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小さな巨人~SUZUKI HUSTLER~

「うん、うん、わかった。じゃあ、Hを拾ってМの事務所へ行くよ。」



朝早く、幼馴染のⅯから電話が来た。Мは、小学校の頃からの友人だが、中学までは一緒で、高校からは別のところへ行ったため、高校時代からは疎遠になったが、長いこと勤めていた百貨店の経理部を退職し、何年か前から資格合格のために毎年一科目ずつ試験をクリアして、5年かけて税理士になり、地元で税理士事務所を開業していた。



Hは、Kと俺と同じ小学校だったが、中学からは私立の学校に入ったため、あまり交流はなかったのだけど、予備校で再び一緒になり、それからはちょくちょく連絡を取り合っていた。Hは大手商社の人事部門で働いていたのだが、父親が経営していた社労士事務所を継ぐため、М同様、社会保険労務士となり、父親とともに地元で活躍していた。



俺は、浪人中に遊びすぎて、そのまま職人の世界に飛び込んだドロップアウト組だったのだが、その時経営していた事務所で顧問をしてもらっていた税理士の先生に、「Yさん、行政書士になったらどう?」と、自分の何を見てそういったのかはわからなかったが、弟子に自分の事務所を任せて、違う世界に行ってみたいと思っていたこともあり、慣れない法律の勉強をしてみると、意外に自分がまきこまれた民事の事だったりしたので、全く畑違いの仕事だったが、数年かけて個人事務所を立ち上げることができた。



Мが教えてくれた場所は熱海駅から少し離れた場所で、道も狭く、山の上のほうらしい。俺の車にはナビが付いていないし、携帯はガラケーなので、どうやって行けばいいのかがわからない。



「母ちゃん、カズに車借りるって言っておいて!代わりに父さんの車のカギ置いとくから!」



息子のカズが買った軽自動車には、ナビが付いていた。ちょっと借りたときに使い方を覚えたのだが、昔のナビと違って、きびきび動くし精度も高い。細い道で山坂道なら、小さな軽自動車が良いだろう。



「はいはい、渡しておくから気を付けて行ってらっしゃい。」



そういうと、奥さんはおにぎりが4つ入った包みを手渡してくれた。さっきの電話の内容を聞いて、サッと作ってくれたのだろう。忙しない自分とは違い、全部を見通す力があるのは、うちの中では母ちゃんだけだ。



駅前で、Мを拾い、Hの事務所でHと補助者の二人を拾う。ハスラーは、4人乗っても狭さを感じない。後ろの席に至っては、自分の車よりも広いくらいで、みんなの荷物を荷室に積むために後席を前にスライドしても、まだまだゆったり座れるくらいの広さがある。とりあえずそろったところで皆におにぎりを配る。



「Y、この車、軽なのに広いなぁ。あ、僕のシャケだ。当たりだね!」



Мがそう言うと一緒に来た補助者のUさんが、



「先生、最近の軽は本当に広いんですよ。小さな子を持つお母さん達の味方なんです。あ、私、高菜だ!うれしい!」



丁度小さなお子さんを持つUさんの言うことだから説得力がある。街にはスズキやダイハツの軽自動車が多く、若いお母さん達だけでなく、お年寄りも多いから、運転もしやすいのだろう。



「そうそう、ウチの親父もベンツ辞めてスペーシアギアに乗ったら、もうこれで良いって。ツナマヨかぁ!美味しいんだよねぇ、ツナマヨ。」



そういうHは父親のベンツに乗っているが、いまいち運転が下手くそで危なっかしい。まあ、そういう人間にはメルセデスがいいのかもしれない。



「外からはわからないくらい広くて使い勝手がいいなぁ、この車。酸っぱ!俺のは梅だ。」



みんな自分が好きなおにぎりに当たって大喜びだったけど。その四種類を選んだ奥さんには何かの能力があるのではないかと思わされる。



そうこうしているうちに、Мのクライアントさんが新しく立ち上げる会社のある熱海に近づいてきた。会社設立のために行政書士の俺、引き続きお金周りの事はМ、そして、新たに抱える社員の事に関してはHと、話が通りやすい3人と顔を合わせておきたいとのことだった。



海岸線の道路から、細い道に入って山のほうへと登っていく。4WDターボのハスラーは、街乗りによくあるターボなしの軽と違って、唸り声は少しは上がるものの、4人乗った黄色い車体を力強くグイグイと押し上げていく。少し柔らかめの足に最初は気持ち悪さを感じたが、上手に絹ごしの豆腐をイメージしながらハンドルとブレーキを操作してみると、意外にスポーティーに運転することも出来る。



「あの大きな古民家だよ。」



Мが後部座席から少し前に身を乗り出して指を指した。熱海の古民家を使ったオーベルジュ(宿泊施設付きレストラン)を作るとことだった。大きな門から車ごと中へ入っていくと、丁度クライアントさんが出迎えてくれた。



「お待ちしておりました。ハスラー良いですよね。」



職員用の駐車場には、カーキ色の現行ハスラーが停まっていた。社長さんも、ここへ来るために車に難儀し、大きな自家用車ではなく、従業員の軽自動車で下見に来ることが多くなり、自分でもここへ来るためにハスラーを購入したとのことだった。



「じゃあ、中でお話しましょうか?」



ひとしきりハスラーの良さを語り、少し気分が解れた私たちは仕事の話をすることになった。



これで十分で、これが良くて、これじゃないとしっくりこない。



スズキの車はそういう風に愛されているものなのかもしれない。俺たち士業の仲間というのも、クライアントさんにとってそういう身近な存在でいなければならないと思う。ハスラーを選んだ社長さんもまた、オーベルジュに来たお客さんにとって、気取らないおもてなしをしてあげたいと願っているようだ。



息子も、良い車を選んだんだなと、ちょっと見直したくなる気分になった。


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