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天の杯~神の掌で踊れ~  作者: 雪ノ幸人
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第二十二話 真実と呼び出された瘴魔

「一体あれは……」


 ミリアリアはカラカラに乾いた喉から絞り出すように声を出した。

 損傷した肉体の再生。

 体中が黒く変質し、如何なる攻撃をもはね返す異形の姿

 信じられない運動能力に驚異的な攻撃力。

 件の青年が自分に見せた信じられないものの数々。事実、侯爵側が召喚した魔物は僅か数分で全滅してしまった。今なお戦闘状態にあるものの、すでに半数以上の騎士達が地面に倒れ、こと切れている。既に戦闘ではなく虐殺と呼んでも差し支えない状態だ。


『やれやれ。シュシュも加減を知らないネ。あの位の相手ならわざわざ能力を使うまでもなかったろうに』

「!? アルゴさん。あなたあれを?」

『知ってるヨ。初めに言ったよネ? あたいが握ってる情報の中でも断トツでシュシュのネタはヤバいって』


 何でもないように話すアルゴを驚いた表情で見るミリアリア。


『あたいが知ってる情報のほとんどはシュシュ本人から聞いたもんだからどこまで本当かは分からないけど、シュシュはアレの事を『魔人兵』って呼んでる』

「魔人兵……」


 鼠の姿のアルゴは視線の先に暴れ続けるシュウを捉えている。騎士たちは恐慌状態にあるのか先程までの統率のとれた動きは影も形のなく、ただ逃げ惑うだけになっている。

 次々と騎士をほふり続ける異形の姿は正に『魔人』であった。


「……彼は亜人種なのですか? 確か獣人種の中には自分の姿を変化させることのできる種族もいると聞いたことがありますが……」


 ミリアリアの脳裏に浮かんだのは随分前に本で読んだ変化メタモルフォーゼという能力である。

 獣人種の中でもさらに希少、人狼族と呼ばれる一族が持つ固有能力で自分の意志で体を獣に変化させる効果を持つ。

 シュウも似たような能力を持っているのかと考えたのだがネズミはフルフルと首を振った。


「違うネ。シュシュはれっきとした人間種サ。あれは後天的に手に入れた能力……いや、入れさせられたと言った方が正しいかナ?」

「入れさせられた?」

「……公爵様は人間種の中での最強の存在ってなんだと思う?」

「?」


 唐突な話題の転換であったがミリアリアは疑問符を浮かべながらも慎重に考えていた。


 剣士?……いえ、違いますよね。では魔術師?……それも何か違う気が……そもそも最強の定義とは?……では精霊と契約したものですか?……確かに強力ですが、最強かと問われると……

 考えた末に頭に浮かんだのは神や精霊の加護を持ち、剣や魔術を手足のように使いこなす存在、歴史の上で語ることを欠かせない強者つわものたち。


「勇者」

「正解だヨ。じゃあ、人間は初めから勇者を召還できたのかナ?」

「……いえ、そんなことはないと思いますが……」


 勇者召還は異世界人を呼び出す魔術だというのは社会的な地位が高い人間ならまず知っていることである。

 シュウにとって幸運だったのはこの二人が異世界人の存在は知っていても黒髪黒目という異世界人の特徴までは知らなかったことだ。アルメダ王国が過去一度も勇者召還を行っていないことを考えれば当然かもしれないが運が良かったことに変わりはない。


「勇者召還はね、ある研究の上で偶然発見された魔法陣を改良、書き換えしたことで使えるようになった魔法なんだ」

「ある研究とは?」

「魔族に対抗するための有効な手段を探す研究サ」


 そう言ってアルゴはやや声のトーンを落とした。


『その中の一つに強力な魔族に対抗するため人間の兵を強化しようって研究があった。それがあれサ』

「何をどうすればあのような姿に?」

『そんな難しいものじゃないサ。信じられないような速度での肉体再生。人間を遙かに上回る馬鹿げた身体能力に強靭な肉体。そんなもの持ってる存在なんてあたいは一つしか思い浮かばないネ』


 そこまで聞けばミリアリアにもアルゴが言いたいことは分かる。だがそれが本当なら問題どころの話ではない。


「魔物ですか?」

『ピンポーン! セイカーイ! 実験の名称は『人造魔人創造計画』。魔物が持つ核を人間に埋め込んで能力の上昇を目指した研究サ』

「いえ、ですがそれは……」

「分かってるサ。 もしバレれば禁忌どころの話じゃないよネ。でもこの実験は帝国、神国、皇国、三大大国の共同で行われてる。ヤツらもそんなことは百も承知だろうネ』


 自分でも体温が下がっていくのが分かった。魔族討伐のためとはいえ、なんと恐ろしいことをするのだと思う。


『亜人や死刑囚が実験でかなりの数命を落としてる。平和のためとはいええげつない事するよネ』

「彼の他にもそのような者たちが?」

『いいや。実験で生き残ったのはシュシュだけらしいよ。何でも騒ぎに紛れて脱出してきたらしいからシュシュが『魔人兵』だって知らないらしい。アイツが個々にいるのかまではわからないけど……ああ、そういうことか』


 突然納得の声を出すアルゴ。


『どうしてシュシュがあの姿になったのか分かったヨ』

「魔物を倒すためでは?」

『公爵様は知らないかもだけど、魔人兵にはいくつかの段階があるんだ』

「段階?」

『そう。普段なら姿が変わるほどの能力の解放はそうそうするもんじゃないんだヨ。大抵が目が赤くなるとか体の一部分だけ変化させるとかそんな所が関の山でネ。でも今回はアンタに見せるために姿を変えた』

「わたくしに?」

『アンタに問いかけてるんだ。化け物みたいな自分をアンタの目標のために使いこなせるのかって』


 ミリアリアの目を覗き込むネズミの目はいつも通りでありながら、普段と違う色が混ざっているように感じられた。


『あたいから見てもシュシュのあの力は完全なジョーカーだ。味方にすればこの上なく心強い。だけどシュシュを自分の懐に抱え込むのは大国の闇を引き寄せることに等しい。間違いなくシュシュのことを他の国が知ればちょっかいをかけてくるだろうヨ。自分を危険にさらす覚悟があるのか、シュウがアンタに問いたいのはそんな所だろうネ』


 そうして静かに前を向く。


『覚悟はあるかい? 亜人と人間の共存。言うのは易し、行うは難しだ。国内だけでもかなりの数の敵がいる。それでもやり遂げられるかい?』


「……必ず実現します。亜人との共存は父の夢であり、わたくしの夢。この命尽きるまで抗い続けましょう」




 ####################




「……これで最後だ」


 そう言うとシュウは自分の右腕を引き抜いた。

 腕が収まっていた左胸にはぽっかりと穴があき、とめどなく、血が流れ出している。

 シュウという支えを失った騎士の体は糸が切れた人形のように崩れると血の海に沈んでいった。鼻腔に感じる鉄臭さに思わず眉をしかめる。全身に浴びた返り血は強化された嗅覚には少々つらい。

 既に誰一人として立っている者はいない。挑みかかってきた騎士は一人の例外なく床に広がる赤い血の海に沈んでいる。


「ヒッ!」


 視線を向けるとコルニエールと目があった。明らかな怯えた表情。先程までの威勢は消え失せ、残っているのは理解できないものへの恐怖だろうか。

 一方でラリニース侯爵は落ち着いた表情だった。既に諦めているのか、何か策があるのかは判断が付かないが、その瞳は理性的な色を映しだしている。


「アンタの負けだ。大人しく捕まって裁きを受けろ。敗者のアンタにはその義務がある」

「……ああ。この悪い夢から覚めるのであればそうさせてもらうよ」


 彼からしてみれば悪い冗談だろう。私兵五十名、魔物九体が一人の人間に全滅させられたのだ。それでも、同情しようとは思わないが。


「……最後に聞かせて欲しい。お主は、人間なのか?」


 彼の問いに自分の手の平を見る。黒く塗りつぶされた腕に表面には鱗、爪は猛禽類のように鋭い。とてもではないが人間などとは言い難い。


「……ああ。アンタと同じ血の通った人間だよ」


 それでもシュウは自分のことを人間だと言った。

 何度聞かれようとも自分は人間だと言い続けよう。

 化け物とは己のことをそう認めてしまった者が成るのだという。

 シュウの顔に嘘はないと判断したのか侯爵は静かに息を付いた。


「俺からも聞きたいことがある」

「何だ?」

「『魂喰い(イーター)』の魔術式をどこで手に入れた?」

「……それを聞いてどうする? 悪いがあれを提供してきた相手は貴様だろうと一人でとうにかなるものではないぞ」

「アンタが気にする事じゃない。黙って質問に答えろ」

「……神国、反皇女派だ。その者たちが今回使った転移用のマジックアイテムと魔術式を提供してきた。見返りは教会への寄付と言う名目の資金援助だ」

「―――やっぱり、神国か……」


 シュウの顔に浮かんだのは怒りだ。だがほんの一瞬だけだったために目の前で見ていた侯爵にしても自信を持って答える事は出来なかった。


「―――貴様は何故あれを知っている? そもそもなぜ貴様はあれ程までにあの魔法を毛嫌いするのだ?」

「……昔、あの魔法で知り合いが犠牲になった」

「貴様に近しい者だったのか?」

「いや殆ど話すらしたこともない奴らだったよ」

「???」


 貴族たちは決して理解できないでだろう。無理もない。

 シュウ本人にしてもどうしてあの魔法をここまで嫌うのかはっきりと言語化できているわけではない。

 だが単純にあの時あの魔法を使われていなければ不要な犠牲は出なかったかもしれない。

 生贄にされた者たちも普通に結婚して、家庭を築いて、家族に囲まれながら死んでゆく。そんな人生を歩めたかもしれないのだ。

 在り得ないであろうIF。もう何度考えたのかも分からないが少なくともその時のことが棘のように心に残っているのは確かだ。


「ち、父上! 我らは!!」


 ようやく状況に頭が追いついたのかコルニエールが喚き始めた。彼は縋るような視線を父親に向けている。


「我らが国の中心に、私が次代の王になるのだと!」

「……儂らはここまでじゃ。手持ちの兵たちがやられた以上、もうどうすることも出来ん」

「そんな!? 私を、僕を王にするといったではないですか!!」

「王家に弓を引いたのだ、失敗すればただの逆賊だ。お前にはすまんことをしたが我らの処刑は確実だ」

「嫌だ!! 死にたくない!!」

「おい。その辺に」


「しろ」と続けようとして伸ばした手は乾いた音を立てて払われた。


「黙れ! 平民の分際で! 僕は侯爵家次期当主、コルニエール・ラリニースだぞ!! こんな所で死んで良いような人間ではない!!」


 豹変と言う表現以外が当てはまらないほどコルニエールは取り乱していた。それが具体性を帯びてきた自分の死を実感したのかどうかは分からないが、目はギラギラと輝き、まるで何かに憑かれたように目を血走らせて叫んでいた。


「お前、どうし」

「死ぬのならアンタ一人で死ね!! 僕は選ばれた人間なんだ! こんな所で死んで良い人間じゃない!!」


 取りつく島もない剣幕。普通に考えて怒られた子供が逆に親にキレ返しているようなもので自分たちをどうにか出来るようなものでは無い。だがなぜかシュウの背中はチリチリとした感覚に襲われていた。

 自分でも自答するが何故かは分からない。

 まだこの男に反撃するだけの余力があるのだろうか。


「あの(……)もそう言っていたんだ! 僕こそが王に相応しいと、神に愛された人間だと!!」


 コルニエールの剣幕に押され、決定的なフレーズをシュウは聞き逃した。


「僕は死なない!! 僕は特別だ!!」


 そう言って懐から取り出したのは五角形の盾の形をした木製の紋章だった。表面には精巧な蛇と剣が描かれ、勲章だと言われても信じてしまいそうなほど高級感を備えていた。だがシュウは取り出されたそれを見たとき自分の感覚が正しかったことを悟った。

 慌てて奪い取ろうと手を伸ばすが、シュウの手が触れるよりも速く、紋章は粉々に砕け散った。

 つかの間の静寂。

 次の瞬間、シュウとコルニエールの間に手鏡ほどの大きさの穴があいた。


「くッ」


 風を吸い込みながら、大きくなる黒い穴に危険を感じ、シュウはラリニース侯爵の襟首を掴むとバックステップでミリアリアたちのところまで距離を取った。


「シュウ、あれは!?」

「分からん。おいアンタ、あれは何だ! あれも神国から提供されたもんか?」

「知らん。あんなモノは初めて見る」


 さらに大きくなる黒い穴。おおきさが増すにつれ吸い込む風の勢いも増し、髪がはためく。

 アルゴに至ってはネズミの体が風でさらわれそうになったために早々にミリアリアの胸元に避難している。


「アルゴ、あれが何か分かるか?」

『無茶言うなヨ。あたいは情報屋であってマジックアイテムの鑑定家じゃないんだヨ。……でもあれは召喚魔法によく似てるかも』

「召喚魔法?」

『うん。あたいがネズミを呼び出すときもあんなのがでることがある』


『あんなに禍々しくはないけどネ』と付け加えた。

 やがて黒い穴は直径三メートル程でその成長を止めた。

 吹き荒れていた風も収まり、広間に先程までの静寂が蘇る。だが背中の悪寒は増すばかりだ。


 ギィアアアァァァァ!!


 生物とは思えない鳴き声と共にソイツは姿を表した。

 一言で表現するなら蜂だ。だが全長およそ五メートル、カブトムシのような足に、体表面には無数の刺々しいスパイクが生え出ている。

 だが何よりもその全身から発せられる雰囲気は異常だ。一目見るだけで普通の魔物とは明らかに格が違うのが分かる。


「……タイプ・デーモンだ」

『おいおい、冗談だろ!?』

「あれが、デーモン種……」


 瘴魔種タイプ・デーモン

 別名、『生きた災厄』。

 魔物は鬼種オーガ複合種キマイラ狼種ウルフ植物種プラント骸種スカル竜種ドラゴンと種類が多岐にわたる。

 中でもデーモン種と呼ばれる魔物は危険度において他の魔物と一線を画する。

 オーガ種を越える頑強な肉体に、キマイラ種を越える魔法耐性、スカル種、ドラゴン種を越える特殊能力。

 相手をするためには国家クラスの戦力と多大な時間を必要とする。せめてもの救いは個体数が多くないことだが目の前に対峙している現在ではあまり意味はない。


『……シュウ。アレはやばいなんて話じゃないヨ。この場の全員を連れて逃げられるかい?』

「無茶を言うな。お嬢様を一人担ぐので精一杯だ。それよりもアレを此処で倒せなきゃこの国は終わるぞ」

「分かってるサ。だけど今回ばっかりは相手が悪すぎるヨ。……それにシュシュもそう長くはその状態を維持してられないだろ?」

「……まだ暫くは平気だ」


 強がったもののあまり余裕がないのも事実だ。保って後十分が限界だろう。魔人兵としての能力の解放はかなりの戦力だが相応の危険リスクがある。危険リスクを無視した使い方は自分だけでなく、周りも滅ぼしかねない。


「シュウ、わたくしに案があります」


 閉塞しきった状況を打破したのはミリアリアだった。

 視線を向けると彼女は自分の首からペンダントを取り出す。


「これは転移用のマジックアイテムです。一度きりですが任意の場所に転移する効果があります」

「何処にあれを転移(飛ばす)気だ? 下手に街の近くに飛ばせば壊滅させられるぞ」

「昔一度だけレーガナス山脈に視察に行った事があります。あそこならそう簡単に人は立ち入らないはずです」


 レーガナス山脈は周囲を深い森に囲まれた山脈地帯である。火山活動は起きていないが魔物が多く生息しているために冒険者でもそう簡単に近付く場所ではない。


「ですが、先程も申し上げたとおりこれは使い捨てです。それに転移させるには対象に触れる必要がある上にわたしくしの魔力でしか発動しません」

「……要するにソイツを使うためにはアンタを守りながらあの魔物に直接触れるくらい接近する必要があるわけだな?」

「そうなります」


 悪くない手ではある。だがチャンスは一回。しかもあの巨体の攻撃をかいくぐって接近するのはかなり厳しい。人一人抱えて戦うなら尚更だ。


「ハッハハハ。素晴らしい!  これなら勝てる、勝てるぞ!」


 先程までの様子と打って変わり、勝利を確信し、高笑いを始めるコルニエール。

 彼は懐から魔物を操る水晶を取り出すと蜂型の魔物に向けた。


「さぁ、私の命に従ってアイツ等を殺せ!」


 だが魔物はいっこうに命令を聞く素振りを見せず、辺りをキョロキョロ見回している。その姿は迷子になった幼子を連想させた。


「どうした! 魔物風情が、私の命令を聞け!」


 いらだち紛れに怒鳴り散らすコルニエール。蜂型の魔物はその声でコルニエールの存在に気が付いたのかキョロキョロさせていた視線を真っ直ぐ側で騒ぐコルニエールに注いだ。


「な、何だ。さっさと」


 次の瞬間、コルニエールの体を魔物の足が通り抜けていた。


「あッ、あ…れ?」


 ズルリと魔物の足が引き抜かれるとコルニエールは崩れ落ちた。くそッ。間違いなく致命傷だ。


「コニー!!」

「ラリニース侯爵、いけません!」

「バカ、戻れ!」


 制止の声を無視し、侯爵は致命傷を負った息子へと一直線に駆ける。

 シュウは慌てて後を追うとするが魔物が大きく息を吸い込むのを目にする。ヤバい!。

 予想通りなら一発で此方が全滅しかねない。シュウは片膝を着くと高速で詠唱を開始。

 だが魔術が完成するよりも早く魔物の口から黒い霧が吐き出された。


「あアアあぁぁぁぁあ!?」


 侯爵が霧に触れた途端、一気に老化が進んだように体中が痩せこけ、骨と皮ばかりになって倒れ込む。

 黒い霧はまるで波のように横に広がりなから此方を飲み込まんと迫る。


「あれは!?」

『まずい、瘴魔デーモン特有の瘴気だ! シュウ!』

「…風よ盾となれ!」


 ギリギリで詠唱が間に合い、全員をを包み込むようにして風の壁が展開。

 シュウたちに迫っていた黒い霧は風に阻まれ、彼らに到達することなく、辺りを覆った。


「……間一髪だったな」

「シュウ、この霧は何ですか?」

瘴魔デーモンが使う瘴気だ。麻痺、毒、吐き気、衰弱などの状態異常を起こす。最大に厄介なのは生命力……魔力を奪い取る性質があることだ」


 瘴魔デーモンが『生きた災厄』と呼ばれるのもこれに起因している。

 そこにいるだけで人に病気を振りまき、町を国を疲弊させる。また一度瘴気を展開されれば魔力の吸収作用で対抗手段がない歩兵は息絶え、魔術師の遠距離攻撃魔法もその威力を大幅に減衰させられる。

 今回シュウが展開したのは風の障壁だ。風を操作することで防壁の代わりとしているため、魔力の吸収作用での減衰も最小限に押さえられている。


「アルゴ、お前は此処でそこの王様を見ていてくれ。お嬢様、悪いが協力してくれ。アレを倒すのには俺一人じゃ荷が重い」

『了解だヨ』

「はい。そもそもわたくしが言い出した策ですから」


 二人の顔を見て小さく頷く。そしてミリアリアの顔をじっと見つめた。


「あ、あの何かわたくしの顔に付いていますか?」

「―――いや。この姿を見た割には怖がらないと思ってな」


 人間離れした異形の姿で本当に不思議そうに首を傾げるシュウにミリアリアは小さく笑みを浮かべた。


「アルゴさんからお話は聞きましたが、正直全ては信じきれたわけではありません。ですが、貴方という人を見ていてそれほど危険な人物には見えませんでしたので」

「買いかぶり過ぎだと思うが」

「いいのです。もし本当にそうであったならわたくしの見る目がなかっただけですから」


 そうしてミリアリアが浮かべたのは『聖女』にふさわしい慈愛の籠もった笑みだ。

 容姿に加えて性格まで良いなんて反則だななどと考えながらシュウは静かに立ち上がった。


「よし。行こう」

「はい」


 王都での内乱は最終局面に入っていた。

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