表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/18

外国の伊達さ~Alfa-Romeo GTV~

「久しぶりにご飯を食べに行こうよ!」



銀座のスペイン料理店。



友人夫婦とその友人の女性、それに僕の四人でご飯を食べることになった。



その頃、僕は独り者で、友人夫婦の友達の女性も独身。二人ともお互いの友達だから、一度お見合いではないけど会わせてみようということになったらしい。



友人夫婦は結婚以前からの友達で、奥さんは歯科医師、夫は医師で、夫がローテーションで口腔外科の研修期間の時に同じ病院で出会った二人だった。ちょっとおっとりした奥さんと、野性的だけど明るい性格の友人は気が合ったらしく、お付き合いが始まり、数年後には結婚して子供も生まれた。



有楽町の駅前で待ち合わせをしていると、真っ赤なクーペが目の前に停まった。小さな丸目四灯。明るめのタンレザーのシートが粋で、日本車では絶対見ることが出来ない伊達さを感じさせる。数か月前に気になる車があるんだと、環八沿いの外国車専門店へ一緒に車を見に行った。



実は、ちょっと気になっていた車。アルファロメオGTV。



155、145、156、147と、155からアルファロメオ、フィアットもプラットフォームを他社と共用したりすることによって、会社経営を健全化することになり、ほとんどのモデルがFRからFF化されることとなり、古くからのアルファロメオ乗りや車好きからは、それを残念がる声が多く出たが、同時に車の故障率も低くなり、日本での販売数もかなり多くなって、当時はとても珍しかったアルファロメオだったが、今では毎日見ない事は無いくらいのメーカーとなった。



FFとなった155は、各国のツーリングカー選手権で大暴れする活躍を見せ、FFという悪いイメージを払拭し、古くからのファンと共に、新たなアルファロメオファンも獲得するという躍進を見せたように思う。



「このGTVどう思う?」



現車の内外装を見ながら友人は僕に問いかけた。



ドアとドアの隙間の大きさ、ハンドル位置を決めると足元が窮屈になり、シートを決めるとハンドルが遠くなるというチグハグなポジション、格好の良いけどとてもストローク量の多いシフトレバー、FFなのに殆ど入らないトランク。挙げれば、欠点などいくらでも出てくる。



でも、唯一無二のスタイリング、心を鷲掴みにされる真っ赤なボディ、クロームが光るインテークマニホールドにヘッドカバーに真っ赤なアルファロメオの文字など、これまた素晴らしさもまた挙げればきりがない。



「買っちゃえば?」



多分友人は、その言葉を待っていたに違いない。欠点なんて気にするな。まあ、何とかなるさ。最後の一押しは、あの真夏にオンボロのフィアット・パンダを一緒に経験した僕にしてもらいたかったのかもしれない。



「そうだよな。」



僕に言ったのか、自分自身に言ったのかは分からないけど、彼はつぶやくようにそう言った。



あのアルファが彼の車となり、その日、目の前に現れた。11月、木枯らしの吹く、ちょっと寂しい有楽町の街の雰囲気をパッと明るくするような、真っ赤なアルファは本当に格好良かった。



「運転してみてよ。」



会うなりそう言われ、じゃあ運転させてもらうよと、僕も待ってましたとばかりに運転席に乗り込む。



初めて乗る車はいつもとても違和感がある。特にGTVは先ほど言ったようなポジションのちぐはぐさに驚きを隠せなかった。ギアを一速に入れ、クラッチを離す。ちょっと車の流れが速くなったところでアクセルをグッと踏み込んでみる。「ズロロロロ…。」と回転が上がるごとに元気のよい音が室内に飛び込んでくる。このエンジンサウンドを、このお洒落な空間の中で楽しめるだけで、この車を所有する幸せが理解できる。友人の背中を押して本当に良かったなと思った。銀座の街をぐるっと一周しただけだったけど、アルファと言うものの魅力はなんとなくわかったような気がした。



夜になり、一緒にスペイン料理を楽しんだ。会話も盛り上がり、楽しい時間を過ごせた気がした。友人夫婦との再会も楽しかったし、歯科医師の女性とも打ち解けることが出来たと思う。



帰り道、さりげなく夫の方が僕に聞いてきた。



「○○さんどう?良い人なんだけどさ、もし気が合えばと思って。」



僕も良い人だなと思ったし、僕なんかには勿体ないほどの人だと思った。



「あのね、実は…。」



そういってポケットから携帯を出して写真を見せる。その写真を見て友人はハッとした顔をした。



「あ、そうだったんだ。うん、わかるよ。」



クルマだけでなく、学生時代にイタリア人女性と恋をしていた彼は何かを察したらしかった。



その頃、その先どうなるかはあまり考えてはいなかったのだけど、ロザリーと丁度付き合っていた頃だった。付き合おうと言ったわけではなかったけど、お互いに何か足りないものを補うように付き合うようになっていた。英語も得意ではないし、彼女も日本語が得意ではない。その後、色々なことがあって、好きだけでは乗り越えられない問題も沢山あるのだということを、自分や周りの人間を見て本当に痛感した。僕の周囲では、外国人とお付き合いする人や国際結婚する人が多くいたけど、ずっと仲良く暮らしている人間は、日本人カップルに比べるとやっぱり極一部だけになってしまったりしている。



あれから十何年が経った。



「たくちゃん、あのさ、一緒に見てもらいたい車があるんだけどさ。」



そんな彼は、あれからずっと、今でもイタリア車に乗り続けている。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ