第十七話 シュウによる考察
飛竜の討伐に成功し、残りの魔物の掃討に移ろうと考えていたシュウだったが、思わぬトラブルに見舞われていた。
「この飛竜を君が倒したと」
「だから、さっきから何度もそう言ってんだろ」
冒険者の三人をの手当をすませ、送り出した後、現場には飛竜討伐のために派遣されてきたと思われる騎士たちが騎乗した騎士を先頭にやってきた。
逃げるわけにもいかず、話を聞かれているという状況である。
「しかし信じられん、飛竜を一人で討伐するとは」
「運が良かったんだよ」
「運で竜種を倒せるものではないだろう」
礼を欠片も払わないシュウに取り巻きの騎士たちは不快感を露わにするが、竜種を目の前の平民の男が討伐したと半信半疑ながら話を聞きつつ、事の推移を見守っている。
するとそこに赤い髪の騎士を先頭にした一団が近づいてくるのを目にした。
「ガイラ殿、どうしてこちらに?」
「ミリアリア様より城下の魔物の討伐を請け負った。竜種が首を落とされ、落ちていくのを遠くから目にしたので確認に来たんだが、一足遅かったようだな」
その視線から竜種を討伐したのが自分達だと考えていると悟った騎士は誤解を解くべくシュウを指差した。
「いえ、我らもつい先ほど到着したばかりなのです。現場に居たこの者に事情を聞いたところ自分が竜種を討伐したと申しますので」
「ほう、誰が……ってシュウ殿か」
「どうも、ガイラ団長」
「……お知り合いですか?」
ガイラは騎士に視線を合わせると大きく一つ頷いた。
「ああ、この者が言うなら本当だろ。実力なら俺が保証する」
「なんと!」
騎士団長として有名なガイラが保証するのであれば間違いない。周りの騎士達も竜を単独で討伐したのが平民という事で小さくどよめきが起こり、驚きを隠せないでいた。
シュウはそんなものはお構いなしにガイラに対して口を開いた。
「アンタあのお嬢様の側を離れて大丈夫なのか?」
「ミリアリア様からは許可をもらっている。王との魔物の討伐が最優先だそうだ。それにあの方には王の護衛としてラリニース侯爵がついている。」
「ラリニース侯爵?」
「貴族派の有力人物だ。御子息が率いた騎士団が護衛につくと言っていた。他にも貴族派のが護衛についている、危険はないだろう」
ラリニース侯爵の息子と聞いて彼の脳裏に浮かんだのは『憩いの虎』で騒ぎを起こした例の人物だった。あれが護衛につくと言われても全く安心できないかったが。
「他には誰かいないのか?」
「―――それほど心配そうにしなくてもラリニース侯爵に近しい貴族たちも城に残っている。近衛騎士に比べれば劣るだろうがそれでも皆きちんと訓練された騎士ばかりだ。心配するようなことは起きないだろう」
「だと良いんだがな」と漏らしたシュウはそこである事に気が付いた。
(……犯人はどうして魔物を城下に放ったんだ? この国に大きな被害を与えることが狙いなら直接王城に魔物を呼び出した方が有効なはずだ。……いや。そもそも何故王城傍に魔物を呼び出さない? それにどの魔物も王城に背を向けるようにして行動してる。まるで……)
―――王城に人を近づけないように―――
「……おい待て、じゃあ貴族派が殆ど城に残っているってことか?」
頷くガイラに背筋が冷えていく感覚に陥ったシュウは辺りを見回し、大声を上げた。
「アルゴ!!」
唐突に叫びだしたシュウを周囲の騎士たちはいぶかしむ視線を向けたが本人は関係ないとばかりに呼び続けた。
「アルゴ、いるんだろ、出てきてくれ!」
「……呼んだかな?」
近くの茂みから飛び出してきた白いネズミは周りの騎士たちが驚くのにも関係ないとばかりにシュウの肩を一気に駆け上がった。
「お前がこの間言ってたヤバいネタってのを教えてくれ」
「何で?」
「お前、今回の事がある程度予想できてただろ」
「……」
無言のネズミの様子を肯定と取り、シュウは自分の推理を語っていく。
「初めに気づくべきだった。お前が言ってたヤバいネタってのは魔物の王都襲撃じゃなく、魔物を利用しての反乱だ」
反乱と聞いた騎士たちからざわめきが起こる。
「首謀者はラリニース侯爵と他数人の貴族。目的は……王女以外の王族の殺害と王女を利用しての王位の簒奪ってとこじゃないか?」
「……ご明察。ただ自己弁護を許して貰えるなら、あたいが知ってたのはラリニース侯爵家が反乱を起 こすとこまで。魔物を利用するとは知らなかったヨ」
「おいおいちょっと待て、どういうことだ? 説明してくれ」
驚いて混乱しているガイラにシュウは話し始めた。
「今回の事件は自然に起こったもんじゃない。ラリニース侯爵が王族を殺すために、仕組んだものだ」
「そんな事をして何の特がある?」
「今の王は完全ではないが亜人擁護派だ。だからこれまで直接戦争に参加してこなかった。亜人排斥を掲げるラリニース侯爵してみれば今の状況は面白くないはずだ」
「いや、だからってここまでの事をするか?」
「直接的な動機はおそらく魔族との戦争への参加だ」
戦争に?と目で問いかけてくるガイラに頷きかえす。
「推測だが、ラリニース侯爵は魔族をアルメダ王国が討つことで他国に対して発言権を持ちたいんだろ。今この国は大国に数えられているがラルナ教国、ガリア帝国と言った戦争に積極参加している国と比べるとどうしても見劣りするからな」
「だが王を殺したとしてもラリニース侯爵が王になれるわけではないだろう?」
「普通ならな」
シュウは一度言葉を切ると再度話し始めた。
「言っただろ、王女以外の王族の殺害だって。国内に侵入した魔物を使って王族を殺害、その後自分たちが魔物を討って仇を取る。偉大な王を失い混乱する国民と失意の中にある王女、そこに混乱を収束させ王の仇を討った英雄が出てくれば……」
「自然と王女との婚姻が決まり、新たな統治者が生まれる」
「その通りだ」
良くできているとガイラは思った。
魔物を使って恐怖を植え付け、それを解決する事で民の心をつかむ。
しかしそこでふとあることに気がついた。
「王位継承権第一位のフィリップ王子はどうするんだ? 今は遠征中で王都には居ないはずだが……」
「それこそ、疲労して帰ってきたところを魔物を使って襲わせれば一発だろ。近衛隊がいくら強くても遠征で疲労したところを飛竜を含めた魔物に複数で襲われればひとたまりもないだろうからな」
信じられんといった表情のガイラからネズミへと視線を移す。
「アルゴ、今回の事件、背後にいる黒幕は誰だ?」
「ラルナ教国、反女皇派。幾つかマジック・アイテムを渡してるみたいだから間違いないと思うヨ」
「ラルナ教国!?」
他国が関係しているとは考えていなかったようで、ガイラと周囲の騎士たちは揃って驚きの声をあげた。
「奴らの目的は?」
「最近皇女派が勇者召喚に成功したことで益々その勢力を縮めつつあるんだヨ。うちの国が戦争に参加する事で勇者の活躍する場を減らしたいんじゃないかナ?」
「奴らが渡したマジック・アイテムは?」
「ゴメン、そこまではわかんないナ。でも魔物をある程度制御出来る類の物だと思う。魔物たちは派手に暴れてるけど、死傷者はそこまで多くないから。むしろ火災なんかの被害の方が大きいかもネ」
シュウは黙り込むとこれからのことを頭の中で組み立てていった。
「ガイラ団長、俺はこのまま城に向かう。団長は残りの魔物を討伐してくれ」
「一人で行ってどうする。間違いなく相手は戦力を整えているはずだ。下手をすれば返り討ちに合うぞ」
「大勢で動けば相手に気づかれる。少数で動くのがベストだ」
「危険すぎるぞ。『鬼蜘蛛』を倒したときとは訳が違う」
「時間をかければそれだけ危険度が上がる。それに……俺個人だけなら、魔物が何体いても倒せる術がある」
睨み合ったまま互いに視線を外さない二人。
一秒が十秒にも一分にも感じられる沈黙の中、やがて視線を先に外したのはガイラだった。
「……分かった。行け。……ただし無理はするなよ。俺も魔物を片づけたらすぐに向かう」
ガイラに無言で頷くとネズミを肩に乗せたまま地面を強く蹴った。
ガイラは一歩で建物の上に跳躍し、その勢いのまま次々と建物の屋根を足場にして駆けていったシュウを見送ると騎士隊に向き直った。
「俺たちも魔物の掃討に移るぞ。遅れを取るな」
「だ、団長」
そこで手を挙げたのは今年入団した若い青年騎士だった。
「彼は何者なのですか?」
この言葉はこの場にいる全員の気持ちを代弁していた。
竜種を単独で討伐できる戦闘能力、魔法や政治に対しての深い知識、それを活用し事態を見極める洞察力。
彼が疑問を口にするのも当然と言えた。
ガイラは数秒思案する仕草を見せると、口を開いた。
「そうだな……ちょっと変わってるが何処にでも居る冒険者だ。ただ……」
「ただ?」
身を乗り出して聞いてくる騎士に小さく笑みを作る。
「俺たちの国を何とかしてくれるかもしれない冒険者だな」




