なるようになるさ~Alfa-Romeo 166~
「関東は、夜半から大雨に見舞われ…」
テレビのニュースでは、長靴をはいたレポーターの女性がビニール傘をさしながら、大雨の都内から中継をしていた。
「大変だなぁ。」
それを見越して、ちょっと早めに帰宅し、奥さんと晩御飯を食べた後にソファーでくつろぎながらテレビを見ていた。
「ブルルルル…」
手元にあったスマフォが震えている。
「あ、Kから電話だ。」
Kは、以前、僕の後押しでAlfa-Romeo GTVを購入した男だった。あれから長い時間GTVを所有し、子供が生まれても乗り続けていたくらいGTVにはまった男だった。あんな荷物の積めない車で、二人の男の子を設けていたのだから驚きだ。まあ、そういうときは奥さんの車を使っていたのだと思うけど。
「ガチャ。お久しぶりー!どうしたの?」
「あ、たくちゃん。久しぶり。」
大体、Kが電話をしてくるときは、女の子が電話をしてくる時と同じで、何かを聞いてほしい時だった。相談したいというよりも、とりあえずその時の気持ちを何とかしたくて話を聞いてほしいという感じに近い。GTVを購入した時だって、僕の後押しというよりも、買う決意はしたから、誰かにそれを危ぶむ言葉じゃなくて、良いねって言ってくれる人と話をしたいということだったのだろう。
「こんな雨の中、どうしたの?」
「うん、あのね、今仕事帰りなんだけどさ。」
風の音が心なしか聞こえてくる。まだ、外にいるのだろう。
「今さ、Alfa-Romeo166に乗っているんだけどね。」
「へぇ、いいね!前期のちょっと情けない顔が良いんだよね。」
「そうそう。あれのシャンパンゴールド。」
Kとは車の趣味が本当に合う。
「台風なんだけどさ、窓が全開のまま上がらなくなっちゃって。」
うん、驚かない。そうだよね、あるあるだよね。
ただ、それが台風の日に当たっちゃっただけでさ、イタリア車なら当然よくあることですよね。
「そうかー!昔Kが乗っていたフィアットパンダを思い出すねー!」
「大丈夫?」「JAF呼んだら?」なんて言っても仕方のない言葉なんてかけても仕方ないし、変に同情してもどうしようもない。だったら、激務からようやく解放された当直明けの小児外科医がかけてほしい言葉はそんな言葉ではないだろう。
「ビニール袋をガムテープで貼っつけて、ゆっくり帰りなよー!」
「そうだよねー!それしかないよねー!」
もうそれしかないのを彼も知っているけど、こんなどうしようもない状況を一緒に笑ってあげられる人と話がしたいというのが、ラテン気質というものだろう。「なるようになるさ」というのは、イタリアを象徴するような言葉だけど、本当はアメリカ人が考えたスペイン語のような、イタリア語のような言葉のようなもののようだ。
イタリアとフランスとアメリカの出資した合弁会社によって再びヒット作を生み出すこととなった新生Alfa-Romeoだから、ケセラセラというその言葉は、まさに外国人から見たイタリア人像のエッセンスであり、新生Alfa-Romeoが求められた、エレガントと官能を感じさせる大衆車像そのものなのではないかと思った。
「ごめんね、じゃあ何とかして帰るよ!」
「うんうん、気を付けてね!あ、そうだ、今度166乗せてよ!」
「是非是非!」
そう言ってKは電話を切った。まあ、Kなら何とかなるさ。そう思える男でもある。
僕とKは車の好みは合うものの、それを「エイヤッ!」と買ってしまう彼と、「でもなぁ。」と言いながらしり込みしてしまう僕とはやっぱり大きな違いがある。だから、僕はいつも外車と言えばドイツ車になってしまったりする。それでも、どっちにしろ壊れるというのにも関わらず…。
それからしばらく166に乗ったが、どうしようもない状態になるところまで乗り倒して166を降りたらしい。あのエレガントなサイドラインと官能的なⅤ6エンジンを味わうことはできなかった。
そして、彼のイタリア車生活はまだまだ続く。
ま、Kならば、なるようになるさ。




