っていた威圧感が消え去った。
そしてすぐに真坂を中心とした半径10キロの範囲が、
真坂からの距離が遠いほどコア能力が弱まる空間と化した。
公園にわずかに風が吹いて草木をさらさらと揺らす。
付近にある黒雲の影響か生暖かい風であった。
舛森にはその風がどこか気持ち悪かった。




