交差点~SUBARU impreza wrx sti GDBアプライドモデルB型~
何もかも、どうでも良くなった。
この世と自分とのつながりが、急に薄くなって、ここで生きていていいものかどうかが分からなくなってきていた。
あれほど熱心にクライアントの事に一生懸命だった自分。開業した事務所を大きくしていきたいという気持ちで燃えていた自分。何とかいっぱしの人間になって親を安心させたいと思う自分。
自分の情熱が上手くいかないことに音を上げたらしい。ぷっつりと糸が切れたかのように無気力になり、暑い夜、仕事場からとぼとぼと家に帰る。
ボーっとしたまま、家に帰り、郵便ポストの中をのぞく。
雑多なチラシの中に、一枚の葉書。一番受け取りたくなかった便り。
「結婚しました。お元気ですか?」
葉書の裏の写真には、オープンカーに跨って幸せそうなカップルが眩しい笑顔をしている。
無気力だった自分の感情が、さらに脱力されるような思いがして、その続きの文字を読むことが出来ない。
何のやる気もしないのに、心臓だけはドクドクと鼓動が早まる。温めもせずに買ってきたお弁当を食べる。どんな味かもわからない。真夏の夜の熱気と湿度が、無気力な僕の感情にまとわりついてくるような気がした。
夜11時半。
薄くなった感情に、悲しみが重なり、その場にはいてもたってもいられない気持ちがした。
駐車場に行き、最近乗っていなかった愛車に乗り込む。
ミッドナイトブラックのボディに金色のホイール。あまり人気のない色かもしれないが、僕は迷わずこの色に決めた。乗り始めた頃は、ちょっとおっかなびっくり乗っていたが、時を経て、色んな人を乗せて、沢山の思い出を作ってくれた。多分、僕の所有した車の中で、これほどたくさんの人を乗せた車は無い。
「クククッ…、ズヴォオン、ドドドドドドッ」
闇の中に、重低音の排気音が響く。一速に入れ、クラッチを繋ぐと、アクセルをあおらなくてもスルスルと進んでいく。
永福町から4号線、そして、C1へ。夜の首都高は、以外にも優しい。街の明かり、車のテールライト、ビルに映る東京タワー。そんな無機質な街の中、その明かりの一つ一つに生身の人間たちがいて、そして、色んな人生が交錯しているのを感じる。
4速から3速へ落とし、アクセルを踏む。スピードが高まるごとに、緊張感が自分がここに生きていることを思い出させる。ブレーキとハンドルを通じで、自分とインプレッサが息を合わせなければならないが、下道では固い足回りも、3千回転以下は使いづらいエンジンも、首都高では水を得た魚のようで、多少ラフな運転でも安全に許容してくれる。
銀座から北の丸、トンネルに入って4号線入り口、霞が関を抜けて湾岸線。
目の前の運転に集中していたら、自分の意識もようやく現実世界に戻ってきた感覚がした。
辰巳のパーキングエリアを通り過ぎ、疲れた僕はC2をゆっくりと走る。窓を少しだけ開けて、煙草に火をつけた。
工場地帯はオレンジ色のライトの光に浮かび上がって、深夜1時でも煙を上げて動いている。そんな景色を横目に煙草の煙をふぅっと吐いた。僕の内側から出た煙と共に、それまで抑え込んでいた感情があふれ出す。このインプレッサと共に過ごした出会いや別れの情景が目に浮かぶ。
「結婚、おめでとう。」
今はいない、助手席の彼女にそうつぶやいた。




