第二十四話 昔話と平和な日常
日間ランキングに初めてランクインしました!
これも読んで下さった皆様のおかげです!
ぶっちゃけると、今までPVは多い日でも1日百件前後だったのが、急に十倍近くになってて驚きましたΣ(゜Д゜;≡;゜д゜)
ブックマークも三倍近くに……これからも皆さんの期待に応えられるように頑張ります。
王都で起こった反乱も終わり、平穏でいつも通りの日常が戻ってきたように見えた。
否、戻って来たはずだった。
「……何でここに居る……」
シュウの口から思わずため息が漏れる。お前ら仕事はどうしたんだ、と問い詰めたい気持ちになったとしてもしょうがないはずだ。
「ヘイヘイへ~イ、固いこと言うなよシュシュ! あたいとアンタの仲じゃないカ」
「お邪魔してます、シュウ。わたくしは今日の政務は終わらせて来ましたのでご心配なく」
いやそんな心配はしてない、と思わず出かかった言葉を飲み込み、大げさにため息をついて見せた。
「……そこまで露骨に邪険にされるとわたくし、少々傷つきます……」
「いやぁ~、大変だねミリっちは」
「お前もだそこの髭ペイント娘。そもそも何で今日はネズミの姿じゃないんだ?」
アルゴは何故か普段の鼠を通した姿ではなく、人間としてのアルゴ本人が出て来ている。敵が多く、病的なまでに警戒を怠らないアルゴにしては本当に珍しいことだ。
記憶が正しければアルゴと知り合って以来本人が地上に出てきた回数は片手の指で足りるはず。
「ふっ、あたいの情報網が今日の教会のおやつが例のケーキだという情報を捕まえてね。あたいの探究心と言う名の情報屋としての本能が働いちまったのサ」
「わたくしは何故か教会にお邪魔した方が良いと私の女としての勘が言っていたものですから」
意訳すると二人してお菓子をたかりに来たらしい。
いや、まだアルゴの方は分かるがミリアリアの方は正直言ってかなり怖い。何だ女の勘って。
しかもタイミングが良いことにちょうど作り始める所で来ている。これでは誤魔化せそうにもない。
「ハァ。まあ良いけどな」
半ば諦めの境地に達すると材料の確認をする。卵に牛乳、ナチュラルチーズ、砂糖等の調味料にレモンに似た果実。どれも今日取れたての新鮮な物ばかりだ。菓子作りでは食材の鮮度が味に大きく影響する。材料の目利きは上手い菓子への第一歩だ。
因みにレモンに似た果物は先日助けた『サラン商会』で働いている亜人がお礼だとばかりに持ってきてくれたものだ。
すぐに治療した甲斐あって傷跡も残らずに完治したらしい。妻に子供一人の三人家族で、教会で読み書きを教えていると漏らすと自分の子供にも習わせたいと言ってきた。
どうやら学がなく過去に苦労した経験があるらしい。
「それで城の方はどうなんだ? 少しは落ち着いたのか?」
瘴魔種を討伐した後、エーデル公爵家騎士団長ガイラ・クリフトを中心とした近衛騎士の働きによって城下の魔物は討伐された。首謀者死亡という状況もあって一時王都は混乱したが事件から数日後に帰還した将軍をはじめとする騎士隊や『聖女』ミリアリアの働きもあって大きな被害なく鎮静化に向かった。
ただし、首謀者が死亡してしまったために責任を誰が取るのか揉めているらしく、ミリアリア本人も公爵家当主として会議に参加していたらしい。
「正直言ってまだ落ち着いたとは言えません。今回はかなり大きな事件ですから表立って誰も責任をとらないというわけにはいかないでしょうし。それ以上に国王派の中心貴族が今回の事件で命を落としたために、国王の支持基盤が崩れた事の方が問題です」
「ホントに苦労しているみたいだヨ。会議を聞いてる限りじゃ国王派、かなり焦ってるからネ。まあでもラリニース侯爵は貴族派の中心文官だったからサ、遠征帰りの貴族派からすれば自分たちがいない間に起こった身内の不祥事ってことで困ってるみたいだからどっちもどっちじゃないかな」
事実貴族派は現在混乱の中にある。どう責任を取るか、それが今後の肝になりそうだった。
卵を黄身と白身に分け、白身に砂糖を加えてよく混ぜる。しばらくかき混ぜていると卵白が泡状になり、大きく膨らんできた。今回の菓子には俗に言うメレンゲが重要なのだ。軽い口どけを演出するためにも手抜かりは許されない。
「瘴魔種のことは報告したのか?」
「いえ、していません。かなり迷いましたが下手な混乱を避けるためにも伏せてあります。魔物は侯爵が国内に引き入れたということで国民に知らせています。魔物を操るマジックアイテムである水晶が無いわけですから証拠が残るという訳でもないですし」
水晶は瘴魔種との戦闘の際に蜂によって踏みつぶされ粉々に砕けてしまった。
先のことを考えればあんな危険なマジックアイテムは失われてしまって良かったと考えている。
因みにミリアリアは瘴魔種のことだけでなく、シュウに関する情報もほとんど王宮に報告していない。
『魔人兵』などという大国の闇の部分に当たる情報を手に入れればそれを使って良からぬことを考える者も出てくる。
彼女が伝えたのはエーデル公爵家が雇い入れた冒険者が今回の首謀者を討ったということだけだ。だが数人の貴族がシュウに興味を持つという厄介な状況になってしまっていたが。
「まあ、亜人街がミリっちの担当になっただけでも良かったヨ。他の亜人たちも税が引き下げられてかなり喜んでいるみたいだし」
ミリアリアは今回の事件を中心となって解決した恩賞として亜人街の統治権と国王直轄の領地の一部を与えられている。
彼女は統治権を与えられた翌日に早速税率を引き下げ、亜人たちも『聖女』と名高いエーデル公爵を大喜びで受け入れた。
国王としては避難を後回しにしたことへの不満を解消させる目的らしい。一部の貴族から反対もあったが与えられたのが亜人街ということもあって大部分の貴族が不満なくこれを受け入れている。
「アルゴ、聖王国とラリニース侯爵の関係は何か分からないのか?」
「うーん。ちょっと難しいんだよね。なんせ首謀者が死んじゃってるから情報を引き出そうにも出来ないし。侯爵の屋敷にもその手の書類は残っていなかったからネ」
「マジックアイテムの出所は聖王国で間違いないのですか?」
「それは間違いないヨ。正直、聖王国は今きな臭いからハッキリしたことは言えないんだけど」
「きな臭い?」
シュウは先日のおやつの残りであるクッキーを砕き容器の底に敷き詰めていたのだが手を止めた。
「アソコの皇女様は表向きは清廉潔白で通ってるけど裏じゃ結構悪どいことやってるって有名でネ。元々魔族殲滅を掲げてることもあってかなり過激だったんだけど勇者を召還して以来それに拍車がかかってるらしくてさ。亜人の奴隷を使って人体実験してるなんて話もあるからネ」
「ならこの先は大掛かりな作戦に出てくるかもな」
「そうだね。ベクトリア渓谷で苦戦しているらしいからそのうち大規模な侵攻作戦とかもあるかもネ」
「ガリア帝国の方はどうなのですか?」
「こっちはまだあんまり情報がないネ。元々帝国には七年前に召還した勇者が居るから今回の召還で勇者は二人になったわけだから。でも二人目の勇者を召還したってことは本格的に攻勢に出る気なんじゃないかな」
容器に移した生地を特別製のオーブンのような魔道具の中に入れる。
タイマーなどは付いていないが焼き上がりを逃さないように見ていれば特に問題はない。
「シュウ、アルゴさんから貴方の秘密について、多少聞いていますがそれでも貴方の口から聞かせてもらえませんか?」
ゆっくりと視線をミリアリアに向ける。彼女は視線を逸らすことなく、その顔にふざけた様子は感じられない。本気でこちらの過去について聞く覚悟があるようだ。
「あまり楽しい話じゃないぞ」
「構いません。わたしくは亜人と人間の共存を目指すと決めました。……いつか貴方はわたくしに覚悟を問いましたね? ならば貴方の過去を受け入れることが私の覚悟です」
魅了は真っ直ぐとこちらを見つめ、視線を逸らさない。アルゴは何も言わないが彼女も話を聞かないという選択肢はないようだった。
余った材料を片付け、手を洗うとミリアリアの正面に座る。アルゴはミリアリアの隣へと座り直した。
緊張で口の中がカラカラだ。水を口に含み、一気に飲み干す。冷たい水が食道を通り、ストンと胃に落ちる。
他人にこの話をするのは初めてだ。アルゴにも肝心な所ははぐらかしたので彼女もこの話は初耳だろう。
「初めに言っておく、ほとんど信じられないと思うぞ。それでも聞くのか?」
「構いませんよ。嘘かどうかはわたくしが判断しますから」
「まあ、気軽に話してみなヨ」
シュウは一つ深呼吸をするとゆっくりと話し出した。
自分が異世界人で勇者としてこの世界に召還されたこと。
自分の他に二人勇者がいたこと。
魔術的な素養に恵まれず、無能勇者の烙印を押されたこと。
『人造魔人計画』の被験体として魔核を心臓に埋め込まれたこと。
魔法が暴走し、研究所を破壊して国外に逃げたこと。
身を隠しつつ剣や魔法を磨き、他の大国にある召還魔法陣を破壊したこと。
二人が分からないことがあれば補足を入れつつ丁寧に話していく。
「勇者…」
「ああ。信じられないかもしれないが事実だ」
「いえ、信じましょう。シュウが異世界人ならあの知識の深さと能力の高さも頷けます」
シュウが異世界人であるなら貴族顔負けの高度な知識を持つことも亜人に対して差別意識を持たないことも納得がいく。
「しかしよく生きてたね。禁術クラスの魔法を使われて『魔人兵』となっても命があるなんて信じられないヨ。流石は勇者ってことかな?」
「いや……多分助けてくれたヤツがいたんだ、と思う」
シュウは自信なさげに頭をかいた。
正直これは自分の想像の域を出ないのだが、こう考えると色々なことに説明も付く。
「どういう事だい?」
「俺は魔核を埋め込まれて魔法を使われた時のことをハッキリ憶えてないんだ」
「気絶していたのですか?」
「いや。魔核を埋め込まれたときの痛みで記憶が飛んでるんだと思う」
ミリアリアはシュウの言葉に絶句した。だが冷静に考えれば異物と言ってもよいものを無理矢理身体に埋め込むのだ。
拒否反応で意識が飛ぶほどの痛みが生じたとしても不思議ではない。
「意識が戻ったとき辺りはグチャグチャになって、俺は恵子に抱き締められてた」
「ケイコ?」
「勇者は三人召還されたって言っただろ。恵子はそのうちの一人だった」
「味方だったのですか?」
シュウは押し黙った。
彼女との関係を言葉にするのは酷く難しい。だが味方かと問われればその答えはイエスだ。
「そう、だな。彼女は俺を無能勇者と罵ったことは無かったな。寧ろよく庇ってくれた」
「……恋人、だったのですか?」
「男女の関係じゃなかった。彼女はにほんで……向こうの世界で俺と会ったことがあったらしい。俺は憶えてなかったんだが」
それを知った後何度も彼女に尋ねてみたのだが上手くはぐらかされ、真実を聞くことも出来なくなってしまった。
「彼女はもう事切れていた。徐々に冷たくなる彼女を俺はただ抱き締めることしかできなかった」
今でもリアルに思い出せる。さっきまで息をしていた人間がただの物となる瞬間。命が手からすり抜けていくあの感覚。
「それでそのケイコに救われたってのは?」
「コレは俺の推測でしかないんだ。真実を聞こうにもどうにも出来ないからな」
シュウの推測は単純だった。
恵子が何かの魔法で外からシュウの身体を安定させたとのことだった。
「その証拠に俺の心臓の周りには知らない術式が施されてる。俺が読んだ『魔人兵』の研究にこの術式は記されていなかった」
ミリアリアは魔人兵となった際にシュウの心臓から不可思議な術式が広がり、激しく明滅していたのを思い出した。
思い出してみればあれは全身に広がる枷のようにも見えた。
「その後はさっき話した通りだ。感情に任せて『魔人兵』の力を使って研究所や研究者を壊して国外に逃げ出した。大陸中を巡って召還魔法陣に関係するものは全て壊した」
「……人も、ですか?」
「……ああ。研究者もその家族も子供も例外なく……全員殺した」
ゾクリ。
ミリアリアは自分の背中に冷たい汗が流れるのを感じた。
シュウの瞳には複雑な色が見て取れる。悲哀。後悔。悔恨。怒り。そしてそれらを押し消すほどの憎悪。
恐らく望んだ事ではなかったのだろう。日頃の様子を見れば子供や女性に手をかける姿など想像できない。一時の感情に身を任せて力を振るったことに後悔を感じているように見える。
だがそれ以上に憎しみを忘れられないようだった。
この世界召還されたことか、
魔人兵にされたことか、
はたまたケイコと言った少女を死なせたことか。
理由は分からない。それでも彼は何かに怒り、憎悪しているのは間違いなかった。
「……よく魔法陣を破壊できたね。シュシュは一人だったんだろ?」
「国外に逃げたときにある盗賊団に世話になったんだ。理由を聞くことなく寝床や食事を用意してくれてな、随分世話になった」
ミリアリアはシュウの表情から負の感情が消え、変わりに苦笑するようなものに変わったことに安堵した。
ケイコと呼ばれた少女だけでなく、彼を助けてくれた者がいたという事実に胸が軽くなったのを感じた。
何だか悔しいですね。
そこまで考えたときにどうして悔しいという感情が浮かぶのか不思議に思った。
先程もそうだケイコのことを恋人なのか尋ねたときに胸の中に不思議な痛みを感じた。
……何なんでしょう。この感じは。
自問しようとも答えは出ない。ミリアリアはそれをこれから出来るケーキへの期待だと思い込んだ。
「シュウにぃ、ケーキの匂いがする!」
扉を開け、勢いよく飛び込んできたのは兎の獣人の少女だ。
そう言えば一番の好物だと前にミリアリアに言っていたっけ。
苦笑するとそろそろ焼きあがるケーキを取り出そうと席を立った。
「サリー。もう焼けるからみんなを呼んで来てくれ。子供たちに必ず手を洗うようにもな」
「うん!!」
正に脱兎の勢いで飛び出していくのを見て三人は静かに笑いあった。
先程までの重苦しい空気も吹き飛ばされたように感じた。
子供には叶わないな。
シュウは静かに焼きあがったケーキを取り出すと全員分のお茶の準備を始めた。
「コレが噂に聞くチーズを使ったケーキですか」
ケーキは表面にきれいな焼き色が付き、中も火が通りすぎない程度に火が入っている。
包丁を入れたところから濃厚なチーズの匂いが辺りに漂い、食欲を誘う。
人数の都合上ワンホール十六等分と少々小さいが、焼き上げたケーキの数は六ホール。
本音を言えばかなり重労働だった。
「そうだよー。シュウにぃにお願いするといつも作ってくれるんだ。いいでしょー!」
「べ、別に悔しくなんかありません。わたくしは『聖女』ですから。……本当に悔しい訳じゃありませんからね!」
アンタはいつからツンデレになったんだ?
ミリアリア不思議属性に首を傾けながらもケーキの準備に淀みはない。
既に食卓には修道女から子供まで全員が席に着いている。
サリーに呼びに行かせてから五分もかからず集まったことに少々驚きを禁じ得ない。
そんなに楽しみだったのか?
皿を全員に配り、手を合わせる。
「いただきます」
「「「「「「いただきます!」」」」」」
子供たちは一斉にケーキを口へと運んでいる。
自分のケーキにフォークを突き立てようとしたところでミリアリアに呼び止められた。
「シュウ、今のは?」
「俺の故郷の挨拶だよ。作ってくれた人と食材へ感謝するんだ」
「そうなのですか」
ミリアリアも「いただきます」と小さく言うとケーキを口に運び始めた。
「おいしーい!」
「ああチーズって感じ」
「本当に美味しいですね」
周りの反応が上々なのを確認しつつ自分も焼きあがったケーキを口に運ぶ。
滑らかな口どけの生地はたっぷりのチーズを感じさせるがくどくはなく、レモンに似た果実の酸味が全体を上手く引き締めている。
うん、上手くできた。
自画自賛ながら良い出来だと思う。子供たちが先を争うように食べているのを見ればそれが勘違いでないとわかる。何よりいかにも美味しそうに食べる子供たちを見ていると作った甲斐があったというものだ。
ーーーだからアルゴが子供以上に狂ったように食べていてシスターたちに引かれていたり、ミリアリアが優雅な動作でありながら子供たちに劣らない速度で食べているのは許容範囲だ。
「やぶぉいね、ふぉれ。ネヴビのあはいからううとひーふがあまらなひ!」
(意訳:ヤバいね、コレ。ネズミのあたしからするとチーズがたまらない!)
「ああ、福に至ると書いて至福とはよく言ったものです。しかしこの幸福感はとても言葉では言い尽くせません。自分の言語力が乏しいことにこれほどの悔しさを感じるとは……」
リスの如く頬をいっぱいにケーキを頬張るアルゴに、惚けた表情の後、すぐに固く拳を握りしめた苦痛の表情と、百面相の如くコロコロ表情が変わるミリアリア。
ーーーお前ら落ち着いて食え。
あまりの興奮度にシュウが内心で愚痴ったとしても誰も攻められないだろう。
「シュウ、おかわりを! 我、おかわりを所望する!」
口調が変わりすぎだ。
「滑らかで濃厚なチーズに、時折顔を出す酸味。ああ、ですが表現しきれません。コレを言葉で伝えきるなんて……ですが後世にこれを伝えなくては貴族として末代まで恥に……」
ならねぇから安心して食ってくれ。
「シュウにぃ美味しいね」
「そうか。ソイツは良かったな」
隣に座る兎の獣人のサリーも笑顔だ。だが口元にケーキのクッキー生地がたくさんついている。
余程慌てて食べたらしいな。
「ほらサリー、こっち向け」
「んっ…」
クッキーの粉をタオルで拭き取ってやる。サリーは特に抵抗らしい抵抗をせずされるがままになっていた。
「よし。取れた」
「ありがとう、シュウにぃ!」
笑って頭を撫でてやると視線を感じた。顔を向けると先程まで暴走状態だった二人がさも不思議そうな表情を浮かべていた。
「料理に、お菓子作りに子守。しかも家事も万能だろ。何だろ、シュシュって男らしくない? うん、違うな。…メイド? 一家に一人欲しい感じ?」
「はっ?」
「……メイド…男なら執事ですか?……何か違いますね……主婦でしょうか? あ、いや『主夫』が正しいですか?」
冗談かと笑い飛ばそうとしたが二人の表情は想像以上に真剣だった。
「わたくし、出来れば一人欲しいです」
「あたいもさ。部屋の掃除とかしてくれると嬉しいんだけど」
あの地下室も同然の部屋の掃除など御免被る。
ケーキのおかわりを食べる者。仲良く話し込む者。次はあれが食べたいとねだりに来る者。
それぞれ違えど平和な日常の一コマ。
アルメダ王国を騒がせた反乱はこれで一応の決着を見せた。
だがシュウは自問する。はてしてこれですべて終わったのだろうか、と。
魔族との戦争は激化し、すでにかなりの数の犠牲が双方に出ていると聞く。
表向きは人間優勢と伝えられているが間違いなく戦争を優位に進めているのは魔族だろう。
そして勇者召還という一石がこの世界には既に投げ込まれてしまっている。
これから先、勇者が生み出す勢いは間違いなく世界は動かす。
果たしてそれに自分は無関係でいられるのだろうか?
目の前に広がるこの幸福な食卓を守るために剣を握るのではないか。
何故かシュウには漠然とした予感があった。
そしてそのとき自分は人間の側にいるのか、それとも……。
だがこれは長い長い物語の前の前哨戦。これから起こり始める大陸中を騒がせる事件の始まりに過ぎなかった。




