粋な夫婦~シボレー・カマロZ28~
今日も暑いな。
こんな日はあまり外の駐車場には停めたくない。真っ黒な車体がチンチンに熱くなってしまう。まあ、帰る時間は9時を回るから、その頃には冷めているのだろうけど、どう考えても車には良くない。普通に乗っているだけでも排熱が大変な車だったから、いつも屋内駐車場に停めるようにしていた。
その頃、ホテルの敷地内にあったオフィスに勤めていたので、駐車場はホテルの商業施設の利用者用の駐車場と共用だった。パッと見ただけでは、客の車か、仕事で来ている人間の車かわからないことを良いことに、いつも雨風をしのげる屋内駐車場に置いていた。
「あれ、今日は空きスペースが無いや。」
こんな暑い日は皆考えることは一緒で、屋内駐車場は満車。ちょっと出勤時間が遅くなってしまったせいもあって、何時もの定位置にはオープンのメルセデスが幌を開けたまま駐車されていた。
しようがないとバックのまま駐車場を出て、外の巨大な屋外駐車場へ向かう。外はまだ空きスペースが多く、職員が多く停めていた建物際のスペースに駐車した。
「あ、鉄仮面。厳ついねぇ。」
駐車した隣にあった車は、真っ黒なカマロ。遠くから見るとそれほど大きく見えないのだけど、近くに寄ってみると意外に大きく、アメ車の雰囲気に溢れている。初代、二代目は、アメ車を代表するようなクラシックな形だったけど、この三代目から現代的な雰囲気のフォルムになっていて、鉄仮面と呼ばれる無骨なフェイスは少しモダンな形に代っていたが、リアは薄く、アメ車独特の雰囲気を感じさせられた。
「このカマロ誰のだろう?」
ホテルの人間が10年以上落ちのこんな武骨なアメ車に乗るとは想像できない。5000㏄を超え、1850㎜という当時としては大きな車体を都内で走らせるような人間は、ここに訪れる客にはいたとしても、働く人間の車としては想像できなかった。
オフィスへ向かい、仕事をする。その間も、あのカマロは誰の車かずっと考えていた。僕の周りにいた人間は若い人が多かったので、電車通勤の人間が多く、車で通勤している人は、比較的年齢の高い人か、フリーランスで移動の多い人間しかいなかった。
そうこうしているうちに、一日の仕事が終わり、気が付いてみればいつも通り夜9時を回っていた。同僚に別れを告げて駐車場へ向かう。自分の車の隣には、まだあのカマロが停まっていた。荷物を後部座席に積み込んで、帰宅しようとエンジンを掛けようとしていると、隣のカマロに乗り込もうとする人影。
「あ、Tコーチ!このカマロ、コーチのだったの?」
ホテル内にある都内で一番高い屋内テニスコート。そこでレッスンを教えるコーチの一人、Tさんがカマロの持ち主だった。
「あはは、そうなんだよ。最近これに乗ってるんだけどね。」
「へぇー!ボルボ240はコーチに似合ってるなと思っていたけど、カマロも良い雰囲気ですねぇ!」
そういうと照れ臭そうに頭を掻いていた。
「いやぁ、ボルボもまだあるんだけど、うちの奥さんが似合うからって。」
パッと見、ずんぐりむっくりなオジサンなのだけど、服はおしゃれだし、性格もちょっと粋な感じのする人だった。そんなこともあって、沢山いるコーチの中でも、沢山の生徒を教える人気コーチだった。
「で、買ったんですか?」
「いや、家に帰ったらあったの。誕生日プレゼントだって。」
それを聞いて驚いた。確かにTコーチにカマロは似合っていたし、今ではかなり値上がりしているカマロも、その当時は案外安い値段で買えた。それでも、5000㏄もあって、燃費も恐ろしく悪く、大きな車体のスポーツカーを内緒でプレゼントとして買っちゃうなんて、粋なTコーチの何倍もかっこいい奥さんだなと思った。そして、それを嬉しそうに乗るTコーチもすごい人だなとも感じる。やっぱり、粋な人には、それを受け止められる粋な人間じゃないとお相手は務まらない。
「運転にまだちょっと慣れないんだけどね。じゃあ、また明日!」
そういうと、ドロロロロロと重低音を響かせて駐車場から出ていった。
Tバールーフをオープンにして自宅の鎌倉まで。Tコーチが真っ黒なカマロを走らせる画が頭に浮かぶ。うん、すごくかっこいい。それまであまりアメ車に興味がなかったけど、似合う人が乗るとアメ車もその魅力を発揮するものなのだなと感じさせられた。
でも、Tコーチの奥さんて、どんな人だろう?がぜん興味がわいた。そうだ、まだ仕事しているKコーチに話を聞いてみよう。
あの漆黒のカマロより、僕はどうやらTコーチの奥さんの魅力にやられてしまったらしい。




