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エリートウォーズ  作者: 流山治満
スキルスティーラー編
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12/58

活

 午後は叶野に呼ばれて、

 あの監視室のような部屋に再び行くことになった。

 職員室に呼ばれる生徒の気持ちはこういうものなのかと思った。

 だが、ちょうどいい機会なので犬養を班から外すよう打診してみようかとも考えていた。


「やあ、昨日は災難だったね。

 とりあえず座りなよ」

 ノックして相変わらず薄暗い部屋に入ると、

 叶野が気さくに招いた。

 前と同じようにそこらへんにある椅子を引っ張り出してきて座る。


「聞いたよ。犬養くんとやりあったんだって?」

 叶野はなぜか少し楽しそうに尋ねてきた。

 単刀直入ではあったが、

 ある程度は覚悟していたので無言で頷く。


「若いっていいねえ」

 これは皮肉ではなく心の底からそう思っているようで、

 まるで面倒見のよい親戚のおじさんのような柔らかい態度であった。


「まあ犬養くんだって確かにとっつきにくいところはあるけど、

 あれはあれで仲間思いなんだ。

 徐々に打ち解けていけばいいさ」


 水岡は怒られなかったことへの安心が半分と、

 犬養を班から追い出すことを訴えることができないと悟った落胆の気持ちがもう半分だった。


「じゃあ、さっそくスキルスティーラーとの戦闘のことを教えてもらおうか」

 どうやらあちら側は水岡がこれが今回の主題になると理解している体で話を振ってきたが、

 思いもよらないことだったので拍子抜けする。


 水岡の置いてけぼりにされたような反応を見て、

 叶野はゆっくりと補足した。


「一応、スキルスティーラーとの戦闘経験がある人には、

 みんなこうやってヒアリングしてるんだ。

 なにせ被害が大きい。

 情報を少しでも得たいんだ」

 冷静に考えてみれば、

 犬養との喧嘩ごときでリーダーが水岡をたしなめるわけがなかった。

 むしろスキルスティーラーの対策の方がよっぽど優先だと考えるのが当然だ。


 変に力んでいた水岡は冷静になり、

 先日のことを叶野に話した。



「なるほど。ありがとう。

 それにしてもよく生き残ったね」

 一通りの報告が終わると、

 叶野は椅子の背もたれに寄りかかって小さく息を吐いた。


「叶野さんでもスキルスティーラーには手を焼いているんですか?」

 ここまでして情報を集めようとしているのが意外だった。

 叶野は笑いながら答える。


「君は僕を万能人間と勘違いしていないか」

 それはまるで少年のような笑みだった。

 叶野がまさかそんな笑い方をすると思わなかったので少し驚く。


 他人からの反応には疎いのか、

 変わらぬ様子で叶野は続ける。


「第一に、僕は今はここを離れられない。

 このアジトの守りの要の1つだ。

 簡単に離れるわけにはいかない」


 確かにそうかもしれないが、

 その枷がなければどうなるのかと考えた。

 叶野はこの戦争が始まったときからここまで生き残っている。

 その実力はスキルスティーラーを倒しうるのではないか。


「第二に、僕のコア能力はあまり戦闘には向いていない。

 というよりか、出力が貧弱なんだ」


 叶野は右手を開きながら正面に向けた。

 叶野の体が翡翠色に光ると、

 その手のひらから何かポンと音がして発射される。

 それは部屋のドアに向かって飛んでいくと、

 音もなく消えた。


「僕の元々のコア能力は空気を操るものなんだ。

 ここまで生き残ったのは、

 この戦いの黎明期ゆえの戦闘の混乱と運の良さのおかげなんだ」


 叶野のコア能力は守りにおいては最強の部類だ。

 元々持っていた能力もさぞかし強力なのだろう考えていただけに、

 水岡は拍子抜けしてしまった。


「ところで、どうして銃とかの武器を用意しないんですか?」

「少なくとも銃は無理だね」

 コア能力だけで戦う必要はないのではという水岡の期待は裏切られた。


「銃は確かに手に入れようと思えばできなくもないだろう。

 だけど、それ以上にやっかいな連中とのやりとりが生じてくる。

 ご存知の通りこちらはあまり情報を表に出したくない。


 それに、万が一手に入ったところで、

 銃を扱うのは素人では難しい。

 なかなか映画やドラマのようにはいかないんだ」


 水岡は自分の浅はかな思いつきを反省した。

 落胆している水岡の表情を見て、

 叶野はゆっくりとした調子で付け足す。


「だが、武器に関しては君の言うとおりだ。

 例えば華憐くんであればうちわを持っているね。

 あれはより手軽に強い風を起こすためなんだ」


 水岡は華憐の能力は使い方だという言葉を思い出す。

 叶野は子供の成長を見守る親のような穏やかな表情で水岡にアドバイスした。

「なにも銃や刃物だけが武器じゃない。

 君はまだコア能力との付き合いが短い。

 これから模索していけばいいさ」


「……何かが掴めた気がします」

 このとき、水岡は自然と立ち上がっていた。


「その様子ならもう任務に当たっても大丈夫そうだね。

 近いうちに任務が下されると思う。

 頑張ってくれたまえ」


 軽やかな足取りで水岡は部屋を後にする。


(とにかく今は生き残ろう。

 そのためにより必要なことをしよう)


 自室に帰ると思わず眠り込んでしまった。


 気付けば夕暮れ時になっていたので食堂に向かう。

 一人で夕食を取っていると、

 水岡の前に大きな影が現れた。


「お前が新入りか。

 さっそく犬養と揉めたんだって?」

 顔を上げると恰幅のよい中年の男性が、

 寛容そうな笑みを浮かべながら話しかけてきた。


「俺は大島だ。特務班に所属している」

「水岡です」

 水岡は小さく会釈した。

 特務班は南禅寺選りすぐりのメンバーを集めたと聞いている。

 そのうちの1人がこの男であるとわかり、少し緊張してくる。


「なんだ。

 あの犬養と喧嘩したっていうからどんな奴かと思ったら、

 案外普通の奴じゃないか」

 そのまま持っていたトレーを水岡と同じテーブルに置き、

 水岡の正面に座る。

 大島のトレーには山盛りのカレーが乗っていた。

 それに手を付けながらなおも話しかけてくる。


「それで、コア能力はどんなだ?

 ちゃんと使いこなせてるか?」

 質問を投げながらもガツガツとカレーを食べる動作は休めない。

 水岡は大島とは対照的に少し遠慮がちにゆっくりと、

 時折食べるのを中断しながら答えた。


「それが、まだあまり思うようには……

 華憐さんたちの……

 同じ班の仲間の助けがないと敵と対等にはやりあえません。

 こんなんじゃただの足手まといです」


 水岡は本心から思っていたことをぼそぼそと話す。


「スポーツじゃないんだから複数でボコったっていい。

 いいか?

 くれぐれも正々堂々と敵と戦おうなんて思うなよ?

 これは戦争なんだ」


 大島は依然として勢いよく食事をしながらも、

 その様子とは裏腹に適格な助言をする。


「コア能力は常に進化する。

 たとえ今の能力が弱かろうと使い続ければ、

 とんでもない変化を遂げるかもしれない。

 それに、戦いは能力の使い方次第だ。

 色んな奴に教えを乞えばいいさ」


 そう言ってコップに入った水を飲み干す。

 あっという間にカレーを完食していた。

 大島は水岡の肩に手を置くと、

 そのまま大きく笑いながら去って行った。


(まず、自分でやれることは全部試してみよう)

 そう決めると、

 定食の残りを一気に流し込み、

 水を飲み干して自室へ戻ったのだった。


 次の朝、水岡は部活の朝練と同じ時間に起床した。

 トイレで用を足して、水を一杯飲み、顔を洗って歯を磨くと、

 すぐに寝巻用でないジャージに着替えて中庭に出る。


(よし、ここなら大丈夫そうだな)

 周りは十分な広さがあり、早朝のため誰もいない。

 そよ風に揺られてさらさらと音を立てる草木と、

 付近の森からする鳥たちのさえずりがしている。

 水岡はアップを済ませると、先の戦闘を思い返した。


(俺のコア能力は触れたものを分解する物質を、

 変幻自在に形を変えて使えることだ。

 まずは、変化させるスピードをもっと速くする必要がある)


「……よし、やるぞ!!」


 自らの頬を叩いて気合を入れ、水岡は特訓を始めた。

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