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エリートウォーズ  作者: 流山治満
スキルスティーラー編
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新天地

 次の日には水岡は医務室から退室し、

 自室での生活を始めることとなった。

 体にはまったくダメージが残っておらず思った以上に調子がいい。


「ここがあなたの部屋よ。荷物は運んでおいたわ」

 華憐に連れられて広いアジトの中を一通り案内された後、

 茶色のドアに115と書かれてある部屋に来た。

 あまり日の入り込まない造りのため廊下は薄暗かったが、

 同じような部屋がずらりと並んでいるのと、

 清潔感があったためホテルのような佇まいがする。


 華憐に促されドアを開けると、

 7畳弱くらいある部屋の中に、

 ベッドやデスクなど一通りの必要な物が揃えられており、

 その中心に唯一持ってこれたリュックが置いてあった。


「手伝おうか?」

 華憐の提案に思わず頷きそうになる。


「いえ、自分のことくらい自分でやりますよ。

 華憐さんにお世話になりっぱなしじゃダメだし」

「そう……」

 少し残念そうにしている。

 だが、すぐに明るい表情になった。 


「私の部屋は208よ。いつでも来ていいわ。

 わからないことがあったら何でも聞いてね」

 水岡はこくりと頷いたが、

 むしろ華憐の方から訪ねてきそうなくらいだと思った。


 華憐を見送ると、

 ひとまずベッドに仰向けに寝転び大きく伸びをする。

 1つ忘れ物に気付いた。


「そういえば、まだ華憐さんに謝ってなかったな」

 あのときの戦闘で、水岡は自分の力を過信した結果窮地に陥り、

 華憐の力で助けられたことを思い出した。

「次会ったときちゃんと謝ろう」

 そして、勢いよく立ち上がる。 


「よし、始めるか」

 水岡は腕まくりをしてリュックへと手を伸ばした。


 

 ――油井、坂東のマンションにて


「油井、お前は今度から亘さんのとこに行くことになった。

 それから、これからはフラスコと名乗れ」


 昼間だというのにカーテンは閉じられ電気もつけていないため薄暗く、

 ペットボトルや弁当の包みが散らかっている埃っぽいマンションの一室で、

 坂東は煙草をふかしながら告げた。


 レッドコアズの選抜者はみなコードネームを与えられる。

 それを使うことを要求されている。

 坂東のように一部の人間はそれを嫌がる者もいるが。


「その亘って人のとこに行くのはいつからですか?」

 亘という男がどんな人物なのか気になったが、

 坂東はあまり話してくれそうになかったので聞くのを諦めた。


「これから来るらしい。今すぐ準備しろ」

(それはまた急だなあ)

 そのまま短い返事をして油井は自室へと戻る。


 ドアを閉めると、ため息をしながら、

 そばに置いているパイプ椅子にひとまず座り込む。

 自室と言っても坂東たちが根城にしているうちの一室を、

 寝泊まりのために一時的に使っているだけで倉庫に近かった。

 倉庫にしては人(・)が(・)生(・)活(・)を(・)す(・)る(・)こ(・)と(・)を(・)前(・)提(・)と(・)し(・)て(・)い(・)る(・)よ(・)う(・)な(・)配(・)置(・)だ(・)っ(・)た(・)。


(準備って言われたって特にやることねーよ)


 選定の後、すぐに迎えに来た坂東たちに、

 ほとんど事情も説明されないまま急かされたため、

 持ち物はリュック一つ分しかなかった。


 ぼうっとしながら腐っていると、

 ノックもせずにドアを開けてデリバーが入ってきた。


「ボスからFAXが届いた。

 亘さんが来る前に読んどけってよ」

 そう言うと、手に持っていたA4の紙を無造作に机に置いてドアを閉めた。


 油井はため息をつき、その紙を取ろうともせずに天を仰いだ。

 そもそも、どうして会ったこともない奴からの指示を受けないといけないのか。

 だがすぐに考えが変わり、

 それを読めば少しはこの鬱屈とした気持ちも紛れるかもしれないと思って視線を紙に向けたとき、

 目の前にそれを遮るようにそれは現れた。


「よォ、調子はどうだい新入りさん」

 油井の目の前に突如現れた、

 薄紫色の肌で50センチメートルほどの体長をした、

 まるで絵本に出てくる悪魔のような生物が話しかけてきた。


「見守る者(ウォッチャー)、待ってたよ!」

 油井の表情が少し明るくなる。

 彼にとってはこの戦いについての説明をしてくれる唯一の存在なのだ。


「これから来る亘って人について教えてくれない?」

「いいぜェ。俺が答えられることなら答えてやる」

 二つ返事で答え、快活に説明を始める。


 スキルスティーラーこと亘は今のレッドコアズのメンバーの中では古参の方になる。

 本来の能力は硬度の変わる触手を自在に操る能力だ。


 選定の前までは事業を興していたが、

 あまりうまくいっていなかったらしい。


 あるとき、ふと気になった。

 選抜者のコアを移植したらどうなるのかということだ。

 すぐにそれを試す機会がやってきた。


 戦闘で追い詰めた敵を前に、

 亘はその好奇心を解き放った。

 相手のコアを埋め込んだ瞬間、

 激しい痛みと選定のときの人々の絶望、苦しみが流れ込んできた。

 亘はその場でのたうち回る。

 だが、この程度の拒絶反応など覚悟していた。

 それを乗り越えた先にある可能性にすべてを賭けていた。


 そのまま数分ほど経過したとき、

 いつの間にか痛みは消え、

 力が高まっているのを感じ恍惚とした表情を浮かべて立っていた。


「今まさに、確実に成功する事業を一人抜け駆けして始めた気分だぜ」



「で、奪ったコア能力を教えてよ」

「すまないが、それは本人から止められていて言えねェ。

 企業秘密だってよォ」

「ふーん」


 油井は先ほど読もうとしていたボスからのFAXを手に取る。

 それに目を向けながら続ける。


「正直、他の人からその亘って人はどう思われてるの?」

「そいつはどういう意味だィ?」

「そのまんまの意味だよ。疎まれてるのかなって」

「そいつは向こうにいる2人とかに聞いてみればいいんじゃねェのかァ??」

「うーん、それはちょっと無理そうだなあ。

 まあいいや、だいたい察しはつくし」


 FAXの文を読み終わると、軽く笑いながらそれを机の上に放り投げる。

「なるほどねえ、デリバーさんがコア能力で迎えに行かないのもそういうことか」


 ボスはなぜか油井のコア能力を把握したうえでFAXを送ってきている。

 だが、どうせ見守る者(ウォッチャー)に聞いたのだろうと思い特に気にも留めない。


「ところで、何の疑問も無しにここまで着いてきて、

 挙句の果てに指示をされてもよかったのか?」

「別に」


 油井は興味なさそうに答えた。

 やることがないので自分のコア能力を使い小さな電気を起こして手遊びしている。


「今ならまだ引き返せるぜェ?」

 見守る者(ウォッチャー)の問いに油井は思わずフッと笑う。


「引き返す場所なんてどこにあるんだよ?

 たとえあのまますべてを放り投げて一般人に戻ろうとしたところで、

 今までの日常なんて帰ってこない」


「それに……」

 手遊びをやめ寂しそうに天井を見つめた。


「唯一俺を慰めてくれそうな可能性もなくなっちまったしな」


 見守る者(ウォッチャー)はその理由を知ってか知らないか、

 ニヤリと笑うと姿を消した。


 用を足しに油井が部屋を出たときにドアが閉まる際の風で、

 先ほどのFAX用紙がひらりと落下する。

 そこにはほとんど何も書かれていなかった。

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