第九話 ダンジョン
「ゴミ拾いにドブ掃除、下水道のネズミ退治、う~ん、ろくな依頼が無いわね」
冒険者ギルド、ロビーの壁に掛けられた大きなボードに貼られた依頼書を見ながら私は呟く。
久しぶりにベットで快適な睡眠をとった私は、翌朝、食堂でリバティと合流。
定食五人前を平らげた後、本日の予定としてGランク冒険者になったリバティのお金稼ぎをしようと思い、ギルドのロビーに来たのだが、張り出されている依頼は、どれもこれも街中での雑用と言った仕事ばかりだ。
その原因は、張り出されている警告文だろう。
そこには、近隣の森への立ち入りを禁止すると書かれていた。
間違いなく、先日の魔獣ビッグベアの出現に対する処置であろう。
そのせいで、外での魔獣狩りの様な仕事を、ギルドが止めているのは明白だ。
カウンターに目を向けると、金髪ロングヘアーの受付嬢メグを発見する。
「おはようございます、シャオさん、リバティさん」
カウンターに近づくと、こちらに気が付いたメグが挨拶をしてくれた。
「おはよ、ところであの警告文って」
「はい、脅威度Cランクの魔獣が出現したと言う事で、近隣の森への冒険者の立ち入りを禁止いたしました」
「あぁ、やっぱり」
「現在、Bランク冒険者のアクセルさんを中心とした調査団が、森の魔獣調査を行っております」
「あのモヒカンのおっさんが?」
「アクセルさんが集めた実力と信頼の置ける冒険者さんたちの他に、魔導師協会から派遣された魔道士と、冒険者ギルドの職員も何名か同伴しています」
っとなると、調査が終わるまで、外での魔獣狩りは、効率が悪いな。
森の中に行かなくても魔獣は居るが、依頼の無い魔獣をわざわざ捜しに行くのも面倒だ。
「何か儲かる依頼って無いの? 私は良いんだけどさ、ほら、連れがね」
「う~ん、そうですね~」
メグは、少し考える仕草をすると。
「依頼ではございませんが、シャオさんとリバティさんの冒険者ランクでしたら、迷宮探索と言う方法もございます」
「この街の近くにダンジョンがあるの?」
「はい、こちらのダンジョンは、Fランクのコアダンジョンになっております」
「そのダンジョンって攻略済み?」
「はい、既に攻略済みのダンジョンでございます」
攻略済みのFランクのコアダンジョンか。
私にとっては物足りないダンジョンだが、リバティのお金稼ぎには、丁度良さそうだ。
「本来でしたらGランク冒険者のリバティさんは、Fランクダンジョンには入れませんが、Cランク冒険者のシャオさんとパーティーを組んでおりますので問題はありません」
「リバティ、ダンジョンで一稼ぎしようと思うけど、どうかな?」
「シャオに任せるよ」
「わかった、私とリバティでダンジョンに潜るから、通行証を発行してよ、代金はツケでね」
「かしこまりました、それでは通行証を発行いたしますのでギルドカードをお貸しください」
私とリバティがギルドカードを渡すと、メグが手続きを始める。
「ところでシャオ、ダンジョンと言うのは、どう言う所なんだ?」
「あ~、リバティは、ダンジョン初めてか、それじゃあ冒険者の先輩である私が教えてあげるわ」
っと言っても、私自身そこまで詳しくないんだけどね~。
ダンジョンには、主に二つの種類がある。
一つは、古代遺跡や古代神殿などの天然の迷宮。
もう一つは、ダンジョンコアと呼ばれる核によって創られた迷宮。
私たちがこれから行くのは、ダンジョンコアによって創られた迷宮、通称コアダンジョンの方だ。
ダンジョンコアと呼ばれる核が何なのかは、実際の所、よく分かっていない。
まあ、私は魔導師でも、研究者でもないからね。
分かっている事は、ある日突然出現し、迷宮を構築する事。
貴重な鉱物、魔法の武具やアイテムが眠っているが多くある事。
ダンジョンモンスターと呼ばれる、怪物が生息している事。
そして、最大の特徴は、進化する迷宮である事。
ダンジョンコアで創られた迷宮の多くは、冒険者ギルドが管理しており、迷宮の入り口には、結界が張られていて、中に入るにはギルドが発行する通行許可証が必要である事。
「って、とこかな」
「詳しいんだな」
「ただの受け売り、後は、実際に行って見た方がはやいわよ」
そうこう言っている間に、メグが通行許可証を持ってくると、私たちは、探索に必要な道具をギルド内でツケで買い、散歩気分でダンジョン探索へと出かけた。
◇
街を出てから数十分後。
私とリバティは、冒険者ギルドで教えてもらったダンジョンに到着した。
ダンジョンの入り口には、結界が張られていて、入る者を拒んでいる。
この結界は、魔導師協会の優秀な魔導士が、数十人がかりで張った結界らしい。
結界を解除するには、ギルドで貰った通行証を押し当てれば、一時的に結界が解除される仕組みだ。
ちなみに、この通行証は、一種のマジックアイテムになっているらしく、一回限りの使い捨てだ。
入る時は通行証が必要だが、出る時は、結界を素通りできる。
私は、入り口の結界をギルドで貰った通行許可証を使って解除すると、地下へと続く階段を降りていく。
階段を下りると、幅広い通路が現れた。
「どう、始めて入ったダンジョンの感想は?」
「思っていたよりも明るいな」
「天井、床、壁に魔力があって、それが明るさを出してるみたい」
明るいとは言っても、地下の迷宮、通路は薄暗く、奥の方までは見えない。
普通なら松明やランプを持って探索をするのかもしれないが、私にとってはこれくらいの暗さは問題にならない。
「妙な感じだ、まるで巨大な生き物の中に居るようだ」
石造りの壁や天井を見回し、リバティが短い感想を言う。
鋭いな、ダンジョンの知識が無いのに、本質を見抜くんだから。
そう思いながら私は、冒険者ギルドで買った攻略書を取り出す。
「何だい、それは?」
「これは、攻略書」
攻略書。
それは、未探索のダンジョンに潜った冒険者たちが持ち帰った情報を、冒険者ギルドが買い取り、まとめた薄い本。
各フロアのマップ、ギミック、トラップ、出現するダンジョンモンスターなどが書かれた攻略本である。
私たちにとってFランクのコアダンジョンなんて、攻略書無しでも良いのだが、今回は、ダンジョン初心者のリバティがいるので、サクサク探索する為に買っておいたのである。
「便利なモノだな」
「このダンジョンは、攻略済みだからね」
そう言いながら、攻略書を広げた。
このダンジョンは、全部で地下四階層、ダンジョンコアの創りだした迷宮としては、低ランクであり、まさに初心者の為のダンジョンだ。
出来て日が浅いコアダンジョンは、階層も浅くて、手に入るアイテムも、出て来るモンスターも大した事はない。
ちなみに、進化した高ランクのコアダンジョンともなると、地下五十階層や、地下百階層を超えるモノもあるとかないとか。
また、どのコアダンジョンにも、最下層の最深部には、ダンジョンコアのある部屋(通称コアルーム)があり、その部屋に続く通路を守る、迷宮のボスと呼ばれるモンスターがいる部屋(通称ボスルーム)がある。
まずは、ダンジョン初心者のリバティに説明する為に、宝箱のある部屋を目指そう。
最終的には、迷宮のボスを倒すのが目的だ。
ついでに、通路を歩きながら、出現するダンジョンモンスターを確認する。
「このダンジョンに出るダンジョンモンスターは・・・スケルトン系のみか」
懐かしいな~。
村に居た頃、人体を破壊する勉強の為にダンジョンに潜って、スケルトンの骨を砕きまくったもんだわ。
どの角度で蹴れば衝撃が逃げずに骨が折れやすいとか、どうすれば力を入れずに関節を破壊できるかとか試したな~。
昔を思い出しながら歩いていると、通路の途中の壁に木製の扉を見つける。
最初の目的地に到着だ。




