意外性~BMW MINI R56 COOPER S~
友達のAさんが良く言っていた。
「ローバーミニでも買ってみたら?自分でパーツ輸入してプラモデルみたいに遊べるよ。」
そういう彼は、ビートルを同じようにカスタムしたり、納屋に二代目カマロを寝かしていたりしている、普通の車好きの二段上くらいを行く人だ。
「そういうAさんは車に乗らないの?」
「だって都内に住んでたらいらないじゃん、たくやが迎えに来るし。」
いつも遊びに行くときは僕が車を出し、遊び代はAさん持ちという感じだったので、まあ持ちつ持たれつの関係だったように思える。
「ミニ可愛いよなぁ。」
何となくそのことを思い出しながらカウンターでジントニックを飲み、思わずつぶやいてしまったら、グラスを磨いていたマスターが話し掛けてきた。
「ミニと言えば、KちゃんがMINIに乗ってるよ。」
そう話していると、ドアが開き、丁度そのKちゃんがいつものように現れた。
「マスター、いつもの!」
そう言うと、マスターがKちゃん専用のカラフルなカクテルを作り始めた。
「あのね、たくちゃんミニが欲しいんだってさ。」
え、そうなの?なんか興味ないのかなって思っていた!いいじゃんいいじゃん!BMWじゃなくて、ローバーの方?まああれも良いけど、BMW MINIもちょっと乗ってみない?
そんな風に一気に捲し立てられる。
「あぁ、新しいMINIはさ、あまり興味がなかったんだよね。」
女性に人気で、なんだか狙ったように可愛くて、オリジナルじゃないというところがなんとなく引っ掛かりを感じていた。車雑誌なんかでは面白いなんてことを書いてはいたものの、同じハッチバックなら、ルノーやプジョーを選ぶだろうし、義姉が乗っていたMINIクロスオーバーの乗り味には、あまり食指が動かなかった。
「じゃあ、明日私のMINIに乗ってみない?十国峠集合でいい?」
あ、ああ、良いよ行こうか?と、その勢いに圧倒されて約束してしまう。
この一年くらい、このバーで会った時に世間話をするくらいの関係だったが、これほど目をキラキラさせて話すKちゃんは初めて見た気がした。スラっとした長身で、仕事柄なのかダークカラーのスーツにトレンチコート姿。カッコよい感じのスタイルで、キリっとした美人顔なのだが屈託のない笑顔が素敵な女性。ちょっと綺麗で格好良い女性だったので、気軽に近寄ることをためらわせる雰囲気があった。そんな彼女が、これほど明るく楽しそうな人とは思わなかったので驚いてしまった。
「マスター、チェックして!じゃあ先帰るね!明日出る前に電話して!」
そう言うと、ドタバタとトレンチコートを羽織りながら慌ただしく店を出ていった。
「Kちゃんって、車好きだったんだね。」
「知らなかった?明日は、大変だと思うよ?」
Kちゃんのグラスを片付けながら、マスターが笑っている。確かに女の子とのドライブは苦痛かもしれない。ゆったりペースであっちこっちへ行くドライブはあまり好きじゃない。でもまあ、ちょっとKちゃんとお近づきになれるのなら良いかもなと思いながら、僕も早めに切り上げることにした。
朝早くに電話を入れ、待ち合わせの十国峠のパーキングエリアへ向かう。二人とも仕事は平日休みだった。水曜日だったので、早朝の駐車場にはあまり人がいなかった。真っ赤なMINIが停まっていたので、もしかしたらあれがKちゃんのMINIかなと思い、隣にインプを横付けした。エンジンを止めて、MINIの方へ行こうとしたら、60過ぎくらいのおばさんが乗っていた。
「こっちこっち!」
振り向くと、Kちゃんがちょっと離れた場所から手を振っている。隣には、ガンメタリックのR56 MINI COOPER S。指一本入るかどうか位まで落とされた車高のせいか、コロンとしたMINIのイメージと違って、どこか厳つい雰囲気を漂わせていた。
「…。なんか、すごいね…。」
インプレッサとはちょっと違うけど、ターボ車独特の重低音が響いていた。センター二本出しのマフラーエンドは黒いカーボン巻き。
「乗って乗って!」
普段とは違うジーンズ姿が新鮮に見えた。運転しやすいからと、寒い季節なのにTシャツ姿。助手席のドアを開けると、その可愛らしい風貌からは考えつかないくらい重厚で重いドア。閉めると、「ガキンッ!」という金属音。まるで空冷の911みたいだ。
「あ、マニュアルなんだね。」
「MINIはね、スポーツカーなんだから!」
そう言うと、Kちゃんは一速に入れ、アクセルを軽くあおる。ズロロン!と低音を響かせたMINIは、勢いよく箱根方面へと飛び出していった。前輪を少しよじらせながら加速していくMINIはクラシックで、男っぽい車だなと思った。
Kちゃんは巧みなシフトワークをしながらドライブした。低速コーナーでは、女性とは思えない強めのブレーキを踏み、快音を響かせながらヒール&トー。再び加速しながら、その大きさからは考えつかないほどの剛性感のある車体を前に進めた。
「…、俺より運転上手じゃん!」
まんざらでもなさそうなKちゃんの横顔を眺めながら、メーターに目を移すと、オドメーターは10万キロを超えていた。
「お父さんと、昔からここら辺は走っているから。」
何台もローバーミニを所有するお父さんと、小さな頃から箱根に走りに来ていたとのことだった。大人になり、お父さんが娘のためにと用意していたミントグリーンのクーパーには乗らず、自分でこのBMW MINIを購入して、たまに親子で走りに来ているらしい。
ターンパイクで交代して、十国峠の下り道を走らせてもらう。大きめのシフトノブ。今時珍しいくらい重いクラッチ。前輪のインフォメーションはそれなりだったが、車体から感じるフィーリングは、無骨なスポーツカーそのもの。慣れない操作感に初めはギクシャクしてしまったが、何とも言えない乗りごたえがある。この車なら、いつまでも走っていたい、そんな気にさせられた。
その後、インプを運転したKちゃんは、あっという間に僕よりも上手に乗りこなしていた。そして、もっと運転したくなった僕は夕方になるまでMINIを走らせ、帰るころにはヘトヘトになってしまった。マスターが大変だと言っていたのは、このことだったのかもしれない。
「MINIはどうだった?」
一国沿いのロイヤルホストでホットファッジサンデーを食べながらKちゃんは聞いてきた。
「うん。いやぁ、意外だったよ。こんなに凄いなんてね。」
ヨーグルトジャーマニーの酸味と甘味が体に染みわたる。
「でしょ!また走りに来ようね!」
ヘトヘトの僕を尻目に、まだまだ元気なKちゃんは、そう言うと嬉しそうにサンデーを平らげていた。
MINIが自分が思っていた以上に意外だったのに驚いたが、それ以上にKちゃんはとても魅力的な女性だなと思った。
「ほんと、可愛いし、楽しいし、芯が強いし…。」
え?なに?それMINIのこと?私のこと?やだ、恥ずかしい!そう言うと、綺麗な顔をクシャクシャにして一人喜んでいる。そんな姿も今まで見ることの出来なかった想像以上の魅力的な姿だった。
僕は、そんなMINIにも、彼女にも、心底惚れてしまったようだった。




